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花はまだ、魔法と呼ばれていない  作者: 松原 崇


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第11話 後の先


朝の食卓に、珍しい顔があった。



「兄上……?」


エリアの視線に気づき、男はゆっくりと顔を上げた。


「久しぶりだな」


穏やかで落ち着いた声。


オルトレイル・アーサー。

オルトレイル家長男。


王立学園騎士科を首席で卒業し、そのまま王城で騎士として勤め始めたばかりの、現役の王宮騎士だ。


強い。

優しい。

かっこいい。


エリアにとっては、疑いようもなく“憧れの兄”だった。


「帰ってきたの?いつまでいるの?!」



「用が済んだら帰るよ。二、三日ってところかな」


エリアは、寂しそうな顔で兄を見つめる。


背が伸び、肩幅が広がっている。

けれど、眼光の鋭さや優しい笑い方は、兄のままだ。


「おい」


横から声が飛んだ。


「おれもいるぞ」


次男、テオルだ。


「……やぁテオル」


「その腫れ物みたいな扱いはやめろ」


「いつも通りだよ」


テオルは王立学園騎士科の一年生。

なにかと突っかかってくるが、仲が悪いわけではない。


「なんでテオルまで帰ってきてるんだ素晴らしい兄上との再開なのに」


「休暇だ休暇!あとおれも兄上だ」


冗談のような小競り合いが始まりかけたところで、父が口を開いた。


「今日は、少し特別だ」


卓上には、いつもより少し豪華な朝食。

肉もある。


「久しぶりに家族が揃ったのだ、皆で訓練をしようと思ってな」


「えっ」


エリアの声が裏返る。


「エギンにも、来てもらっている」


エギンはオルトレイル家の剣術指南役、創剣流剣術師範である。


「……わーい」


エリアは、明らかに嘘のテンションで言った。


「楽しみだなー、訓練ー」


アーサーとテオルが、同時にこちらを見てそして思う、変わらないなこいつはと。



父はその様子を見て、少しだけ目を細めていた。


「今日は元気そうだな」



見抜かれているのである。



庭には、すでに一人の男が立っていた。


背筋の伸びた立ち姿。

服装は質素だが、どこか執事のような佇まい。


「お久しぶりでございます、ローガン様」


深く、丁寧な一礼。


父に礼をしている、エギンだ。


「本日はご一緒できること、光栄に存じます」


声は低く、柔らかい。


「まずは、軽く」


そう言って、前に出たのはアーサーだった。


「久しぶりにやるか、エリア」


「……うん」


兄は、エリアが体力に難があることを知っている。

だから最初は、軽く合わせるつもりだ。


——だが。


一合目。


エリアは、紙一重で避けた。


(ぎりぎりだな、わざとか?)


二合目。


兄のフェイントを、読んでいたかのように本筋の攻撃をいなす。


(……ん?見えている?)


三合目。


エリアはわざと隙を作る。


——打ち込みたくなる位置。


だが、兄が踏み込もうとした瞬間、エリアは後の先を取りにくる。


「……」


アーサーは、思わず口角を上げた。


「面白い」


少しだけ、剣撃が速くなる。


エリアは、それを必死に捌く。


見えている。

考えている。


だが——


数合で、息が上がった。


体力が、尽きる。


「そこまで」


二人は同時に礼をした。


「いやー兄上はやっぱ強いなー」


芝生に寝っ転がるエリア


父ローガン、アーサー、エギン。

三人はそれぞれ、無言でエリアを見る。


剣術は、まだ粗い。

だが——


(考えている量と質が違う)


戦闘時の組み立て。

間合いの制御。

誘導と罠。


才覚が、異常だった。


一方で、テオルは腕を組んだまま首を傾げる。


「……ふーん」


「あとで俺ともやるぞ」


「……いいけどちょっと休憩してからね」


「逃げるなよ?」


「逃げないよ、その必要もない」



次は、テオルとの手合わせ。


合図と同時に、

テオルはいきなり鋭い突きを放った。


「……危ないなぁ」


エリアは、紙一重でかわす。


(初手、速い。

 でも……分かりやすい)


攻撃を誘導する。

角度をずらし、流れを作る。


そして——


完全な隙。


打ち込む。あっ、と寸止めする。


だが。


「——甘い!」


テオルはそれを弾き、力技の連撃に切り替えた。


体力が削られる。


「……っ」


倒れた。


「そこまで」


エギンの声は、落ち着いていた。


「どうだ!」


テオルは肩で息をしながら言う。


勝った。

だが、表情は晴れない。


力で終わらせてしまった。


認めたくない。

だが——


少し、嫉妬していた。


一方、エリアは地面に仰向けになり、空を見ていた。


(……楽しい)


負けたことは、どうでもいい。


見える、思考が冴えている。

気分がいい。


メルが駆け寄る。


「エリア様、大丈夫でございますか」


「……ちょっとね、膝枕が必要かも」


「大丈夫そうですね」


休憩中、ローガンはエギンに静かに尋ねた。


「どう思う」


エギンは一瞬だけ考え、答えた。


「……末恐ろしい才でございます」


謙虚だが、率直だった。


ローガンも元王宮騎士だ、エギンにも劣らない技術を有している。


そして思う、あのアーサーに放った一撃。


アーサーが油断していると見抜き罠を張った


その作為のある隙に飛び込んだアーサーの斬り込みに対し、後の先をとり先に剣を放ったのだ。


あれはどちらかというとアーサーが飛び込んだ先にはすでに剣が置かれていたような技だった。


これは剣術どうこうではすでにない。


べつに持っているものが棒でもナイフでも素手でも

関係ないのだ、相手の動きを誘導しそれにカウンターを合わせた形だ。


自分の力ではなく相手の力を利用し体力を温存しようとしていた。





エリアが落ち着いた頃、父が隣に腰を下ろした。


「剣術は、楽しいか」


問いは、穏やかだった。


エリアは少し考える。


「そうだね……正直分からない…かな」


父は頷いた。


「騎士になってほしいと、思っていた」


エリアは少し身構える。


「だが、それは……

 私にはそれしか教えられなかったからだ」


父は、庭を見た。


「好きなことをしなさい」


「……」


「ただし」


視線が戻る。


「領主の家の人間として、

 守るもののために強くあってほしい」


それだけだった。


「だから、たまにでもいい訓練は続けなさい」


強制ではない。


エリアは、少しだけ笑った。


「……はい、じゃあたまには」


それでいい、と父は思った。


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