104.
須田はいよいよ面倒なことに取り組み始めた。本当にこの件を解決するには、大平を生贄にするようなことは避けなければならない。その背後にいる人間、おそらく奥、を引きずりだすことこそが重要なことだ。
そのためには、丁寧にその連中のつながりをたどっていかなければならない。拙速に大平に手を出すようなことをしてはいけない。大平は貴重な案内人にもなる。
ただし、大平の身に危険が及ぶようなことは避けなければならない。そのためにもいつでも行動を把握しておく必要があったが、これは石村頼みだ。三島や清水の安全は木村に任せてある。吉田は三山が見ているから心配はない。
残る問題は前田だった。居所はわからない、どこまで知っているのかわからない、どう行動しているのかわからない。わかっているのは身元と動機だが、今の段階では役に立たない。
須田はあきらめと焦りを押さえ込んで、事務所に戻ることにした。前田とコンタクトができる可能性が一番高いのはそこだった。須田は早足で事務所に向かった。
須田が事務所の前に到着すると、そこには意外な人物が立っていた。
「前田さん。どうしました、こんな時間に」
「どうしても、解決できない問題があるんです」前田はそこでしばらくうつむいてから、ゆっくりと顔を上げた。「アドバイスをもらえますか?」
「わかりました」
須田はドアの鍵を開けて、前田を先に部屋に入れた。室内に入った前田は、落ち着きなく、あたりを見回した。
須田はそれを気にする様子は見せず、前田に椅子を勧めた。前田はとりあえず腰を下ろした。須田は自分の椅子に座らず、机に寄りかかって前田の様子をじっと観察した。
「それで、どんなアドバイスをお望みでしょうか」
「そうですね」
前田はそこで言葉につまった。何を言うべきか? 混乱した。
「例えば、ドラッグの売人への対処法でしょうか」
須田は前田の顔をじっと見た。前田はかたい表情でうつむいた。
「いいですか。あなたがこの件を解決したいと思っているのなら、間違いなく協力する人間が必要です」
前田は須田の言葉になんとか笑みを浮かべて反論のために口を開いた。
「なんで協力者がいないと思うんです?」
「そうではありません。もちろんあなたにも協力する人間はいたでしょう。例えば、三島さんです。しかし、それだけではどうにもならないと思ったから、こうして私のところに来たのでしょう」
前田はうつむいて何も言わなかった。須田はそれにはかまわなかった。机の上に無造作に置いてある紙を手にとって、それを前田の目の前に差し出した。
「あなたに出した見積書です」それには軽い気持ちでは払えないような金額が記載されていた。「安くはありませんし、すでに一部は前金として頂いてます。飛び込みで、なんとなく払うようなものではない」
「金の使いみちに困ってる、ただの資産家かもしれませんよ」
「道楽なら、あなたは今ここに来ているはずがない。どこかでふんぞり返って報告書を待っていればいい。だが、あなたはここにいる」
須田は見積書を机の上に戻した。そして、机に寄りかかるのをやめて、自分の椅子に腰を下ろした。
「私にどうしても言いたいことがあったのでしょう。どうぞ、何を話すかはあなたが決めることです」




