学園(喧嘩)
「…………はぁ」
俺のため息に、さすがに耐え切れなくなった火群が口火を切った。
「それはそうと、この騒ぎだけど」
「騒ぎ?」
「ああ、人だかりのことだけど」
当初の会話を思い出し、未だ喧騒が続く人だかりに視線を向けた。
「早々に喧嘩しているようでね。まぁ、公式に限界解除が使えるようになってはしゃぎたい気持ちは分からなくもないけれど、この騒ぎわね」
「限界解除しての喧嘩か、始めてみるな。ちょっと見に行っていいか?」
「君も物好きだね。それはアレかい、ご両親の旅にでる好奇心と似ているものなのかな」
「知らねぇよ」
トラウマの原因の多く作った旅という修羅場が、あまり好きではなかった。だから、少し気分を壊しながらも好奇心には勝てず、人垣を上手くかわしながら喧嘩の現場がよく見える場所まで移動した。
どうやら喧嘩は終盤まで差し掛かっているようで、すでに二人が倒れ込んで起きる様子はない。構図から見て三対一の喧嘩だったようだ。そして、二人が倒れていることから、少数である一人の男が優勢だった。
「よえぇな、限界解除してそんなもんかよ」
「くっ、新入生のくせしてなんだい、えらそうに!」
「粋がらせてでほしいもんだぜ!」
「ひぃっ」
言い終わると、男は片足でポンポンと跳ねる。
そこへ、
「おや、あの構えは雅獣技のようだね」
「結局きたのか?」
「一応ね。万が一にも火蓮だと思ったら心配になってきてみたよ」
興味本位で最悪自ら地獄へと足を踏み入れる可能性を作っていたことにゾッと背筋が凍る。
「そ、そだな」
「ふふ、冗談だよ」
冗談に聞こえないから怖いんだ。
「ところで、雅獣技って?」
「挌闘走の構えの一つだよ。獣の動きを真似た技術だね、ほら手の形が獣を想像しているだろ」
改めて男の構えを確認する。
右手を目の前で獣の牙を表し、左手を爪の形で逆さに胸の位置に置いている。
「まずいね」
「なにが?」
「気付かないか、さっきより周りの人ごみがざわついている。つまり、いままで雅獣技は使っていなかった」
「だから?」
「倒れている二人に逃げ腰の残り一人を見る限り、あの三人は戦闘系学科に属していない。つまりだね、後衛補助学科に即している可能性が高い。それを踏まえると、怪我をする可能性が極めて高い」
「止めなくていいのかよ?」
「止められる生徒がこの場にいるとは思えないな。ただの野次馬の集まりだろうから、それにへたに目を付けられたくないと思うのは自然の事だと思うよ。初登校の時間だけあってこの場にいるのは、ほとんどが新入生だろうからね」
「おいおい、そんなのって――」
「だから、僕は君を推薦するよ」
ポンと、優しく押された。
「いっ、てめぇ!」
最初は一歩前に片足が出ただけだ。それだけなら止まって関わらないこともできただろう。でも、そうはできなかった。
弱い者をいじめて高笑いするなんて奴を許せない、だいたいそんなものの為に限界解除の使い方を学びにこの学園に入ってきたわけじゃないんだ――。
なんてことは思いつきもしない。
ただ、突き飛ばした犯人が微笑みながら手を振り、【傀儡】を使って俺の足を前進させているから止まることができないだけなんだ。
文句を言う暇もなく、すでに体は暴力を振るう男子生徒と、先輩らしき男子生徒の間に辿り着いていた。
「んあ? なんでてめぇ、調子に乗んなよ!」
全然これっぽっちも止まる気はないようで、その技術を披露する気満々で突っ込んでくる。
「ぃッ」
そういえば、あの妹あっての兄だった。思い出しても見れば昔から【傀儡】で助けてくれたのは、さんざん妹の餌食になった後だったな。
「ぃいやあああああああああああああああああああああああああああっっっ!」
走馬灯を眺めながら、二つの牙が九煉の体を切り裂いた悲鳴が響き渡った。
「ド、ドМやろうかよ、気持ちわりぃな」
ひどい暴言だけを残して、男子生徒が去っていく。静まり返った喧嘩跡地に被害にあう羽目になった主犯が近づいてきた。
「その体質昔から変わってないんだね。相手が限界解除使っていなかったとはいえ実に面白いよ、九煉って」
「ぶ、ぶっ殺す……」
いくら無傷とはいえ痛いのは変わらないままだった。




