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101/140

101.

 須田は吉田の自宅に向かっていた。吉田からはまだ聞き出すべきことがあるように思えた。吉田の住むマンションの前に到着すると、見覚えのある車が止まっていた。須田は車に近づいていって、窓をノックした。

「何か変わったことはあったかい」

 窓が開いて、三山のところで色々な雑用をやっている若い男が顔を出した。

「どうも須田さん。こっちは特に変わったことはありませんよ」

「好都合だ。あまり長い間は続かないことだろうから、辛抱してくれ」

「ええ、わかってますよ。うちのボスからもたっぷり釘を刺されたんで」

「それなら安心だ」

 須田は笑みを浮かべて、一歩下がった。

「今度は何をしてるんです? 面白いことなら教えてくださいよ」

「いつになるかはわからないな。まあ、そのうち話せるはずだ」

 須田は手を振りながら、マンションの玄関に向かった。吉田の自宅は5階だったが、須田は階段を使った。部屋の前に着くと、一呼吸おいてからドアホンを押した。

「はい」

 少し震えた声の吉田がでた。

「須田です。少しお話したことがあるので、開けてもらえますか」

 ドアホンが切れる音がしてから、1分ほどで鍵が開けられる音がした。ひどく憔悴した表情の吉田が顔を出した。

「どうぞ、入ってください」

 須田は黙って部屋に入った。室内はよく整理されていてすっきりとしていた。居間にはせいぜい2人ぶんくらいの広さの背の低いテーブルがあった。吉田は黙って来客用と思われる椅子を引っ張ってきた。

「狭くてすみません」

「よく整理されて、いい部屋じゃありませんか」

 須田はそう言いながら椅子に腰を下ろした。

「それで、ご用件は」

 吉田は須田の言葉を無視して、精一杯強がっているように見えた。

「たいしたことではありませんよ」須田は絵を取り出して、テーブルの上に置いた。「絵が完成したので、見ていただきたいだけです」

 吉田は絵をみてから沈黙した。数分経った後、吉田は立ち上がって、奥の部屋に行った。そして、戻ってきた吉田の手には一枚の紙が握られていた。それを黙って須田に差し出した。

「これは?」

 その紙には携帯電話の番号らしきものがかかれていた。

「連絡先として教えられていた電話番号です。今、できることはそれだけです」

 そう言った吉田は、疲れた表情で首を振ってから椅子に沈み込んだ。須田はその紙をポケットにしまってから立ち上がった。

「ご協力、感謝します」

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