プロローグ
辺りは酷く寒かった。
月夜に照らされ見渡す限りの雪は、人を魅了する銀世界と化し光り輝いていた。辺りには風も吹き荒れ、木々はざわざわとお互いの葉が擦れ合いざわついている。降り積もったばかりの雪が辺りを吹き荒れる風にいざなわれ漆黒の夜空へと舞い上げられた。舞い上がった雪は漆黒の夜空の中で月夜に照らされ今一番の輝きを身に纏い、放つ。ダイヤモンドと化した雪は地面に降り積もる雪と一緒に輝き瞬いた。美しく幻想的な世界が今ここにあった。
そこに影が二つ。
月見る少女と銃を持つ男。
場にそぐわない二人。
それは距離にしてたった一メートル程度。
銃を突きつけられている少女に脅えている様子は見られない。じっと月を見つめていた。だいたい七,八歳程度の少女は少し大きめのフリルの付いた白い七分袖のワンピースを身に纏っていた。それは見るからに寒そうで、この点においてもとても少女が寒そうで場にはそぐわない。しかし、少女はやはり寒そうでなかった。もうひとつ、少女の着る白いワンピースは血と思われる鮮やかな色合いの赤色に染まっていた。それは少女の血か、他人の血かは不明のまま。しかし、もしその血が少女のものだとしたら少女の生はもう長くはないだろう。
「……こ、これで終わりだな……」
男の声は震えている。それは明らかに少女に対する恐怖心からくるものだと感じられる。大の大人が少女に恐怖する場面なんてあるのだろうかと思うが、実際にその光景は目の前で繰り広げられていた。
男の持つ銃が震える。対して少女はその”人間”を殺すための凶器を向けられている状態でも笑っていた。その笑い方はまるで何も知らないかのような純粋で。真っ白で。
「おじさん? 誰? それは何?」
ひぃっと男は驚く。ささいな少女の発言。その男の行動に少女も驚いた。
「お、おじさん?」
男は無視をした。そう、少女の命はもう長くない。自分が殺さずとも出血多量で死ぬに違いない。しかし、自分が課せられた使命はその自分の目の前にいる少女の完璧な死。そうだから自分はこんな少女の状況でも自分は撃たなければいけない。銃を。少女に。
せめて、痛くなく苦しくない死を迎えさせてあげよう。それが自分にできる少女にできる最高の……。
男はトリガーに指をかけた。銃口を少女に向ける。
息を。
一回。二回。
――三回。
呼吸する。
――よし
トリガーを引いた。無機質な銃声が一発、辺りに響いた。
時が。止まった。本当に? わからない。永遠に? それもわからない。
「ぐ……はぁぁぁ」
ドシャリと雪のつぶれる音。倒れたのは男だった。あっけない男の死。真っ白で純白な雪は男の血を吸い込み、取り込み。赤く。赤く。赤く。
それを見る少女の目にはこの光景がどう映ったのだろうか。さすがに少女の顔から、笑顔が消えた。そして少女は……