理由
「なんて言ったらいいのかな?」
「聞くな」
「なんて言うのか、純粋な世間知らず」
「ただのバカでしょ」
さっきから火蓮の言葉だけ棘がある。拳よりはマシだけど。
「それで、その後はどうなったのかな」
「さあ……。今後をどうしたらいいか訊こうにも、俺の周りから人がいなくなって……」
「なるほど、それで僕の所に来るしかなくなった。どちらにせよ、代表会が動くのを待つしかなさそうだね」
「待ってる時間があるなら、その間にできるようにしちゃえば?」
「なんという単純かつ無理難題を押し付ける子だ」
「げふ」
当たり前のように蹴られた。
「人がいなくなったっていうことは、この話はすぐにでもこの学園全土に広がるだろうから九煉はどこかに隠れていた方がいいんじゃないかな。その測定をしてた人が言っていたとおり、涙ぐましい努力でこの学園に入った人も少なからずいる」
俺は「おいおい」と頭を抱えながらため息を吐く。
「なんでそんな学園を選んだんだよ。別に普通の学生生活ができるなら俺はどこでもよかったんだけどな」
ふふ、と火群が小さく笑う。
その間何かを考える仕草をしていた火蓮が徐に火群に尋ねていた。
「この学園……といより、【花王】ってそんなに入園条件たかかったっけ?」
「火蓮は【花種】からの進学組だから、その認識は薄いね」
「【花種】?」
火群が火蓮をちらっと見る。知ってはいるが、当事者からの説明を要求したのだろう。そんな兄妹のアイコンタクトを尻目に俺はただ説明を待つ。
「一応ね、【花種】は【花王】の付属校でエリート校だとされているのよ。入園条件が細かくすべての条件を満たさない限り入園が認められない」
「よく入れたな」
素直に感心しただけなのに、何を勘違いしたのか思いっきり睨まれた。
「【花種】に入ると決めてから火蓮は本当に努力したからね。特に入園条件にはなかった丁寧な所作には苦労したみたいだけど、見ているこっちが胸を熱くされたよ。なにせ、目的は入園事態じゃなくて――」
「うっるさい! 昔の話なんてしないでっ!」
「はいはい」
「そ、それで、【花王】って面接だけで条件らしい条件ってきいたことがないのよね。それに噂では学園長の偏見で合否が決まるとか」
何かを誤魔化したように続きに戻した火蓮の傍で火群が俺をみて微笑む。なんというか気持ちが悪い。
追及してもろくなことにならなそうなので、火蓮が作った流れに俺も逃げることにする。
「火蓮も面接してるのか?」
「当たり前でしょ。【花種】の生徒でも弾かれた子は弾かれたわよ」
火蓮にそのつもりがなくても俺には罪悪感が胸を貫く。入りたくても入れない奴はいるということなのだ。それなのに俺は……入ってしまった。
「落ち込んでいても仕方がないだろうね。それに、非合法な方法で入園したということはそれに関わった学園関係者がいるということだ」
「それって――」
「少なからず教員以上の人間」
言葉にされて思わぬブラックな部分に余計に落ち着かない。親父……なんてことをしてくれたんだ。
「それで……」
「なになになにっ、納得してないで説明してくれ、俺の心臓が持たないって! 超こえぇ、まだなんかあるのかこえぇんだよ!」
「呆れた昔のままのビビりっぷりね」
「猫の皮を脱いだあなたに言われるのは心外だな」
ポキポキと火蓮が指の骨を鳴らす。
「ひぃいいいっ!」
ツッコミの追撃よりも悲鳴を上げるしかできません。
ふんっ、と一言漏らし、意外にも説明はしてくれるようだ。
「代表会がまだ誰も動いていない」
「どゆこと?」
「密入国してきた奴を放ったらかしに普通はしておかないってことよ」
この野郎根に持ってやがる。
「つまり、裏入園してきた九煉よりも、裏入園させた存在を最高責任者に報告、指示を仰ぎに行っている可能性が高いってことだよ」
「うぇ、ブラックかつ深刻」
「他人事じゃないでしょ」
呆れたように言われるが、俺は本当に何も知らずにここまで来ている。知らないから許されるってわけじゃないけど、どうしたらいいかなんてわからすはずもない。
「にしても大丈夫なのか、」
「なにが?」
「だって、代表会っていっても生徒だろ? 危険がないのかなぁって、権力的な暴力の意味で」
「本当に変わってない、こんな時に人の心配?」
「え?」
「なんでもない!」
「ふふ、気持ちはどこに彷徨っているのか、知りたいところだね」
「火群でもぶつわよ」
「これは失礼、以後気を付けるよ」
時折起こる、疎外感はなんだろう。俺の知らない会話の意味は明かされる様子はない。どことなくさみしいんだが。
「一応教えておくと、ここの学園長は伝説のプロの一人だから並大抵なことでは揺るがないだろうね」
俺はぞんざいな一言だけを返し、落ち着かない気持ちを抱いたまま、その代表会とやらが俺の前に来るのを待つしかないのだろう。
火蓮が来てから警戒の為に逃げる体制を整えていた俺は、改めてベンチに腰を下ろしなおした。
「さて、それじゃあ、僕は行くよ」
「あれ、一人にするわけ?」
「流れで私の存在もいなくしたわね」
「ちがっ、言葉のアヤだって!」
「言われなくても立ち去るわよ」
「ははは、僕もこの学園の生徒だからね。まだ行事が残っているんだよ。それにやらなければいけないこともあるんだ」
冗談で引き留めようとしただけだから、手を上げあいさつ代わりとする。
「それじゃ、また」
「次があるのか怪しいけどな」
「大丈夫だよ。それよりも火蓮」
「ん、あんた気を付けなさいよ」
「どうでもいいけど、あんたってやめない?」
一瞬黙るも火蓮は言いなおした。
「九煉、気を付けてさっきの話の続きだけど、努力して入った人間は少なからずいるんだから」
さんざん人のトラウマを作った女の子に心配されるのもどうかと思うけど、そこは素直に聞き入れよう。
「ありがとう。でも俺の取柄が頑丈なのは火蓮が一番知ってるだろ?」
「それもそうね」
久しぶり会った火蓮が初めて微笑んだ。
そうして二人はいなくなり、俺は一人になった。
◆
「それで何?」
二人になった火蓮は九煉から離れてから問いただす。
「【傀儡】は使わなかったんだけどな」
「わざわざ、私に九煉の恨みを買った連中の説明させた時点で気付くわよ。それに今さら火群が【花王】に入った理由も聞きたかったし」
「さすがに僕の妹だね」
「前置きはいい」
「そ。話すことは一つだけだね。火蓮が訊きたかったことと僕が説明しようとしていたことは同じ理由だから――」
「九煉を誰が入園させたって話よね。火群ならもう気づいているんでしょうけど」
ぽかんと火群が呆けた表情をした。
「僕の妹なのにずれた部分にひっかかったなぁ」
どうやら火蓮の勘違いがある。
「なんというかそういう間の抜けた部分は九煉に似たのかな」
「なっ、なんで血のつながりもない九煉に似るのよ!」
「未来の似た者夫婦かな」
「だからっ、それは昔の話で!」
「おや、長い年月で他に好きな人が出来ていたのか、それとも単純に九煉への気持ちがなくなっただけなのか、兄として知りたい部分だね」
「お、怒るわよっ!」
「ふふ、久しぶりに火蓮にも会ったから楽しくてね。じゃあ、からかうのはここまでにしよう。話っていうのは――」
ようやく、火群が【花王】に入園した理由が話された。




