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Phase:3

 雷を鳴らす雲がどこかへ消えたのか今は横殴りの雨の音だけが教室に響く。雨が横殴りだということは風が相当強いってことなのだろうか、まったくもって帰りたくない状況であった。

「あ、あのさ……」

 沈黙を破るように悠祐は惟神に声をかけた。声だけで反応した惟神は顔をこちらには向けていない。

「ん?」

「やっぱり怒ってる?」

「別に怒ってないよ!!」

−やっぱり怒ってる

 顔をこちらに向けていなくても何となく想像できるのはそれほど惟神の声が脅迫めいていたからだ。

 カリカリ音がした。惟神が勉強し始めたのだ。何を勉強しているのか悠祐のところからはわからないが何かをしていた。

 悠祐の席は窓側の後ろから二番目の位置で惟神の席は六列ある中の右から三番目の前から三番目、距離からしても見えないがその上悠祐のところから見えるのは惟神の後姿だけである。

 悠祐は惟神をちらっと見た。それだけなのに悪寒を感じた。俺はきっと殺されると思い身震いした。男なのに情けない。

「そういえばなんで悠祐クンは帰らないの? 傘がないわけじゃないでしょ? もう六時前だし」

「あ、いやまーそうなんだけど……」

 しどろもどろになりながらも悠祐は言葉を紡ぐ。帰るタイミングを失った、とか、君が怖くて帰れない、とか口が裂けても言えないこの気持ちを悟られないように。そしてなるべく怒らせないように。

 それがこの結果である。

「中途半端だ……」

 気付かないうちに声が漏れた。小さいから惟神には聞こえてないはずである。なにしろ距離も結構あるのだ。

「なんか言った?」

 撃沈。

「いや、じゃあなんで惟神さんは帰らないの?」

「さっきの会話からわかるでしょ? 僕には傘がないんだよ」

「あーじゃあ雨が降ってなければ…」

「そりゃ帰るさ。学校にいてもつまらないし、何しろムカつく」

「うっ……」

 言葉に詰まった。この会話中惟神がこちらを向かなかった。やっぱりこの怒りの元凶は。

−俺だ

 今度はちゃんと口には出さずにすんだ。けど沈黙が、何か言わなくてはいけないと悠祐は思い、焦った。

「じゃあ、一緒に帰ります?」

「えっ?」

 惟神が悠祐の方を向いた。

−何言ってるんだぁぁぁあああああああああ!

 今更訂正できるわけがなかった。さっきまで惟神から感じていた悪寒は一変して希望へとなり変っている。ここまできたら自棄やけだ。なるべくの家の方向が分かれることにかける。もうそれしかなかった。

「家どっちの方?」

「悠祐クンの家の十メートル付近だよ? それすらも覚えてないの?」

 惟神はぷぅと口を膨らませ怒っているんだぞ的な意思表示をしている。しかし、そんなもの悠祐の視界に入っていても悠祐の心はすでに体から離れてしまっていた。

「さよなら、僕の人生」「さっさと行くぞ!!」

 声が重なった。悠祐の声は惟神の声にかき消されて聞こえなかった。

 そして二人は教室を後にした。惟神が悠祐の傘を右手にしっかり持っていた。

 

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