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Phase:2

 あれから空は分厚い雲に覆われ晴れる様子はなかった。二十分が経過した今でも目の前の少女は雷の恐怖と闘っていた。雷が鳴るたびに体を震わせている。それでも少女も帰るつもりはないのか特に何かするわけでもなく少女は自分の椅子に座っていた。そしてまだ悠祐はまだ少女の名前を聞けずにいた。不意に少女が沈黙を破り悠祐にしゃべりかけた。

「お前、なんか話題ないのかよ……こう静かだとなんか……不快だ」

 そのお前っていうことに悠祐は腹を立て反論する。

「その前に、お前って言うな! 俺には籠林悠祐っていう名前がちゃんとあるんだよ」

「知ってるよ。じゃあ悠祐クン、僕の名前思い出した?」

 思い出すも何も悠祐はこの少女の名前など知らない。だからさっきから聞いているのではないか、とか思うが悠祐はそれは口にはしなかった。

「そもそも、君の存在に気づいたのは今日が最初。名前なんて知るわけないだろ」

 考えた結果だった。少女は傷ついただろうか、しかし、事実だ。しょうがない。

「やっぱり、覚えてないか……」

 最後の方は尻下がりでよく聞こえなかった。そこに雷が鳴った。だけど今回少女は驚くこともなく、平然としていた。さっきまではたんなる演技だったのか、それとも今の少女はそれほどまで放心状態なのかどちらかであるのだが、どちらかというならば後者が正しいかもしれない。今の少女は心ここにあらずという感じであった。

 少しではあったが沈黙の後、少女はまたしゃべりだした。さっきよりもトーンは落ちていた。

「君はね、昔、僕と結婚する約束をしたんだよ。覚えてないよね……言われた時ほんとに嬉しかった。幼稚園の時だったけどね」

―幼稚園?

「僕だけ覚えてるなんて淋しいな、恥ずかしいし、なんだか僕馬鹿みたい」

そう少女が告げると下を向いてうつむいた。

 悠祐の幼稚園の記憶は……乏しい。というかむしろないといっても過言ではない。しかしこの少女は覚えていた。その記憶力は人間離れしている。それとも悠祐との愛がそれほど深かった証なのか……。しかし悠祐は覚えていなかった。

「ごめん、やっぱり俺……」

 そう言うしかなかった。少女は余計に悲しくなるだろうか、そう考えると心の奥が少し痛む。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。心の奥で反芻する。

「いいよ、大丈夫、気にしてないからー」

 少女が言うがその顔が嘘だと物語っていた。少女は悠祐と目を合わせようとしない。それは明らかに避けていた。空を仰ぎ、教室をぐるりと見回す。その間も間違って悠祐を見てしまわないように考えているのか絶対に目は合わない。言いようのない空気が辺りを包み、重苦しいことこの上ない。できれば、このまま逃げ出したいが、明日、明後日と目を合わせるクラスメートだ。できるわけがなかった。

 その重苦しい空気を断ち切ったのは、少女だった。

「じゃあ改めて僕の名前は……」

 悠祐は生唾を飲んだ。時間はゆっくりと動いているのか? 時計を見るが、カチッカチッといつものように一定だった。

 何秒たったか。


 正確にはわからないけど多分五秒足らず。本当に? 多分。そう、確信なんて……ない。


「ふぅ」と少女が一拍置くために息を吐いた。それと同時に少女の肩まで方まである髪の毛が揺れた。 いや、流れた。落ち着いた、澄んだ声が静かな教室に響いた。


「そう、僕の名前は惟神紋乃いがみあやの

 悠祐はどこかに懐かしさを感じた。

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