129.
前田はいつの間にか須田の事務所に向かっていた。事務所の前に到着したが、入る決心もつかず、周りをうろうろしていた。数分間そうしていたが、なんとか事務所の前まで来た。しかし、ドアには外出中という須田の連絡先が書かれた紙が張られていた。前田はその連絡先をメモした。
それから須田に連絡すべきかどうか、さらに迷った。だが、結局連絡することにした。
「もしもし、前田です」
「どうしました、なにかありましたか」
「ええ、ちょっと相談したいことがありまして」
「どうぞ、と言いたいところですが、あなたはすでに依頼をキャンセルしているはずです。改めて仕事を依頼するということでいいのですか?」
前田はしばらくの間黙った。大いに迷っていた。
「もし改めて依頼をされるということなら、引き受けましょう。料金はお返しした金額と同額払っていただくことになります」
「はい」須田の言葉に前田は背中を押された。「依頼をします」
「そうですか、ありがとうございます。では依頼内容を聞かせていただけますか」
「今、電話でですか?」
「大雑把でかまいませんよ」
「そうですね、では質問があるんですが、何もできることがなさそうな状況の時、どうしますか?」
「できることを考えますよ」
「それでも何も考えつかなかったら、どうするんですか?」
「自分の行動をしっかり点検してみることですね。必ずやってないことが見つかります」
やっていないこと。前田は考えたが、すぐに浮かんでくるものではなかった。
「何も思い浮かびませんね」
「そうでしょうね。あなたは今、自分がやっていなかったことをやったばかりですから」
「それは、何を」
「私に依頼をすることですよ。ごまかしではない依頼を。後は、依頼内容を教えていただけるといいですね」
一瞬前田は迷ったが、再び須田に依頼をした以上、答えは一つしかなかった。
「奥という男がいます。その男の目的としようとしていること、それを調べてください。できるだけ早く」
「わかりました。ちょうど私もそれを調べていたところです。できれば、前田さんの知っていることも聞かせていただきたいですね」
「それは、すぐにはできそうにありません」




