学園(幼馴染)
限界解除生育成学区、またの名を【花王育成学園】。
それが一七歳を迎えた俺、元九煉が通うことになった学校の名前である。
そして、登校初日どでかい柱の間を通り学園の敷地に入るや否や、人だかりがあった。
「うわっ、さすがに有名な学園だけあって人が多いな」
初めての学校というだけあって、俺は一人、置いてけぼりの状況にあっていた。たしかにこの学園の生徒数はトップクラスであり俺の感想は間違ってはいない。だが、人だかりができている理由は別にある。
「違う違う、いくら登校時間で人数が多い学園とはいえ入り口にも届いていないこんな場所で立ち往生なんてしないよ」
そんなおり、独り言を聞きつけ事情を説明しに一人の青年が近づいてきた。
「――火群っ!?」
「やぁ、久しぶりだね九煉。何年ぶりかな」
片手で久方ぶりのあいさつをする青年の名は火群。九煉が幼かった頃両親と旅した道中で出会った父親の友人の息子だ。
「お前もこの学園だったのか?」
「僕は、本当は【天空】を受けるはずだったんだけどね。ある理由で【花王】にしなければいけなくなったんだ」
「は、ははっ」
なんとなく嫌な予感に苦笑いを作ってしまう。
「でも、九煉がいるならその必要はなかったかもしれないな」
火群の言葉で嫌な予感が的中している事実に顔は引きつってしまった。
自分で語るにも悲し話だけど、昔肉食植物に食われた以外のトラウマをいくつも抱えている。その一つが今回予感的中の一つなのだ。
「火蓮もなのか」
「お察しの通り」
頭を抱えてしゃがみ込んだ。その上で、火群の近くにいるのは危険なのではないか。今はまだ、自分の存在が知られていない。だとすれば、これだけ広い敷地を誇る学園で早々出会うことはないのではないか。きっとそうに違いない。
「じゃあな、お前には久しぶりに会えて良かったよ」
ガシッ!
「相変わらず逃げ足が速いんだね、君は」
首根っこを掴まれ、昔馴染みだけあって行動を先読みされる。
「お前だって知ってるだろっ、あいつに俺が昔どんなひどい目に合されたか!」
「それでも昔馴染みの相手にその対応はあまりにもさびしいじゃないか。それに安心していいよ。あの子はあまり僕と関わりたくないようで近くには滅多に来ないから」
どことなく寂しい雰囲気でいう火群に、戸惑いを隠せない。昔は三人でいる時間はよくあった。その時の兄妹は仲が悪くなかったはずだ。
関係図で言えば、
妹→俺→兄→妹が、狩人→獲物→救世主→鎮圧が、さらに追う→逃げる→助ける→落ち着くと変換できるようなそんな関係だったはずだ。
「喧嘩でもしたのか」
旅によく出る身内の都合上、短い間隔で会うこともあれば会わなくなると数年と合わないことはざらだった。その期間の間に二人の兄妹の関係は変わってしまったのかもしれない。
逃げようとしたことへの罪悪感から、少しだけ二人に何が起きたのか知っておきたくなった。もしかしたら少しでも力になることがあるかもしれない。
「喧嘩? 僕と火蓮が? ないよ。僕と火蓮じゃ喧嘩にならないじゃないか。でもそうだな、理由か。うん、しいていえば僕が優秀すぎて近くにいると比較対象にされるから近づきたくないんじゃないかな」
思い出してみてもこいつは昔からこういうやつだった。
「心配して損したよ」
「それはすまない」
「一応聞いておきたいんだけど、お前がそんな感じなら、あいつも昔と変わって――」
「昔のまんまだよ、たぶん」
喰い気味に言われた。
「でも、安心しなよ。この学園は進む道は数多くあるんだ。その数の一つ一つの学び場所は違うんだ。狙わない限り、早々会えるものでもないよ」
それもそうだ。ここは【限界解除】を使う上での道を複数学べる学園だ。校舎自体いくつも存在している。ましてや全寮制であり、その寮ですらこの学園の敷地内にあるのだ。その中でたった一人の人間を見つけるのは狙わない限り無理だった。
でも、まてよ。
「なら、なんでお前は俺を見つけた」
「一言でいえば偶然だよ。あれだけ田舎者の動きできょろきょろあたりを見渡していれば少なくとも目立つし、九煉は話し方と身体の大きさが変わったぐらいで、見た目は昔のまんまだったからね」
「それはお互い様だろ」
「ははは、それもそうだね」
「ちなみにお前は【技術創造学科】か?」
「ご名答。君は……本能逃走学科かな」
「そんな学科ねぇよっ! 普通に【挌闘走学科】だよっ!」
「………………それはまた、なんて言っていいのやら」
きっと俺はものすごく悲しそうな表情を作っていただろう。その上で、火群が次に言う言葉が安易に想像できた。
「なんていうか、これは運命なのかな」
「宿命だろ」
もう泣きそうだ
「ま、まぁ、それでもクラスもいくつかあるわけだし……」
さすがに同情しきれないのか、火群からフォローが出てくる。
「やめてくれ、昔の言葉でフラグっていう呪いの言葉がある」
「そ、そうだね。自分の妹のことながら、怖くなってきたよ」
二人の間に妙な緊張感を含む沈黙が支配する。




