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桜の名前
燦々とした陽の光に 緑の若葉が濡れていた
それをぼんやりと眺めているところへ 一組の親子連れが通りかかる
これは葉桜よ 母親がそう呟いた
だけどそれは 傍観者であるぼくには 少しばかり奇妙な話
桜は桜なのだから リンネもさぞかしご立腹だと思うのだ
それともこの木は 花の散る前と散る後で 何か違う存在者なのかしらん
それはまるで 大人と子供が別々の生き物と言うようなもので……
そこまで考えてぼくは ふと木漏れ日の中に立ち止まる
親子連れはもういなくなっていた
そして子供の頃のぼくもまた いなくなっていた