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「ごめん。どうゆう意味?質問の意味がわからないんだけど。」
聞いた僕が間違いだったと思った。
この目の前の女は次元の異なる世界にいる。住む世界の違う隔たりを感じる。
この世には絶対にできないことがある。そう思う瞬間である。
事の始まりは、数時間前に遡る。
高校2年の僕、駒野裕則《こまの ひろのり 》は部活に勤しんでいた。中学の時と同じ部活になんとなく入ったサッカー部。もちろん、たいして上手くもない。3年生が引退した後の、夏休みの練習でもレギラー候補にさえなれていない。
「今から紅白戦やるから、朝に言ったメンバーは整列して。」
顧問の石井先生が、紐のついたホイッスルを、くるくる振り回しながら言った。
選手がピッチに散っていった。僕は左サイドで旗を持っている。ベンチ外で審判である。
最後に試合に出たのは中学の時。高校に入ってから公式戦に出たことはない。
「危ない!」「スイマセェーン。」
後ろから声が飛んできた。野球部の打ったホームラン性のボールが後頭部に迫っていた。
僕が生まれながらにして持つ幸運値の補正が有ったか無かったか。多分無い。ボールは顔の右横をすれていった。
ピッチに入ったボールはワンバウンド、ツーバウンド、スリーバウンド。キーパーも攻めに加わって、誰も居なくなっていたゴールに吸い込まれた。
ゴール!!
ゴールが入ったことを示す、フォイスルが吹かれ歓喜が起こる。
まさかこれもゴールにカウントされるのか?慌てて周りを見渡すと、反対側のゴールにサッカーボールが入っている。
野球部の1年生が申し訳なさそうに近づいてきて。ボールを回収していった。