120.
吉田から話を聞いた須田は三山の店に向かっていた。森川が出てきた場所がわかったので、とりあえずそこは押さえておくべきだった。三山ならそれができる。
今の時間では表は開いていないので、須田は裏から店の事務所に入った。中では三山が帳簿と格闘していた。須田が事務所に入ると、三山は顔を上げた。
「例の件で進展でもあったか?」
「ああ、それで手を借りにきた」
「俺は忙しいんだから、ほどほどにしてもらいたいね」
三山はそう言いながら、帳簿を置いて須田の方に向き直った。須田は手近な椅子を引っ張って腰を下ろしてから、森川の写真を取り出した。
「こいつを見たことがあるか」
三山は写真を受け取って、しばらくの間じっと見ていたが、難しい表情で顔を上げた。
「いや、知らんな。何者だ?」
「森川っていう探偵らしい男だ。どうも今回の件で色々と動いている」
「お前さんと似たようなことをやってるってわけか。ずっとここらで仕事をしてるなら、知っててもおかしくなさそうなもんだが」
「昔はまともな仕事をやってたらしいが、最近は裏に潜ってたのか、それとも飛びまわってたのか、こいつを知ってる人間も名前を聞くこともなかったらしい」
「そりゃ厄介だな。それで、どうしようっていうんだ?」
「最近森川が現われた場所がわかってる。人手さえあればなんとか捉えることができるかもしれない」
「そういうことか」三山は立ち上がった。「若い連中にバイトをさせてやりゃいいんだろ、わかったよ。で、場所はどこだ?」
須田は黙って吉田から聞き出した場所のメモを三山に渡した。
「俺は他に調べたいことがあるから、そっちはまかせる。なにかあったら連絡をくれ」
「まったく、こんな面倒くさいことはさっさと片付けてくれよ」
「そのつもりだ」
そう言って須田は三山の事務所を出て、前田と森川を見たマンションに向かった。森川はともかく、前田は出入するだろう。それをたどれば、なにか収穫が得られるかもしれない。確実とは言えない方法だったが、今できることではこれが最善だった。
マンションに到着してみると、見た目からわかるものでもないが、特に何かあった様子もなさそうだった。とりあえず張り込み場所を探すことにした。




