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105.

 前田は観念した。しかし、覚悟を決めたのではなかった。それだけに、まだ迷いがあった。

「最初に確認させてください」須田は黙ってうなずいた。「依頼人の利益は守ってくれますよね?」

「社会的に極端に逸脱したものでなければ、可能な限り守ります」

 前田はしばらくの間黙って、須田の表情を慎重に観察した。しかし、須田は感情も何もない表情で前田のことを見ているだけで、何も読み取ることはできなかった。

「知らせておきたいことがあります」

「あなたが追っている連中が使っている倉庫のことでしょうか」

 前田が口を開くと、間髪入れずに須田がそれをさえぎった。前田は驚愕の表情で凍りついた。

「それならすでにわかっています。残念ですが、現状ではそれほど役に立つものでもありません」

「さすがに、プロですね」

 須田は相変わらず感情のない表情で、前田の顔をじっと見た。そして、おもむろに口を開いた。

「誰があなたに、そう言わせようとしたんですか」

「なんのことでしょうか?」

「とぼけるのは、そろそろやめにしてはいかがでしょうか。必要なのは駆け引きではありません、あなたの、協力です。全てを話せとは言いません、このことだけでも話してください」

 二人はしばらくの間、無言で向かい合っていた。そして、前田が耐えられなくなった。

「わかりました」前田はがっくりと肩を落としてうつむいた。「倉庫の話はある人物、いや、今更隠す必要もないですね。奥から聞いた話です。あなたに教えてやれって言ってましたよ」

「なるほど」須田は腕を組んで天井を見上げた。「そのルートでは、根っこまでたどりつけないわけですか」

「そう、偽者をつかまされるだけです」

「しかし、それ以外の道はありません。あの男は用心深く、狡猾です。残念ですが、ボロを出すのを期待するくらいしかありません」

「それじゃあ、私はどうすればいいんです?」

「奥と接触できるなら、そのまま続けてください。注意深く慎重にあの男を観察して、私に知らせてくれると助かります」須田は机の引き出しを開けて、小型のレコーダーとマイクを取り出した。「できればこれで奥の話を録音してください」

 前田はレコーダーを受け取ってポケットにしまった。そして、右手を須田に差し出した。須田はその手を軽く握り返した。

「頼みます」

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