119.
須田は警察署で石村のデスクの隣に座っていた。
「その森川っていうのが突破口になりそうなのか?」
「ああ、今のところ一番有力だ」
「そうか、聞いたことでもあればよかったんだけどな。残念だが、その男のことは初耳だ」
「一応写真もある」
須田は森川の写真を石村に手渡した。石村は首をひねりながらその写真を見ていたが、すぐに首を横に振った。
「やっぱり知らんな。ちょっと他の連中に聞いてくる」
石村は写真を持ったまま立ち上がって、その辺りの人間を捕まえて写真を見せてまわった。しかし、結果はよくないようだった。
「駄目だ。もっと広い範囲にばら撒いて調べたほうがいいだろうな」
「それは絵描きに似顔絵を頼む。まあ、それ以外にも心当たりがあるにはある」
「それは頼もしいな。頼んだぜ」
山中に似顔絵を頼んでから警察署を後にした須田は、吉田のところに向かった。
「吉田さん、須田です」
吉田は恐る恐るといった感じでドアを開けた。須田はそれを気にすることもなく部屋に入った。
「今日は見てもらいたい写真があります」部屋に入るなり、須田は森川の写真を吉田に差し出した。「この男をご存知ですか?」
吉田の顔色が変わったのを須田は見逃さなかった。
「ご存知なんですね。今回の件を解決するためにはどうしてもこの男の情報が必要です。協力してもらえますね」
吉田は黙ってうなずいた。
「この男と会ったことはありますか」
「ええ、何度か」
「では、その場所を教えてください。」
少しためらいを見せたが、すぐにあきらめたような表情になり、吉田は口を開いた。
「わかりました。大したことではないでしょうが」
恐る恐る語りだした吉田の話を、須田は手帳を取り出して熱心に聞いた。




