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筆者のお気に入り短編

魔法使いの法廷

掲載日:2026/05/23

 この世界に不可能犯罪はない。



 ――探偵だった父の遺言である。



 高度魔法の発展により、国家憲兵の捜査機能がただの置物と化して久しい現代。

 我がオウール法国は『人の善性を信じる』という、中世じみた精神論によってかろうじて秩序の体裁を保っていた。



『いつか、人の心を育てる魔法を』



 大賢者ブラウニ・リッチミルクの教えも、今や教科書の隅に転がるおこがましい理想論だ。



 魔王が死に、勇者が過去の遺物となり、世界に平和が訪れた結果、皮肉にも悪意を持って人を害すのは人だけになった。



 ……それでも。



 それでもあたしは、正義を信じている。

 神様が正義を信じたからこそ、この世界に司法と、それを執行する魔法が存在するのだ。



 だからあたしは、今日もこの法服を纏って戦う。



 真実を解き明かし、悪を裁き、世界の平和を守るために。



「原告代理人。原告代理人……ドロシー・フラワーズ?」


「ひゃ、ひゃい!?」


「緊張しているのか?」



 正面に座る――というよりも、聳えるテイル・オブライト裁判長が低く、荘厳な声で諭すように言った。



 彼は、ドラゴンだ。他種族を圧倒する巨躯に、オリーブ色の鱗と目を持つ、この世界の碩学として語られる生物の頂点。



 彗星の名を持つ彼は、その鋭くも穏やかな眼を光らせ、あたしを正面に捉えていたが――。



「い、いえ! 大丈夫です!」



 あたしが緊張しているのは、彼のせいではなかった。



 なぜなら、目の前にいる被告弁護人こそ、無敗の帝王と呼ばれるグリム・ローだから。



「これより、国立最高裁判所第一号法廷を開廷する。

 本日の審理は、被告『レッド・フォールン』が、原告である『アノン・プレイヤ』に対し、不当な追放および暴行による損害賠償を求めた訴訟である。

 それでは、まず両名の『リリース』による情報開示を」



 国立裁判所では、まず原告と被告の正体を明らかにするため、裁判長含む五名の裁判官による情報開示魔法『リリース』から始まる。



 これにより、表示された各人のステータスを司法上の有効な証拠とし、公平な裁判が執り行われるのだ。



 被告

【名前】:レッド・フォールン

【種族】:ヒューマン

【年齢】:30歳

【性別】:男

【職業】:冒険者/魔法剣士

【レベル】:64/100

【体力】:B

【魔力】:C

【筋力】:A

【敏捷】:C

【耐久】:B

【固有魔法】:高位秘匿権限により情報を開示制限とする。



 原告

【名前】:アノン・プレイヤ

【種族】:ヒューマン

【年齢】:22歳

【性別】:男

【職業】:冒険者/回復術師

【レベル】:1/100

【体力】:C

【魔力】:SSS

【筋力】:C

【敏捷】:A

【耐久】:D

【固有魔法】:任意の対象に自動で体力と魔力の回復を施す。尚、回復量はアノン・プレイヤの魔力量に依存する。



「それでは、原告代理人。訴状の提示を」


「はいっ」



 勢いよく立ち上がり、原告側を一瞥する。



 ローは私を上目遣いに見つめ不敵に笑みを浮かべながら、偉そうに足を組み、まるであたしを値踏みしているように――いけない。



 あたしは、すぐにオブライト裁判長へ目線を移した。



「原告、アノン・プレイヤは被告レッド・フォールンがリーダーを務めるA級冒険者パーティから不当に追放されました。

 よって、原告側に対し500万(エント)の損害賠償を請求すると共に、業務上で得た報酬を原告へ公平に分配することを要求します」



 被告、レッド・フォールンの顔が真っ赤に染まる。

 コメカミに青筋を立て、今にもプレイヤさんに襲いかかりそうな雰囲気だった。



「被告側の理由としては、求めていた結果が望めなかったことによる正当な解雇とのことですが――それは適切な表現ではありません。

 被告は、明らかな敵意を持って原告に追放を言い渡したのですっ!」



 傍聴席が、ざわめき始めた。

 やった、空気はこっちに傾いてる。



 そもそも、追放裁判は元より原告側が圧倒的に有利なのだ。

 人々はいつだって、理不尽に追い出された弱者の味方。ローが相手だからといって、何も恐れる必要なんて、ない!



「その証拠が、両名の不自然なレベル差です。

 被告は64、対して被害者であるプレイヤさんはレベル1です。共に業務に従事したのなら、どう考えてもありえません。

 不当な扱いを受けてきた証拠です。肉体的、或いは精神的なダメージも相当なものだったとの証言もありました。

 それでも、彼はパーティのために働き続けたのです。信じた仲間を助けるために」


「ふむ……」



 裁判長も、私の話へ慎重に耳を傾けている。



「そもそも、A級パーティのレベルとして、被告のステータスは些か不足していると言わざるを得ません。

 ご存知の通り、死のリスクが一般的となるA級以上のクエストでは、超人級の能力が求められます。

 しかし、被告の能力は筋力以外がB以下。つまり、プレイヤさんの固有魔法によるゴリ押しで依頼を達成してきたことに他なりません!」



 あたしの中で、何かが沸騰していく。



「オウール法国の過去の労働判例(112号事件)に鑑みても、これほどのレベル差を放置した業務継続は、明確な『搾取』に該当します。

 プレイヤさんのSSSの魔力による『自動回復』という過剰な負担がなければ、パーティ自体が存続し得なかったことは自明でしょう。

 故に、プレイヤさんの要求は極めて妥当だと言えます!

 以上です!」



 あたしは、息を切らせて胸を張った。



 勝った!



 今までにない、会心の弁護だ! いくら最強の弁護士でも、これを突き崩すことなんて出来るはずがない!



「被告弁護人、反論は?」


「では、一つだけ。

 その判例における『継続的隷属性』の定義を」


「……え?」


「原告は自由意思で離脱可能だった。 契約魔法による強制も確認されていない。

 ステータスを見比べれば、魔法による反逆だって出来たはずですが―― 違いますか?」


「そ、それは……」


「つまり、判例要件を満たしていない可能性もある」



 一気に、空気が重苦しくなる。

 先程まで味方だった傍聴人が、まるで空気のように押し黙ってしまっていた。



「裁判長。回答がないようなので、先に原告質問を要求します」


「承知した。原告、前へ」



 オブライト裁判長の言葉で、プレイヤさんが証言台に立つ。

 ローは、自分の席を立つとプレイヤさんに詰め寄り覗き込むように、ゆっくりと尋ねた。



「パーティメンバーに対して、あなたは誠実でしたか?」


「え、えぇ」


「本当ですか? 例えば、自分の仕事をフォールン氏に報告していない、といったことはありませんでしたか?」


「ありませんっ!!」


「あなたは、最初からフォールン氏のパーティを崩壊させることが目的で加入したのではないですか?」


「な……っ!?」


「異議あり!! 根も葉もない誹謗中傷ですっ!!」


「認めよう。

 被告弁護人、発言を慎め」


「申し訳ございません、しかし重要なことですので『はい』か『いいえ』でお答えください。

 あなたは、業務後に必ず成果報告を行いましたか?」


「ぐ……っ」


「異議ありっ!!」


「却下する。被告弁護人、続けなさい」


「ギルド法の改定により、勇者以降の冒険者稼業は契約に関する法律が整備されましたからね。

 あなたは、レッド氏のパーティに入る前しっかりと契約を結んだはずです」


「結んでない!!」



 ……結んでない?



 そんなことはない。ギルド法により、パーティでは必ず雇用契約を結ぶことになっている前提条件だ。



 何か、得体のしれない不安があたしの影を踏んだような気がした。



「そうですか。

 では、裁判長。ここで証拠書類『血の契約書』の提出を致します」



 問題ない。



 契約事項は、ギルド法に則った至極当たり前の内容だった。

 事前確認の段階でも、プレイヤさんの証言と矛盾している点は見当たらなかった。



「魔法使い同士の契約に用いられる、ごく一般的な書式ですが、効果については知るところでしょう。

 契約を一方的に破棄すれば、魔力を永久に失う。

 この魔法があるからこそ、我々現代人は他人から信用を得ることができるわけですからね」


「続けたまえ」


「職務規程第4項第3条『職務に関する決定、並びに活動についての結果は必ず雇用主へ報告する』。

 おや、おかしいですね。フォールン氏が()()()()()をしていたのなら、なぜ彼は魔力を失っていないのでしょうか」



 ……その時、プレイヤさんの血の気が引いたのが分かった。

 だから、思わず彼に聞いてしまったのだ。



「も、もしかして、本当に隠していたんですか?」


「違う!! そんなんじゃない!! 話を聞いてくれなかったんだ!!」


「つまり、原告は? 最初から? 自分の業務について何一つ雇用主であるフォールン氏へ報告をしていなかったのです。

 報告義務を果たしていない以上、雇用主が成果を認識できないのは当然ではないでしょうか」


「異議あり!! 経験値搾取そのものは否定されていませんっ!!」


「証拠は?」



 ローは、呆れたように言った。



「しょ、証拠……は……っ」


「レベル差と不当な扱いの因果を証明できる証拠を提示してください。

 或いは、暴力被害を受けた証拠でも構いません。出してください」


「そ、それは、だって、プレイヤさんは自動で怪我や病気を治せるから……っ」


「クックック、これは驚きだ。

 裁判長、原告側はなんの証拠も持たずに被告を犯罪者扱いし、周囲に悪評を広め、挙句500万Eもの損害請求をしている。

 これを誹謗中傷と呼ばず、なんと呼ぶのでしょう」


「では、裁判長! 被告の経験値取得量と、こちらが提出した討伐モンスターから得られる経験値量の比較をお願いします!」


「被告が原告のいない場所でモンスターを討伐している可能性を否定できませんが――それでも構わないならどうぞ、お好きに」


「なら――」



 一手、遅かった。



「ち、違う、そうじゃない!! 悪いのはレッドだ!! 僕は精いっぱい努力したんだ!!」



 あたしが考えるよりも先に、プレイヤさんが叫んでしまった。



「精いっぱい努力しましたか、涙ぐましいですねぇ。

 ところで、原告。あなたは、ご自身の『SSSの魔力』を、王都の闇オークションの決済方法に登録していますね」


「な、なぜそれを……っ!?」


「魔力を対価に、何を購入されたんです?」


「異議あり! 本件とは無関係な質問です!」


「認める」


「何も買ってない!!

 大体、レッドはこの前のクリムゾン・ワイバーンとの戦いだって僕がいなければ負けてた!!」


「プレイヤさん、答えなくていい――」



 ダン!!



 ローが、証言台を思い切り叩くと、法廷は水を打ったように静まり返った。



「原告。その聞くに堪えない戯言を収め、直ちに訴訟を取り下げた後、速やかに謝罪したまえ。

 さすれば、フォールン氏は温情を与えると言っている」


「お、お、温情だと!? レッドが、今まで僕にどんな仕打ちをしてきたと思ってるんだ!!!」


「どんな仕打ちですか?」


「……はぇ?」


「どんな仕打ちですか? 説明してください」


「それは……そう、荷物持ちだ!

 僕は、ずっとパーティの荷物持ちをさせられていた!」


「業務の一環でしょう。

 最後尾にいるあなたに任せなければ、咄嗟の戦闘でモンスターに破壊されかねません」


「ぐ……っ。あ、あとは、経験値を盗んだんだ!

 絶対にそうだ! フラワーズさんも言ってただろ! 僕のレベルが1なんておかしいじゃないか!」


「どうやって盗むんですか」


「プレイヤさんっ!! 待って!!」


「多分……いや、間違いなく固有魔法だ!! レッドの固有魔法で僕の経験値を盗んだに違いない!!

 『高位秘匿権限により情報を開示制限とする』なんて、どう考えても怪し過ぎる!!」



 ……ローは、またしても笑った。



「それでは、裁判官たちへ訊くとよろしい。

 賢者として国の碩学に立つ彼らが、『リリース』を使っても個人の情報を暴けないことなどあるのか? と」


「……ど、どういうことだ」


「そのままの意味である、ということだ」


「はぁ?」


「まだ分からないのかね。

 レッド・フォールン氏の固有魔法は高位秘匿権限により情報を開示制限されているのではなく、『高位秘匿権限により情報を開示制限とする』能力なのだ。

 それ以上でも以下でもない」



 動悸が収まらない。心臓が張り裂けそうなくらいに苦しい。

 そんな、あたしの絶望を察してしまっただからだろうか。プレイヤさんは、膝から崩れ落ちた。

 


「つまり、あなたのレベルが上がらなかったのは、パーティの誰よりも怠けて働かなかったからですよ。原告」



 法廷に、悲痛なプレイヤさんの叫び声が響く。



 それを見下し、笑っているのは被告人のレッド・フォールン。

 ローは、興味の無くなったおもちゃを見るような目であたしを見ている。



 ……そして、判決は無罪。



 ローは、飛び跳ねて喜ぶフォールンさんと静かに握手すると、静かに法廷を出て行った。



「ま、待ってください!!」



 あたしは、彼が裏路地を曲がったところで叫ぶ。



 彼は、ポケットに手を突っ込んだまま佇んでいる。法服を着ていないグリム・ローの姿は、どこか切なそうに見えた。



「なんだ」


「あの判決はおかしい!! プレイヤさんは、間違いなく正義側だったはずです!! 経験値を搾取されていなきゃステータスに説明がつかないんです!!

 それなのに、一体どうやって『リリース』を掻い潜ったんですか!?」



 ローは、コメカミを人指し指で掻きむしると、小さくため息をついて空を見上げた。



「司法試験に一発で合格した者がいると聞いた。

 この私以来、初めての人材だ。だからこそ、追放裁判なんて安くてチンケな仕事を請け負い見に来たのだが――実に期待外れだったよ」


「そんな……そんな理由で法廷に立ったの!? 弁護士は、真実を明らかにするための職業じゃないの!?」


「違う」



 それは、あまりにも残酷な言葉だった。

 指先から、つま先から、ふっと力が抜けて視界が滲む。



「『魔法』と『真実』は決して両立しない。

 あると思えばある、ないと思えばない。それがこの世界の常識なのだ」



 ……そんなの、絶対に認めたくない。



 認めたく……ないのに……っ。



「レッド・フォールンは、正真正銘のクズだ」


「……っ!?」


「パーティの功労者であるアノン・プレイヤから経験値を搾取し、不当に報酬を得ていた。

 自動回復に甘えるうち、いつの間にかそれを自分の力であると錯覚して、傲慢にもアノン・プレイヤを追放するにまで至った」


「あ、あなたはそこまで分かっていて……なぜ!?」


「けれど、ドロシー。

 レッド・フォールンが悪だったからといって、果たして、アノン・プレイヤが正義だと言える保証はどこにある?」



 そして、ローはニヒルに笑った。



「決して、奴から目を離さないことだ。

 さもなければ、キミは私にひれ伏すことになる」


「だ、誰があなたにひれ伏すものですか!!

 あたしは、絶対に、絶対に絶対に絶対に、あなたのような弁護士なんて認めない!!

 この世界には正義があるって、心の底から信じてるんですから!!」



 ……しかし、その三日後。



「し、失踪?」


「そうだ。奴が泊まっていた宿には、『この世界に絶望した』と書かれたメモと魔法陣、そしてスクロールが残されてたよ」


「そんな……っ」


「状況から察するに、恐らく転生したんだろう。もちろん、この世界に住む我々に真実を知るすべはないが――。

 それにしても、古代魔法に縋るなんて滅茶苦茶だ。

 成功するか分からない不確定な魔法を使うなんて、現代魔法使いとしちゃ失格だよ」



 気怠そうな憲兵は、それだけを告げてあたしの前から去っていった。



「……どうして?」



 はっきり言って、少しも状況が理解できない。



 彼は、正義の側だったんじゃないのか? 優しさ故、不当な搾取を受け入れることしか出来ない人だったんじゃないの?



 それなのに、恐らく闇オークションで手に入れた古代スクロールを抱え、あたしにすら隠し事をして、裁判に負けるや否や転生を選んで――こんなことが、本当にあっていいの?



 あたしが信じて、必死に守ろうとした『正義の弱者』は、最初からこの世界を捨てる準備をして、あたしにすら嘘を吐いていたの?



 ……。



「それで、なんの用だ。ドロシー・フラワーズ」



 気が付けば、あたしはグリム・ローの事務所を訪ねていた。



 絢爛華美で、まるで王城のようなセキュリティ。足りないものは一つもないと言っていいほどの、圧倒的な大豪邸。



 そんな、貴族よりも贅沢な館に彼は住んでいた。



「……なぜ、あたしは負けたのでしょうか。教えてください」



 すると、ローは細く上品な葉巻を大きく吸い込んで、深く緩やかな煙をゆっくりと長く吐いてから言った。



「弁護士の私に、ロハで答えを教えろというのか」


「……あげますから」


「ん?」


「あたしが、先生の弟子になってあげますから!! だから、教えてくださいよ!!」


「何を言ってる」


「先生は、司法試験に一発合格したあたしに目をつけて、わざわざやりたくもない追放裁判を請け負ったんですよね!?

 なら、あたしのことが気になってるはずです!! そんな弁護士が弟子になると言ってるんだから、嬉しいでしょ!?」


「ふっはっはっは! とんでもないバカだな、キミは! なぜ、そんな論理飛躍をするんだ!?」


「あなたが最強だから!!」



 武力行使に出ようと魔力を集中させた瞬間、あたしは部屋の各所から出現した青白い手に抑えられ床に突っ伏す。



 それでも、あたしは喋り続けた。



「先生は、本当は正義を信じているんです! そうじゃなきゃ、最強になんかなれるわけがないんです!!

 だから、あたしを欲しがった。一人じゃ変えられないと悟ったから仲間が欲しかった!! そうでしょ!! ねぇ!?」


「クックック」


「なら、あたしのことは抱えておいた方がいいんじゃないですか!?

 あたしなら、きっと先生が諦めた夢を――」


「共犯者がいたんだよ」



 ……は?



「おかしいとは思わなかったのか?

 なぜ、血の契約を破っているアノン・プレイヤの魔力が失われていないのか」


「……あ、あぁ!!!!」


「フォールンの罪は『血の契約書の開示制限を行ない、アノン・プレイヤを騙した』点にある。

 経験値を盗む魔法使いが別にいると考えるのは、むしろ当然だとは思わないか?」


「そんな……でも……っ!」


「私はキミならここまでは辿り着くと、密かに期待していたよ」



 ……つまり、ローはその先にすら罠を仕掛けていたということか。



「恐らく、アノンは本当に『血の契約書』の内容や、下手をすれば存在すら知らなかったはずだが――私がキミなら、必ず暴いて罪を上乗せしてやったことだろう。

 キミの敗因は、自分の理屈に酔いしれ、プレイヤの言葉を鵜呑みにして、第三者の可能性を疑わなかったことさ」


「認められません!! 正義は、そんな方法で破られるわけにはいかないんですっ!!」


「ならば、現代の未熟な司法を恨むがいい」



 ローは、今までのどの瞬間よりも真剣だった。



「この世界が、魔法の発展のみを考えて生きてきた代償がこれだ。

 穴だらけの法律、歪だらけの真実、泥だらけの正義。

 しかし、弁護士は揺るぎない事実への因果を創造し勝利をもぎ取らなければならない。

 キミの敗因は、その現実を受け入れていないことだ」


「……受け入れません、そんな現実。

 あたしは、必ず正義を証明してみせます」


「よろしい。では、私の元で足掻いてみせろ。それだけの啖呵を切ったのだから、『出来ませんでした』じゃ済まさないぞ」


「の、望むところです」


「ただし、給料には期待するなよ」


「成功報酬はお忘れなく」


「私の事務所に泥を塗ったら即刻クビだ」


「その時は断固として戦います」


「この私が負けるとでも?」


「……そんなの、やってみなきゃ分かりませんよ。先生」



 こうして、あたしはグリム・ローの弟子となった。



 魔法と真実は両立しない。



 この、絶望としか言い表せない現実を、いつか否定するために。

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