学園(三最)
「いきなりひどい目にあった」
とんだとばっちりを受けた後、火群と別れて【挌闘走学科】の校舎へと足を踏み入れた。【花王育成学園】の敷地は想像していたより広く一つの学科ごとにも別校舎で行われる。
つまり、別学科の人間とは学業の上ではほとんど出会うことはない。火群との出会いは奇跡に等しい出来事いではあったものの、その妹である火蓮とは出会う確率は高いのだから気を抜くことはできない。
特に平和な日常とかは求めていないなりに、せめて初めて通う学校というものを人並みに受けたい。最低でもなんの理由もない暴力のない生活さえできればいい。
いいかえれば必要な問題になら対処するといってもいい。それは親の旅での影響から受ける考え方だ。
あいかわらず田舎者というよりも不慣れな環境で周りをきょろきょろとしながら、電子掲示板で調べた自分の教室へと向かう。
基本は情報という名の人から得た情報で、学校生活を知っている。だから授業は教室と呼ばれる部屋で行われる。そうして正しい情報の元数字とアルファベットが羅列する板を頼りに辿り着いた先、なぜが部屋には入らない生徒が数多く見られた。
恒例儀式的ななにかでまだ部屋に入れないのかと思たが、どうやら雰囲気から違うことを察する。
「すいません、ちょっと聞いても?」
部屋の外にいる最後列にいた男子生徒に事情を尋ねようとした。が、詳しく聞くよりも早く、状況を誰かに伝えたかったのか、その男子生徒は勝手に喋り出した。
「君もこのクラス?」
「そうだと思うけど……」
「ヤバイクラスになっちまったよ。見てみろっていっても見えないか。実はこのクラスに最恐と最高と最強の【三最】がいるんだよ。どう考えても面倒だらけなクラスになるぞ。他のクラスからも野次馬だらけでこの騒ぎさ」
そんな説明をされても首をひねるしかない。別の意味を持つ二つの【サイキョウ】まで言葉の意味ではなんとなくだが理解できた。だが、最高が一番難解だった。
「悪いんだけど、順を追って教えて」
「あ、ああそうか、花王から関係ない学校からの人間か、ごめんごめん、えーとだな。まずは最高から説明しようか」
「頼む」
一番理解ができなかった言葉から説明は始まる。
「【種王育成学園】からの進級生、その名も【清煉】」
「ちがうだろそれ、そっちはあだ名だろ」
といつの間にか、別の男子生徒が間違いを正しに説明に加わっていた。九煉は戸惑いながらも、最初に説明してくれた生徒とその男子生徒は元々知り合いのようで、自然な流れで続いた。
「うるせぇな、本名忘れたんだよ」
「まぁ、あだ名で呼ぶ方が多いからな」
「だから、気にしないでくれ、君もそう呼ぶ方が多いよ」
「あ、ああ」
「んで続きな。そのあだ名の由来が最高と呼ばれる所以で、その戦い方といったら男子も女子も魅了されるほど美しいんだ」
「ああ、あれは見惚れてしまうほどにな」
「黒く長い髪が風に舞い」
「精錬された動きと合わさって」
「「まさにっ、女神の清流」」
「い、意味が分からない」
「ざっくりいうとだ。可愛いから最高ってことだ」
思わずこけそうになった。
それでいて害がないと分かると途端に興味は薄れる。
「他は?」
そうとわかれば言葉の上では理解できた二つの【サイキョウ】が気になる。
「じゃあ、最強から。これはまぁ、あれだな」
「ああ、一言で十分だな」
「「イケメンという名の敵だ、ごふっ」」
「そんな簡単に最澄さんが説明できるわけないじゃないの!」
説明していてくれた二人にボディブローを加えて、説明者の女子が増えた。それも一人二人じゃない。次々と増殖を繰り返し、「そうよ、そうよ」と大合唱で取り囲まれる。
「あの、整った顔立ちに加えてあのクールな態度。まさに、私達の最強の王子っ!」
「そう意味での最強!?」
「いや、実際強いからむかつくんだよな」
「んだ」
だんだんとどうでもよくなってきた。
「最後は?」
その瞬間、空気が一変した。
「それはそのうち分かる」
「急いで知る必要もないな」
「私達も進級生だけど、あれだけはどこに行っても有名なのよね」
「「「悪い意味で」」」
ようは近づかない方がいいということなのだろう。とりあえず、ここに集まった理由が、しきたりやら儀式的なことでなにのなら、教室へは入っていいということだ。
幸いにも最強の説明に集まった女子のおかげ道は開いているので、いまだ続くお互いの人気者の絶賛を後に、教室の中へと入った。
そして後悔する。
「あ゛?」
一番説明が少なかった【最恐】がこっちを睨んでいる。三人を除いて第一号に教室に入ったものだから目立つ。なにより、その【最恐】とは面識があった。
「てめぇか」
早速目を付けられた。
「さ、さっきはどうも」
朝一発目から体を切り裂いてくれた問題児君だった。
「少しは大人しくしてやろうかと思ったが、てめぇには借りがあったな」
席から立ち上がったのを見て、反射的に答える。
「いや、ない!」
それだけは間違いない。なぜなら一方的に被害者になったのはこっちだからだ。
「どっちでもいいんだよっ、てめぇを殴れればな」
「むちゃくちゃだ!」
嫌な記憶が思い出された。昔、理由もなくただひたすらに殴られた火蓮との壮絶な日々だ。
「うるさいクラスだ」
騒音にぼそっとだが、【最強】から漏れた。
「あ゛?」
「矛先が変わった」
「あ゛?」
「しまった、口に出した!」
矛先がまた元に戻ってきた。
「大人しくしていろと言われたんだろ。そうしてろ、また怪我をする羽目になるぞ」
意外な所から助けが入る。
「うるせぇンだよ! そうなる前にてめぇに怪我負わせてやろうか、ああ゛?」
「できるならな」
一触即発の雰囲気に、必死に求めていた日々の為に俺は大人しく最前列の席に座る。
「大人しくしてます」
「っち、腰抜けが」
おかげでこの場は何事もなく済んだ。
「……はぁ」
最後に【最高】からため息が漏れていたが、それには誰も気づかなかった。




