Phase:1
青い空が広がっていた。澄み渡る青い空はどこまで続いていて終わりがない。終わりがないわけではないが終わると同時に最初の場所に戻ってくる。それを終わりと言って言いならば終わりはあると言っても言いだろう。
今の時間はだいたい四時をちょっとだけ過ぎたところだった。
籠林悠祐は友達との会話に花を咲かせ、楽しんでいるところだった。
五月上旬。南袱紗第三高等学校の一年である悠祐は友達らしき人がようやくできてきた。高校に入って初めてできた友達が女子というのはある意味ですごい。普通は男子の友達と会話を重ね、相性、雰囲気などを考えながらこの人なら友達としてやっていけそうと自分が思うなら大体、相手もそう思っているものである。そしてグループになっていくのである。
しかし、悠祐はほとんどの順序をふっ飛ばし、むしろ吹っ飛ばされた形でその女子と友達になった。そのおかげで男子とも何人か友達ができたわけで、まぁ結果オーライというやつである。
なぜ、このような経緯になったのか知るためには、時を一週間遡らなければならない。
雷も唸る非常に雨の強い日ことだった。
悠祐は一人窓の外を仰いでいた。たまに光がやってきてその後を追いかけるかのように音が鳴る。そう、雷は止む気配がなかった。同じく、雨も。強く降っている。
そういう日はたいてい憂鬱になるものである。案の定、悠介もその一人である。「はぁ」と窓に向って溜息を吐いている。
その時だった。ガラガラっと音をたてて教室のドアが開いていく。その先には一つの人影があった。雷が鳴る。白と黒のコントラスト。それは不気味で。怖い。そう、悠介は感じた。次の瞬間までは…。
「はぅ…」そう言ってその不気味で怖い影が明らかに外見にそぐわない声をあげる。目が合った。刹那。数秒。数分。数時間。それは永遠にも感じた。けどきっとその永遠は刹那の時間しかたっていないのだろう。
そうしてすぐに影が悠祐の存在に気づいた。
「お、おま……いつからそこに!?」
いつからだろうかそんなことを考えてもなかった。
「さあね」
沈黙が続く。初めてこのクラスの人と会話をした瞬間だった。
「お前、しゃべれ、あぅ……」
少女が話している瞬間に雷が鳴り、うろたえた。どうやら彼女は雷が苦手らしい。それはほんとに些細な無駄知識だった。テストに出るなら覚えてやっててもいいが、あいにくというか絶対にテストなんかに出るわけがない。
「俺だって人間だ。しゃべってもおかしくはないだろう? あと一つ、君名前は?」
まったくと言っていいほど知らない顔だった。見たことあるだろ? とこ言われれば見たことなくないような気がしなくもないが、いたのだろうかこんなやつ。悠介の記憶では初見だった。
「僕の名前か?」
僕? っと思ったがあえてそこのは突っ込まず聞き逃した。
「僕の名前はまりーあんとわねっと?」
「俺に聞くな! つか、絶対違うだろ!」
「え!? なんでばれたの? もしかして君……」
「……な、なんだよ」
沈黙が流れる。悠祐は少女に冷たい視線で見られる。その視線は冷たいというより疑いの目。冷酷だった。
一秒。二秒。
――三秒。
少女が口を開いた。
「もしかして僕のストーカー?」
「んなわけねーだろ!!」
ものすごく真面目な顔で少女が平然と言ったので悠祐はたまらず噴き出した。「な、何笑ってるんだよ!」と少女は反論してくるが、普通にこいつは馬鹿だと思う。いや、きっとただの馬鹿ではない。そう、こいつは大馬鹿に違いない。
「で、君の本当の名前は?」
悠祐は明後日の方向に向きかけていた話題に軌道修正をかけ、戻す。
「君君君君うるさいなーお前は」
―誰のせいだよ……まったく
この少女は自分だと思っていないのだろう。その顔に悪気という二文字はなさそうだった。
「僕の名前は……はぅ」
そこでまた雷が邪魔をした。耳を塞ぎ、体は震え、少女は雷に怯えている。未だに立ち上がりそうな気配はない。
―いつになったら名前聞けるんだよ……
「はぁ」っと小さくため息を吐いた。