130.
須田は前田と会うことにした。とは言っても、正面から会うのではなく、例のマンションで待つつもりだった。前田の情報がそれほど役にたつとも思えなかったが、今の前田のインサイダーとしての立場は利用できそうだった。
前田を役に立たせるためには、奥と接触することができなければいけなかった。せっかく情報源とゆさぶりをかける相手が見つかっても、対象に直接働きかけることができなければ意味がない。
奥にどう接触するか。直接あの雑居ビルに乗り込むか。それとも奥が来そうな場所で張り込んで捉まえるか。須田はどちらにするか迷いながら、前田のいるマンションに向かっていた。
マンションの前まで到着した須田は、辺りを一回りして何も異常がないのを確認した。前田に対する見張りでもいるかと想像していたが、そういった人間はいないようだった。前田が出て行ってそれについていったのか、それともそもそも監視がついていないのかは現時点では判断できないことだった。
外から見た限りでは前田が戻っている様子はなかったが、部屋まで行くつもりはなかった。奥や森川と鉢合わせになるわけにもいかない。
前田が出て行くか戻ってくるか、それまでじっくりと待つことにした。
それからしばらくして、前田が戻ってきた。須田はそれを注意深く観察して、誰にもつけられていないのを確認してから、前田が呼んだエレベーターのドアが閉まる直前に駆け込んだ。
「須田さん」
前田は驚いてそれだけしか言えないようだった。須田は特に表情を変えなかった。
「特に監視もいないようだったのでお邪魔しました」
「そうですか、それで何でしょうか」
「それはあなたの部屋で話し合いましょうか」
2人は無言で部屋に入っていった。須田は部屋に入ると、無言で一通りのチェックをした。特に何も見つからなかったようで、すぐに戻ってきた。
「何もないところですね」
「ええまあ、私物はほとんどありませんから」
「他に何かありませんでしたか? 例えばどこかに隠されたものがあったとか」
「隠されたもの、ですか」
前田はポケットに手を入れて、そこに入れておいた錠剤に手を触れた。
「まあそれはいいです。それよりもこれからのことを相談しましょうか」




