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10.

 喫茶店ではかなり粘ったが、大した成果は得られなかった。須田は時間を確認すると、前田からの連絡を受けるために事務所に戻ろうと立ち上がったところに、携帯電話が鳴った。木村からだった。

「今は事務所?」

「いや、外だ」

「それはそれは、お仕事熱心で結構なことですね旦那さま」

「まさか、それを言うために電話をかけてきたんじゃないよな?」

「もちろん、あんたほど暇じゃないからそんなわけはないんだけど、例のヒモ野郎のことで面白いことがあってね」

「なんだ?」

「どうも警察が動いてるらしい、なんでかは知らないけどね。ま、薬物とかそういう線のおまけだとは思うけど」

「奴が元締めってことはないだろうからな、おまけがいいところだろ」

「その様子だと、あんたのお友達からも情報がいってるみたいね。ところでこれは知ってる? 警察は奴のバックにいる男をあぶりだしたいらしいってのは」

「初耳だな、個人事業主じゃなかったのか?」

「少なくとも、警察はそう考えてない。なんの証拠もなく動くとも思えないし、それなりの確証があるんでしょ」

「なるほどね」

「あんたのお友達の刑事にでも聞いてみたら?」

「的確なアドバイスを感謝するよ」

「どういたしまして。割増料金は請求させてもらうから、そこんとこよろしく」

「わかったよ。貴重な情報をどうも」

 須田は電話を切って溜息をついた。しかし、すぐに次の電話がかかってきた。事務所からの転送電話だった。

「はい、須田探偵事務所です」

「どうも、前田です」

 前田の声は朝に較べると随分落ち着いていた。

「ああ、これはどうも。それで、なにかありましたか?

「いや、平穏な一日でしたよ。やっぱりあれはただの脅しだけだったんですかね」

「いえ、おそらく様子を見ているんでしょう」須田は浮かれ気味の前田に釘を刺した。「しばらくしたら、また接触してくるかもしれません」

「それじゃあ、まだ安心できないんですか?」

「今日のように、あなたが何事もなかったように行動していれば大丈夫ですよ。当分はこのことは忘れているのが一番です」

「そうは言っても気になりますよ」

「安心してください。これ以上何かあれば私の方から警察に連絡しますし、進展があればきっちり報告しますから」

「そうですか、わかりました。もう少し様子を見てみることにします」

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