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花はまだ、魔法と呼ばれていない  作者: 松原 崇


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第9話 中にあるもの


アルバートは、エリアの前に立ったまま言った。


「一人では、分からないさ」


責める響きはなかった。

事実を、そのまま置くような声だった。


「今まで、君の中にある物を感じたことはあるかい?」


エリアは首を振る。


「正直……ありません」


「それが普通だ」


アルバートは頷く。


「君の中にあるものは、

 ずっと“君自身”だった」


エリアは黙ったまま、その言葉を噛みしめる。


「区別がなければ、感じられない」


アルバートは続けた。


「息をしていることを、

 普段いちいち意識しないのと同じだよ」


「……うーん」


エリアはまだ実感がもてない


「だから、少しだけ外から線を引く」


そう言って、アルバートは手を差し出した。


触れない。

だが次の瞬間、異質な流れが道を通った。


それはエリアのものではない。

だからこそ、はっきり分かった。


「……っ」


初めて、自分の中に

別の何かがあると認識した。


アルバートの魔力を基準に、

その周囲にある自分のものが浮かび上がる。


大きい。


他の人がどうかは分からない。

だが、パンパンに入っている感じがした。


広がっているというより、

余白がない。

しかもアルバートのものではない魔力も今取り込んでいる。



「……これってなんで僕、まだ爆発してないんでしょうか」


アルバートは、エリアが自分の魔力を正しく認識したと理解し、少し笑った。


それから、小さく息を吐く。


「……その通り、放置するには危険な状態なんだ」


少し心配した声だった。


エリアは考え込むいつも通り。


つまりこの塊を出さなければいけない?

どーやって?

通り道が細いのはわかった。

なら、切り分ける?

薄める?

とにかく小さくすればいいのか?

中のものを圧縮してもっと取り込めるようにするのか?

なんだこれはなんなんだこれは。

エリアの好奇心と恐れが思考を加速させる。


「つまり僕は小さくして外に出して、少しづつ大きくして道を太くしていく。みないな作業が必要なんですね」


アルバートは目を丸くし、そして思った。

賢い子だ。

感じたエネルギーに恐れながらも思考し、現在の情報だけでシンプルな解決策を導きだしたのだ。


「その通りだよ、今日は私が道に詰まっていたものを小さくして道へおくった。」


たしかに。とエリアは思った。

いつもより流れている感じがするのだ、湖で波紋を見ていた時の感覚が今も。


「へぇー、すごいなあんな一瞬でそんな事があったのか。なら小さくする訓練しないと風船みたいにパンってなっちゃいますね」


いつもより元気になったのでそんな冗談も言えるようになった。


アルバートは笑えなかった。

魔力の蓄積、過剰な取り込みは死なのだ。

幾人もそれで亡くなった。

すでにデッドラインは超えている。

だがエリアはそこにいる。

これはエリアには器があることを示している。


「君は……」


そこに、近づいてくる足音が聞こえる。

振り向くと、ラミアが立っていた。

走ってきたのか、頬がほんのり赤い、


「マーニーさんが、夕食できたって。

 先生、夕食にしましょう」


アルバートは穏やかに頷いた。


「あぁ、ありがとう。では行こうか」


ラミアはほっとした顔で笑って、次にエリアを見る。


「こんにちは」


返事はなかった。


エリアは視線を前に向けたまま動かない。

表情も変わらない。


ラミアは一瞬きょとんとして、首を傾げる。


「……聞こえてない?」


アルバートが、静かに言った。


「今は忙しいんだよ」


「忙しい?」


「頭の中がね」


ラミアは少し考えてから、納得したように頷く。


一歩、前に出る。


そして、ぐっと身を屈めた。


エリアの顔のすぐ近くまで近づく。


「こんにちは」


はっきりと、もう一度。


エリアが、ぴくりと反応した。


「……あ」


ようやく焦点が合う。


ラミアはにこっと笑った。


「やっぱり聞こえてなかった」


エリアは少しだけ気まずそうに視線を逸らす。


「考え事をしてると聞こえなくなるんだよね」


「うん。見てたら分かった。いつもそう?」


エリアは自覚があるのでふつうに答えた


「そうなんだ。気をつけてるつもりなんだけどね、なかなか止まらないんだよ」


自分も魔法のことになるとそうなる事があるのでラミアは理解した。


「わからないって楽しいよね」


アルバートが、軽く咳払いをした。


「夕食にしよう。

 続きは、またあとで」


「はい」


エリアは一度だけ頷いた。

メルには遅くなると言ってきたので食べていくことにした。


考えは、まだ途中だった。

だが、中断されても消えない感触がある。

そしていつもより楽だ。



それだけで、十分だった。


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