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107.

 須田は石村に電話をかけた。

「俺だ。あの電話について何かわかったか」

「ああ、そろそろこっちから連絡しようと思ってたところだ。場所が大体わかったんでな」

「近いか?」

「たぶんちょっと街はずれにあるホテルだな」

「街はずれ」須田は少し考えて、すぐに思い当たったようだった。「あの小さなホテルか。高くて誰も使わないし、さびれた場所にあるから、隠れるには好都合な場所だ」

「なるほど。それで、どうするんだ?」

「とりあえず、行ってみるさ」

「そうか、頼むぜ」

 石村が電話を切ったのを確認してから、須田は電話を切った。そして、教えられた場所に向かうためにタクシーをつかまえた。

 そして、件のホテルに到着した。安くもなく、駅からも遠いホテルはさびれた雰囲気だった。須田は躊躇することなくホテルに入っていった。ホテルのロビーには、大平がいた。須田は黙ったまま大平に近づいた。

「大平さん、どうですか? 調子は」

 大平はゆっくりと顔を上げて須田の顔を見つめた。

「君か。あまり良くないよ、少々悩みが多すぎてね」

「悩みがある時は、他人に話すのが簡単な解決方ですよ。仕事として秘密を守るような人間なら、もっと都合がいい」

「それができたら、どれだけ楽だろう」大平は力のない微笑を浮かべて須田の顔を見た「今更後には退けないんだよ。失う可能性のあるものが多すぎる。そうだな、例えば私の人生だ。無駄になってしまうよ、全部」

 二人はしばらくの間睨み合った。

「失われはしませんよ。無駄になったとしても、良くも悪くも、あなたのやったことはしばらくの間は忘れられません」須田はポケットから手帳を取り出した。「少なくとも、私は記録しています。それでは不足ですか?」

「不名誉な記録でなければいいがね」

 大平は自嘲気味に笑った。須田は表情を変えなかった。

「不名誉なことでしょう。しかし、私はそうは思いません。あなたは今まで多くのものを人に捧げすぎたのではないでしょうか。そろそろ、何も気にせずに自分に正直になってもいいかもしれませんよ」

「なぜそこまで言えるんだね?」

「あなたは私と会わないこともできたし、さっきの電話にだって出なくてよかったはずです。今だって、こんな風に話す必要はありません」

 須田はそこで言葉を切って天井を見上げた。それとは対照的に、大平はうつむいて床を見ていた。二人はしばらくそうしていたが、どちらからということもなく、目を合わせて、うなずいた。

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