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狩りはすべてを巻き込み広がっていく

全編NO編集で続けられています。すいません


         ★


「少し下がうるさい……。九煉は下にいたってことか……。だけど、まだ捕まってないからこその騒ぎ、だとしたら――」


「げっ」


やっぱり、単純な逃走経路。


「鬼ごっこはおしまい、今の私なら簡単に捕まえられる」


幼かった頃とは違う。九煉がいなくなってから、私は強くなった。それに引き替え九煉はあの頃と変わってない。力の差は歴然、勝敗は見えてる。


そんな九煉が離れた距離で頭をかしげた。


「あのさ、なんで火蓮に追われてるんだっけ?」


こいつ……、相変わらずだ。


「自分の胸に聞きなさい」


ここで怒ってはダメだ。あいつのペースに乗ると逃げられる。それに私が変わったのは強さだけじゃない。【花種】で培ったのは女の子としての作法。ただでさえあいつがここにいると分かってから崩れ始めてしまっている。だから、もう一度変わった私を――。


「なんていうか、変わらないな」


ブチッ! 


「ふー」


「へ、なんで精神統一みたいな息の吐き方を……」


証拠隠滅してしまえばいいんじゃないかな。【最高】なんてあだ名を好んでいるわけじゃないけど、私が変わった証明として他人の評価を受け入れた。だったら、それを崩そうとしている張本人を亡き者にしてしまえば……。


「やっぱり、殺そう」


「病んでねっ! 今の発言ものすごく病んでるよね!」


学園内での【限界解除】は許可がないとできない。それでも、この距離を詰めるのに、私の脚では十分だ。


「受け入れなさい」


「何をっ!」


一瞬、昔は逃げられたけど、今の私なら一瞬だ。


「死を」


「あほかっぁあア!」


いざ、勝負!


だけど、勝負の瞬間九煉は小さく微笑んだ。


「やっぱ、訂正火蓮、お前は変わったよ。そして、俺も旅をする中で変わったんだ」


九煉が意味深な話を始めたので、足を止めてしまった。


「旅の中でいろいろな事を学んだ」


私の知らない九煉の数年。


「何を……、旅の中で九煉が変わったの?」


思わず聞いてしまった。少し寂しかったのかもしれない。昔は同じ時間を過ごした仲だ。たまにしか家によってくれなかったけど、その度に何があったとか、話を聞かせてくれた。それが突然先の見えない別れを言われ、本当に家には来なくなった。


でも、いずれ学生になると父親にいわれ、いつか会えるのを楽しみに私も学生でいることを望んで今がある。そのきっかけをくれた事には感謝さえ覚えている。


だから、もし九煉が変わったことがあるなら、それを知りたい。そして、私が変わったことも――。


「男ってバカなんだってさ」


ん?


「ん?」


意味が分からず私は頭で起きた疑問を復唱した。


「まぁ、なんだ、俺旅でお前から逃げる方法を何個も考えたんだ。で、いつだか、飲み屋で食い逃げしようとしてた酔っ払いが教えてくれたんだ」


こいつろくでもない旅をしてたんじゃ……。


「こう叫べばいいんだって」


センチメンタルな感情に浸った分、理解が追い付かない。


そんな私を差し置いて、ろくでもない旅の中で培った呪文を九煉は叫ぶ。


と、同時その瞬間、私の中で色々なものが吹き飛んだ。



「火蓮が素っ裸で廊下を走ってるぞっ!」



突如、私達二人しかいなかった空間に瞬間移動でもしたかのように人が溢れかえった。


「なっ」


じろじろを嘗め回すかのような男子の視線が集まる。


自分で血の気が引いていくのが分かる。だって、その目があまりにも気持ち悪かったからだ。


服を着ているとはいえ、私は体を隠すように腕を抱く。


そして次には勝手に期待の喪失に絶望にあふれるやる気のない空気。さらにはなぜか私を責めるかのような、冷たい視線。


「で、デマカセに決まってるでしょ!」


思わず叫んだ私の声に、舌打ちがありとあらゆる場所で木霊した。


「うわっ、だから男って気持ち悪いのよね」


運よく、騒ぎの中に女の子もいてくれた。そして、不埒な感情で廊下に飛び出してきた男子を侮蔑の眼差しを持って串刺しにし始めた。


「うわー、本当に火蓮の裸見たさに出てきたのっ、最悪っ」


「いや、だってね、そこは……」


「死ねばいいのに」


「誰だ男の願望を踏みにじったのは!」


「女子と男子の寮分けてもらおうよ」


「ご、ご無体なっ!」


「いくら女子はもしもの場合【限界解除】の許可降りてるからってこれじゃあねぇ」


「【限界解除】しなくても十分強い方が大勢いますよ」


そ、そういえば寮での【限界解除】女子は出てるんだった。襲われることを想定してなかったから忘れていた。


「でもさ、そもそも誰がそんなウソ吐いたの?」


「そ、そうだ! 誰だ一瞬でも期待――んんっ、男子を陥れようとした奴はっ!」


しだいに男女ともに犯人探しに論点が移っても、一瞬の騒ぎの内にとうの犯人は逃げ切ってしまっている。


「はぁ」


九煉の策のおかげでどうでもよくなった。


幼馴染とか、今までの苦労とか、九煉が私一人の獲物だという認識とか。

だから、皆で狩ろう。


あの九煉(バカ)を――。


「犯人は分かってる。だから、手伝ってもらってもいい?」


二つ返事で大勢から返ってくる。


「犯人は元九煉、例の件で噂されている私が今一番殺したい幼馴染(てき)よ」


私の静かな怒りに小さく悲鳴が上がった。


そして、怒りは拡散して獲物を狩りに寮全土へ広がっていく。


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