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練習後の部室にヒーローが誕生していた。ゴールキーパーの佐野。彼は練習後に石井先生から声をかけられたらしく、遂にスタメンデビューが現実的になった。
僕の話題はなかったし、話題にもしてほしくなかった。あんなに抗議したことは初めてだったし、思い出したくもないほど恥ずかしかった。
ささっと帰ることにした僕は、一人自転車に乗って、帰宅路を走っていた。
後ろから自転車が猛烈なスピードで追い抜いた。次の瞬間、その自転車は急ブレーキをかけて止まったかと思うと、乗っていた人は飛び降りた。
僕は慌ててブレーキをかけたけど間に合わずコツンと追突した。
不機嫌極まりないといった声でぼそりと
「痛いんだけど。」
と言って、振り向いたのは深見さんだった。
「そっちが急に止まるから。」
僕は一言、言い返すのがやっとだった。
「やっと、追いついた、追いついた。」
こちらの言う事など気にもとめていないらしい。
「今日は感心しちゃったよ、駒野くん。なんてったって、あの怖い石井先生に反論するんだから。」
深見さんは目を輝かせながら迫ってきた。
「いや、あれは熱くなっちゃって。取り乱しちゃって。恥ずかしい限りなんだけど。」
「そこでお願いなんだけど。一緒に石井先生に交渉してくれないかな。」
勘違いしないで欲しいが、僕、決して石井先生が怖くないわけではない。むしろ一週間くらいは顔も合わせられないと思っているくらいだ。
「今度は、しっかりベストメンバーの男子とやらせてください。って言いに行くだけだから。」
「だからなんで僕なの。」
間髪いれずキリリと
「駒野くんにも責任あるんだよ。」
意味がわからない。
「あんな、2軍以下の戦力、相手にならないよ。」
言っていることは事実だがたいへん気に障る。
「どうして駒野くん達、勝ってくれないかな。」
勝ちつづけているとそういう気持ちにもなるのか?
「負けたかったの。」
聞いてみた。
「負けないと、欠点とか、修正すべき点を納得できないでしょ。」
あの練習試合にそんな目的持っていたのか。確かにミスこそ少なかったし、シュートも打っていた、でも穴はあった。能力の高いチームなら確実についてくるだろう。なにより1点しか取れなかったことが全てを物語っていた。
「期待はずれな試合してごめん。」
「そうだよ、あれだけ弱点ついてきたのに勝てないのはどうかと思うよ。」
「弱点突いてきたと言われても。ゴール前固めていただけだよ。ミドルシュートしか飛んでこなかったし。 攻撃だって、人が居ないところがあったからそこをパスで繋いだだけだし。」
少し間が空いてから、深見さんは思いがけないことを言った。
「もしかして見えているの。空飛んでいるみたいに見えるやつ。俯瞰だっけ。」