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108.

 前田は須田が立ち去るのを見届けてから、あてもなく街をさまよっていた。奥の連絡先がわからないのだから、そっちからの連絡を待つしかなかった。そうして時間の感覚を失って街をさまよっていた。気がつくと、滞在しているホテルの前に着いていた。

 部屋に戻ってドアを開けると、ドアにはさまれていたらしい紙が床に落ちた。それを手に取ってみて、ドアをきっちりと閉めてから見てみると、どうやら奥からのメッセージらしかった。

 須田の動きを知らせろということと、遠まわしな脅しのような文句が書かれていた。連絡先は書いていなかった。その紙をしばらく見つめていると、電話が鳴った。フロントからの電話の取次ぎだった。偽名であったが、前田にはすぐに奥だと察しがついた。

「なんでしょうか? なにか動きでもありましたか?」

 前田の一言に、奥は声を出さずに笑っているような雰囲気の沈黙を返した。

「おいおい、あの探偵に会ってただろ。そこで何を話してたのか、ちょっと教えてもらいたいだけだよ」

 どこから見ていたのか、前田はそれを考えたが、すぐにやめた。見られていたということだけわかればそれでいい、どうせ監視している人間を割り出したところで、重要なことは何ひとつわからないだろうから。

「別に、大したことは話してない。あんたに言われた通りのことを話しておいただけだ」

「ほう。で、反応はどうだったんだ?」

「薄かった。倉庫のことくらいはすでにつかんでたらしい。無駄足だったようだな」

「無駄かどうかは俺が判断することだ。あんたは言われた通りにしてりゃいい。余計なことは考えるな」

「ああ、わかったよ」

「おとなしくしとけよ、悪いようにはしない」

 奥は勢いよく電話を切った。前田は受話器を置いて、ベッドに大の字になって天井を見上げた。

 これからどうすべきか? 奥の言う通りにしていれば、大平くらいには報いを受けさせることができるのだろう。しかし、それでは奥を野放しにすることになる。昔の事件の清算も、奥が保身できるのなら無理だろう。

 それは許容しがたいことだった。例え大きな犠牲を払ったとしても、過去のあの事件にけりをつけたかった。そのためには、絶対に奥を表舞台に引きずり出す必要がある。

 前田は目を閉じて、大きなため息をついた。今はまだ動くべき時ではない。あの探偵がどれだけの情報を集められるかを待ってから決めればいい。何もできないようなら、奥の話に乗って、とりあえず大平をターゲットにするのも悪くない。

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