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12.

 30分ほどたったころ、事務所のドアが勢いよく開いて、長身で髪の毛が薄い男が息を切らして入ってきた。

「どうもどうも、遅くなりました」

「いや、あんたにしては早いじゃないか、まあ座ってくれ」

 三山がそう言うと、男は三山の隣に腰かけた。

「紹介しよう。弁護士まがいの吉田と、探偵まがいの須田だ」

 吉田と須田は、どちらからということもなく握手をした。手を離すと、吉田は三山のほうを向いて口を開いた。

「三山さん、私は正規の資格を持ってるんですよ。まがいというのはないでしょ」

「俺も、まがいじゃなくい探偵だ」

「黙れよこの半端もんども」三山は二人を睨みつけた。「人の話は黙って聞くもんだ。特に金になりそうな話はな」

 須田と吉田は軽く視線を交わして、心もち肩をすくめた。もちろん三山はそんなことは無視した。

「これから話すことは、お前ら二人とも良く知ってるはずだ。今話題のテンパッったヒモの話だからな。おっと、まだ何も言うなよ、口を開くのは俺の話が終わってからだ。須田、俺が話してやったから、事のあらましはわかってるよな、しかしまあ、あれは一部でしかない。吉田、あんたの知ってることを話してもらおうか」

 吉田は溜息をついた。

「私が話さないと、あなたも話してくれなんでしょうね」三山は早くしゃべるように、顎でうながした。「わかりました、話しますよ」

「まあ、三山さんには話してるんですけどね、須田さんとは初めてですから、最初から話しましょうか」

 須田は軽くうなずいた。

「事の起こりは一ヶ月ほどまえです。私の事務所に一人の男がやってきましてね。アドバイスが欲しいと言って来たんですよ。それほど金回りの悪い男に見えなかったし、私の手がちょうど空いていたんでね、とりあえず話を聞くことにしたんです」

「早く本題に入れよ」三山が口をはさんだ。「それとな、くだらない嘘はつくなよ。お前の手はいつでも空いてるだろうが」

「痛いところをついてくれますね。まあ、そんなわけで、話を聞いたんですが、これがなかなか用心深い男で、本題に入ろうとしない。私をテストしてるつもりだったんでしょうね」

「で、どうやら私はテストに合格したようで、こんなことを言い出したんですよ。先生、実は契約してる弁護士に裏切られちまったんだ。そこで、先生を見込んで相談なんだが、何かあったときは力を貸して欲しいんだ。うまくいったら、あんたを顧問にして契約してもいい」

「あんたを見込むとは、よほどの節穴だな」

「三山さんの言う通りでしょうね。あの男の目は節穴でしょう。テストの内容からして、私の倫理観がどの程度か量ってたんでしょうが、なんと彼には私が悪徳弁護士に見えたようですから」

「依頼人の利益のために動くのがまともな弁護士で、悪徳弁護士というのは依頼人を裏切るものだから、かな?」

 須田の言葉に吉田は大きくうなずいた。

「くだらない男でしょ。丁重に追い返してやりましたよ。まあ、私に断られたときの彼の顔はなかなかユニークでしたよ」

「よし」三山は須田の顔を見た。「次はお前の番だ」

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