102.
まさか吉田から受け取った電話番号がまだ使えるとは思っていなかった。そして、公衆電話からの着信に大平がでてくるというのは、もっと予想できないことだった。
「こういうかたちでまた話をすることになるのは、残念です」
「私もそう思うよ。まさか君から電話が入るとは思っていなかった」
「同感ですね。私も大平さんにこうして電話をすることになるとは思っていませんでした」
電話越しだが、睨み合いのような沈黙があった。
「君に言うことがあるとすれば、手を引いてもらいたい、ということだけだよ」
「それは残念です。今更手を引くというのは考えられません。それなりに労力をかけてますから」
「そうか」大平は何か考え込んで、少し間が空いた。「それなら君は敵だな」
「それなら、どうしますか? 私としては、必ずしも敵だとは思っていませんが」
「そう言ってくれるのは嬉しいことだがね、たぶん無理だろう」
大平のため息には、演技ではない残念だという感情が表れているように聞こえた。須田はそれを信じなかった。
「協力していただけない、ということですね」
「残念だが、その通りだ」
電話はそこで切れた。須田はすぐに石村に電話をかけた。
「どうした、進展があったのか?」
須田は石村の携帯番号と、話をしていた時間を石村に告げた。
「場所が知りたい。この情報があれば、それなりに絞り込めるだろ」
「そうだな、刑事が個人的にやるスタンドプレイだが。いいぜ、やっておく」
「頼む。お膳立てはしっかりやってるつもりだ」
「ああ、俺のボスにも楽しいことがあるって言っておくよ」石村は少し改まった調子になった。「わかってるだろうが、くれぐれも気をつけろよ。甘い相手じゃないんだからな」
「ああ、わかってる。まあ、あちらさんもこっちが甘い相手じゃないとわかってくれてるだろう」
「その期待には答えたいもんだな。ああいった連中をのさばらせておくのは、こっちとしてもちょっと都合が悪い。本当に頼むぜ」
「できるだけのことはやるさ」




