131.
「まず、私のほうからいくつか質問させてもらいます。前田さんがこのマンションに移ったのは奥の手引きですね」
「ええ、そうです」
「それは、なぜだと思います」
「なぜというのは?」
「あなたをここに移した理由です」
「監視のためでしょうか」
「あなたの滞在先さえわかっていれば監視はできます。あなたを利用しようという場合でも同じです。なにもこんなところを用意する必要はありません」
「つまり、どういうことです?」
「簡単に考えれば、あなたの時間を無駄にすることができます。この移動のおかげで、考えることがたくさんできたでしょう」
「考えること、ですか」
前田は思い当たることがしっかりあるようだった。須田はうなずいて続けた。
「まあ時間稼ぎです。奥はあなたを空回りさせることが目的でしょう。問題はその時間であの男が何をするつもりかということです」
「待ってください。なぜ私に対してそんな時間稼ぎを仕掛ける必要があるんですか」
「あなたはずっと奥を追っているんでしょう? それなら奴が用心深く慎重で、なかなかしっぽをつかませない人間だというのはわかっているはずです。保険をかけるのを怠ることは、ないと思いますね」
「自分が逃げ出す準備を邪魔させないようにする保険、ですか」
「そうかもしれません。それは私よりもあなたのほうがよくわかるかもしれませんね。あなたは奥を何年追っているんです?」
前田は口を開こうとしたが、少し躊躇した。だが、すぐに力を抜いて口を開いた。
「5年前からですよ。あなたは知ってますよね?」
「ええ、知っています。あなたも特別隠しているというわけでもないでしょう、前田武志という本名を使っているわけですから。それに私のところに来たわけですから、それを期待していたのではないですか? それとも、私を試した、といったところでしょうか」
須田の言葉に前田はうつむいて黙り込んだ。そのまま数十秒が経って、前田はおもむろに顔を上げた。
「奴に報いを受けさせてやりたいんです。協力してください」




