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花はまだ、魔法と呼ばれていない  作者: 松原 崇


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第12話 昼からの約束



訓練が終わったあと、エリアはメルが置いていった椅子に座り、庭でしばらく空を見ていた。


「……つかれたぁ」


剣を振ったから、というわけじゃない。

魔法を使ったから、という感じでもない。


いつも通りだ。


剣の訓練でも疲れるし、

体の奥に溜まっているものが、今日もなにかをしてるんだろう。


でも、昨日までとは違う。

ちゃんと流れている?漏れているのか?

よくわからないが詰まってる感がない。



(でも、しんどい)


理由は分からないが、確かにしんどい。


(これをどうにかしたいんだよなぁ……)


そう思ったところで、ふと思い出す。


(あ、そろそろ約束の時間か)


昼は宿で食べるから、そのくらいに来て、と言われていた。

忘れていたわけじゃない。ただ、頭の端に置いていただけだ。


エリアは立ち上がり、屋敷へ戻った。



昼食の席。


今日は、いつもより皿の数が多い。今はいないが兄上達も来ているからだ。


エリアは、黙々と食べていた。


「……エリア、今日はよく食べるわね」


母が少し驚いたように言う。


「うん。なんか、お腹がすくんだ」


自分でも不思議だった。


一日中剣を振った訳でもないし、走り回ったわけでもない。

それなのに、身体が食べ物を欲しがっている。


魔力神経回路は、修復され続けている。

器も、少しずつだが確実に広がっている。


そのための“材料”を、身体が求めているのだが——

エリア自身は、そんな理屈を知らない。


「いいことよ」


母は笑った。


「健康な証拠だもの」


「……私もまた魚も食べたいわ」


母がぽつりと言う。


「生で」


「それはお腹痛くなっちゃうんじゃない?」


「わからないじゃない」


「わからないならやめたほうがいいよ」


母は生魚が食べたいようだ。


そんな雑談の中で、母がふと思い出したように言う。


「うちの国にも、海があればいいのにね」


「遠いんだっけ」


「ええ。向こう側よ」


地図の話。

国の外の話。


エリアは、なんとなくそれを覚えておいた。



宿へ向かう。


街でなにかあるのか、大きな馬車が行き交いしている。


宿に着き、扉を開けるとカウンターにいた女性が顔を上げた。


「いらっしゃい、ぼっちゃん」


「こんにちは、マーニー」


「昨日の子に会いに来たの?」


「うん」


「ふふ、女の子よね?」


「うん。用事もある」


「用事“も”ね」


にやりと笑われる。


「部屋はどこ?」


「奥の二階よ」


エリアは軽く頭を下げて、階段を上った。



部屋の前でノックする。


「どうぞ」


中に入ると、ラミアがいた。


昨日と違う、普段着なのか街娘のような雰囲気。

どこか落ち着かない様子で、窓のそばに立っていた。


エリアの姿を見た瞬間、ぱっと表情が明るくなる。


「約束覚えてたんだね」


「うん」


ラミアは、少し照れたように笑う。


なんか嬉しそうだな、なぜかはわからないけど。

それが、なんとなく伝わってくる。


「うれしいんだ」


その一言は、とても素直だった。


エリアは、少しだけ恥ずかしくなった。



二人は、街を抜けて丘へ向かった。


散歩がてら、という距離。


丘の上には、見晴らしのいいベンチがある。

風が抜け、街と森と遠くの地平が見える。


丘へ続く坂道で。


「ちょっと休憩したい、疲れた」


エリアが言う。


「そこに座ろっか」


いくつか木箱が置いてある、二人はそこへ腰掛けた。


「ちょっと気になったんだけどさ」


「うん」


「なんでうれしかったの?」


ラミアは少し戸惑って答える。


「私って、普段先生の助手をしているんだけど、先生ってほら、大人だしあまり話すタイプでもないから」


「たまには友達みたいなのもいいなってうれしくなっちゃったの」


「友達か」


エリアも交友関係が広い訳ではない、体力の関係もあって塞ぎがちな部分もあったからだ。


「そういう事なら、ぼくも嬉しいかも」


「そう?ならよかったわ」


ラミアは嬉しそうに笑う


少しして丘に着いた。




「昨日のこと、覚えてる?」


ラミアが言った。


「大きな塊と小さな粒」


エリアは目を閉じる。


体の奥。

ずっとそこにある、重たい感覚。


「まずは、薄くする」


アルバートがやったように。


「……それができない」


正直に言う。


塊に触ろうとする?触れる?。

端だけ?という感覚が掴めない。


「私も、教えられない」


ラミアは困ったように言う。


「もうできちゃってるから」


感覚でやってしまっている。

だから、言葉にできない。


「でも……」


少し考えてから、続けた。


「やってあげることなら、私にもできる」


一瞬、ためらい。


「……先生みたいに、サラッとはできないけど」


ラミアは、そっとエリアの手を取った。


少し恥ずかしそうに。


「伝わるか、分からないけど」


エリアは、何も言わずに目を閉じる。


触れた瞬間、分かる。


(魔力だ)


アルバートほど速くない。


でも。


(何をしてるかは、分かる)


ラミアは、塊の“密度”をいじっている。


削るんじゃない。

壊すんでもない。


薄くして、

それから固め直している。


(……ああ)


エリアは、理解する。


「密度を、変えてる?」


ラミアは少し驚いた。


「うん……そうなのかな、薄くしてるってしか言いようがないんだけど」


手を離す。


「でも、ぼくはまだ」


エリアは目を閉じたまま言う。


「そもそも、この塊が“動かせるもの”って、身体が分かってない」



頭では命令できない。

でも、存在は感じている。


「だからね、掴むしかないのよ」


ラミアは静かに薄くし粒を整えて流していく。


「私も最初の訓練ってほとんど瞑想だったよ」


「身体に教える感じ、身体が覚える感じかな」


「これは感覚だから個人差があるんだって」


エリアは、少し笑った。


「難しいな」


「うん」


「でも……」


もう一度、塊を感じる。


(薄くして、固めて、大小にして……)


理屈は見えた。

人にしてもらう感覚もわかった。


だができるかどうかは、別だ。


「そんな感じ、か」


ラミアも笑う。


「そんな感じ」



その日は、それ以上やらなかった。


ベンチに座り、風を感じる。


無理はしない。


エリアはふと感じた疑問を投げかけた。


「この薄くして大小にして流すのって魔法を使う人はみんなやってるの?」


ラミアは少し嬉しそうに答える


「これはね、先生の言う“道”を少しずつ太くするためものだと思う」


「一度に大きなもをたくさん流すと痛めちゃったり詰まっちゃったりするみたい」


「私も詳しくはわからないんだけどね、先生ねあんまり教えてくれないんだ」


エリアは不満そうに言う。

だが理由はわかっているので納得もしている。


「だからね、助手になったの」


「聞いても教えてくれないんだもん、近くにいて学ぶしかないと思って」


なんか行動力があるんだなとエリアは思った。


自分で考えろってことなのか。


はたまたなにか言えない理由でもあるのか。


「魔法使いってあんまり会った事ないんだよな」


教会の司祭くらいか?それもべつに魔法を見た訳でもない。


「そもそも少ないもん、でも私の国には魔法大学があるから見たことは沢山あるよ。」


「魔法大学か。本で読んだ事あるな。」


「そう、楽しそうだよね」


ラミアは楽しそうに笑った。


そんな話を少しの間していると日が沈んできた。


別れ際、エリアは思う。


(これは、すぐにはできない)


でも。


(できる気は、する)


それだけで、今日は十分だった。


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