位置づけ
「どうして九煉はここにいるのかな?」
ベンチに腰掛け下を向いている俺を見つけた火群が、近づいてきた。どうしてと言う割に簡単に俺を見つけるんだ、火群という男は。
「推測するに、友達というよりも人の輪に入れなかったといったところかな」
図星なのだが、心に棘が刺さるよりも早く手助けがほしい。
「別に友達が一〇〇人ほしいとか思っているわけじゃないんだ。旅している方が長かったし、年齢の近い人間とそう知り合いは多くないから、ただ旅先で聞いていた雰囲気を一度でいいから味わってほしかっただけなんだ」
「なるほど、その一度すら味わえず孤立したと」
「ああ」
「経緯を聞いてもいいかな?」
「それ以外にも問題があるんだ」
「それも聞いてあげるよ」
「ああ、まずは【最恐】っていう朝に殴られた男に目を付けられてから始まった――」
◆
後ろが怖い。それが教室に入ってから思い続けた感情だった。
階段式に机と椅子が並び、一つの部屋に生徒数は一〇〇人程度が入っているだろう。教員と呼ばれる男性が教室まできてようやくこのクラスの人間が着席するに至った。
ただどうだろう、いくつかある空席がなぜか俺を囲むようにできている。【三最】と呼ばれる三人の周りにも確かに空席はある。例えば【最恐】は後ろ以外の全部、【最強】は左右、【最高】は前が空いている。それぞれの理由は分かる。例えば、前に座るのが危険だとか、隣はハードルが高いとか、前では眺めることができないとかだ。
じゃあ、前後左右、二つマス以上の間が空いている俺の理由はなんだろう。
「おや、そこの席だけ随分不人気だね、何か問題があったのかい」
優しさなんだろうか、教員よ、それは優しさなんだろうか。
「と、特には何もないです」
「ん、そう? まぁ、有名な三人がいるクラスだから、席が歪に空いたのかな。そんなことよりも、今日は初日だから【測定】だけ行って終わりね。あ、これには他学校から来た生徒も、進級生もみんな受けてください。はい、じゃあ解散」
個々にその【測定】に行くよう伝えてくれれば、こんな事態にはならなかったんじゃないだろうか。
「あ、ここのクラスは第三測定室がそろそろ開くはずだからそっちに移動してね。ちなみにこれをさぼっちゃうと、即退学だからね。気を付けて」
最後付け加えた一言は、俺を孤独に追いやった一人に向けられているようだった。
「言われなくてもそれぐらい行ってやるっつの」
注意が【最恐】に意識が向かっている間に俺は心に決めたことがある。皆の測定が終わったら最後に行こう。最初は目立つ。ひっそりと静かに行動してほとぼりが覚めるのを待っていれば、聞き得た学校生活に近づくはずだ。
徐々に教室から生徒が減っていく。
よし、俺の存在に警戒しているようだけど、俺が動こうとしない分、皆早々といなくなっていく。つまり、俺が空気を読む人間だと理解してくれているということに繋がるはずだ。
徐々にでいい。徐々に理解してくれればスタートが悪くても、次第に俺が求めている学校生活というものに近づいていくはずだ。
今は早くいなくなれ、いずれは俺と話をしてくれる人間がきっと出てくるはずだ。今は我慢しよう、与えられた量の部屋で泣く日々を、今は我慢しようじゃないか!
密かに決意を胸に、残り二十人まで数が減った。
ひとまず、大人しく最後に【測定】をして帰ろ――
「おい、とりあえず騒ぎを起こさないようにしてやるから、測定で勝敗決めるぞ」
「(ぃ、いやあああああああああああああああああああああああああっ!!)」
その瞬間、俺の立場は【最恐】に目を付けられた、近づいては巻き込まれる存在へと位置付けられた。




