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花はまだ、魔法と呼ばれていない  作者: 松原 崇


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第19話 再会

朝。


食卓には、見慣れない背中があった。


旅装の上着を椅子にかけ、静かにスープを口に運んでいる。


エリアは一瞬だけ立ち止まる。


「……兄上?」


アーサーが振り向く。


「久しぶりだな」


三年ぶり。


声は変わらない。

だが肩幅がさらに広くなっている。


エリアは席につく。


皿に盛られた肉を見て、アーサーがわずかに眉を上げた。


「……豪勢だな」


鹿肉、川魚、保存肉ではない生肉。

以前の家の食卓とは違う。


父ローガンが淡々と答える。


「エリアのおかげだ」


アーサーが視線を向ける。


「森に入るようになった。狩りを覚えた」


エリアは肉を切りながらニコニコして言う。


「褒めてくれてもいいんだよ兄上」


アーサーは少しだけ目を細める。


(元気だ)


三年前に帰ってきたときは、

食卓に座るだけで疲れが滲んでいた。


今は違う。


肉を元気に食べている。


「夕刻から森の奥を確認する」


父が言う。


「三年前に王都へ報告した件だ。去年から魔物の出没が増えているが調査は森の浅い部分のみだ」


アーサーが頷く。


「討伐部隊を連れてきた。副部隊長もいる、少し深くまで調査できるとは思う。」


「打ち合わせは昼からだ」


「その前に、少し体を動かすか?」


視線がエリアへ向く。


エリアは肩をすくめる。


「本気でやっちゃダメだよ?」


アーサーが笑う。


「それはお前次第だな」





庭に出ると、冬を越えた芝がまだらに色を変えていた。


父ローガンは腕を組み、少し離れた位置に立っている。

その隣に、見慣れない女性がいた。


「副部隊長のフェイです!」


声が大きい。

背筋が伸び、鎧の立ち姿がやけに整っている。


「本日は打ち合わせで参りましたが、訓練があると聞きまして! 見学よろしいでしょうか!」


「構わん」と父。


エリアは木剣を肩に担ぐ。


アーサーが前に出た。


「久しぶりだな」


「三年ぶりだね」


礼。


エリアは少し楽しみだった。強くなった自分、どこまでやれるのか。


「始め」


踏み込むのは同時だった。


――速い。


三年前より、アーサーも明らかに速い。


アーサーの剣が一直線に来る。

エリアは半歩だけ退く。


届きそうで届かない距離。


その瞬間、足元を払う軌道へ切り替える。


「……っ」


読まれた。


(始めから下段と察知したか)


アーサーは踏み込みを止め、逆に体を半身にして横へ。


(流石に対応してくる)


エリアの目が細くなる。


ならばと。


わざと隙を置く。


少し防御の姿勢を変え、左側の防御を薄くする。


誘い。


アーサーは迷わず踏み込む。


だが次の瞬間、エリアの剣は既にそこにあった。


――後の先。


乾いた衝突音。


フェイが思わず声を上げる。


「今のは、すごいですね!」


攻防は続く。


アーサーは今度は単調に攻めない。


重心を変え、角度を変え、連撃を織り交ぜる。


三年前と違う。


“崩されない”。


(兄上も強くなってるな、でも前はここで負けてた)


体力面の問題は解決していた。

自分の成長と兄の成長を感じながら戦闘は続く。

そしてエリアは受け流しながら、呼吸を一定に保つ。


疲れない。


焦らない。


一瞬、間合いが空いた。


(試すか)


アーサーが踏み込む。


エリアは下がりながら剣を振る。


――その瞬間。


脇腹に、冷たい感覚。



アーサーの動きが止まる。


衣が、濡れている。


ほんの一瞬の出来事だった。


(なんだ)


さらに踏み込んだ一撃がエリアを襲う。


そして、エリアの木剣が乾いた音を立てて折れる。


「そこまで!」


父の声が庭に響く。


静寂。


フェイが目を見開いている。


「今の……何が起きたんですか?」


アーサーは答えない。


脇腹を触る。


傷はない。


だが確かに、濡れていた。


「水か……面白いな」


小さく呟く。


エリアは折れた剣を見て肩をすくめる。


「やっぱ兄上は強いなー」


防御面で耐えれるようになった、だが剣術ではまだ敵わないなと成長と現状を実感していた。


フェイがずかずかと近づいてくる。


「いやはや素晴らしい立ち合いでした。流石は隊長の弟さんですね。」


父も同意見のようだ。


「互いに成長しているな、今後も励むように」


父は満足そうな顔で打ち合わせに向かって行った。


フェイも直立し、屋敷へ向かう。



庭に、二人だけが残った。


アーサーが静かに言う。


「強くなったな」


「兄上もね」


少しの沈黙。


「聞きたいことがある」


「うん」


「あの水は何だ」


エリアは素直に答える。


「剣に水魔法を付けて間合いを伸ばすような技を試してみたんだ」


「あれはやはり魔法なのだな」


エリアの説明は簡単なものだったが、実際は

水の表面張力を強化して剣に纏わせていた。


振った際の遠心力により伸びた水の剣先を粒子操作によって薄く鋭くするような技だった。



「簡単な魔法はね、結構使えるようになったよ」


エリアは指を立てる。


小さな水の刃が生まれる。


す、と地面へ。


芝が、軽く二つに分かれる。


「訓練だから刃にはしてないけどね」


風が吹く。


「ここ一年で作った。狩り用にね」


「便利なんだよ、これ。ちょっと危ないけど」


アーサーは折れた木剣を見る。


「……なるほどな」


アーサーは魔術師と戦闘の経験はあった。

学院時代、王立魔術学院との対抗戦などから経験はあった。


アーサーの中で魔法とは呪文を唱え、その呪文に対して剣術として対応をするものだと認識していた。


エリアの魔法はアーサーの知るそれではなかった。


肉が増えた理由。


森に入る理由。


元気になった理由。


全部、繋がる。


「実戦では、もう敵わないかもしれんな」


小さく呟く。


エリアは笑う。


「まだ兄上のほうが強いよ」


「どうだかな」


アーサーは脇腹の湿りを見下ろす。


あれが本気なら。


鎧の隙間を裂いていただろう。


そんな気がした。


風が庭を抜ける。


討伐部隊は夕刻森へ入る。


魔物は増えている。


三年前よりも、確実に。


アーサーは弟を見る。



エリアは折れた剣の失った部分を水に変え、これはこれでいいな、などと呟いていた。


「……頼もしいな」



見上げた空は、澄んでいた。


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