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迷う残光は空に  作者: 悠月 蒼祈


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6/19

6

 翌日。隊に割り当てられた部屋に隊員が集合する。

 昨日の件で呼び出しとかはなかったのでまだ情報が来ていないだけかな?

 フィーナの顔色は悪い。

 昨日のあれはラエルだけのせいだ。フィーナは何とかしないと。


 フィーナはあのまぁまぁな美形のお兄さんは偉い人だと思うが、どの程度偉いかわからないと言っていた。

 ただ……神王国はこの世界の宗教の元締め的な存在。

 有象無象の国より立場が上。

 つまり貴族という括りでも我が国の貴族より上位だと思った方が良いと言われた。

 つまり、リュクスの実家より偉いんだとラエルは推測する。


 フィーナの様子がおかしいので、アールとペッタポッタも何時もの軽快なやり取りはせずに、神妙な面持ちで黙っている。

 二人はラエルを凄く見つめてくる。なので首を傾げておく。


 しばらくしてリュクスが疲れた表情で入ってきた。

 ラエルは美しいお顔が台無しだなあとぼんやり思う。

 疲れた顔も美しいが。うむ、やはりリュクス様は良い。


 朝の会議を終え今日も訓練に入る。

 ラエルの体力ではまだまだ長く運動し続けられないので、適度に休憩を挟む。

 休憩中に文字の勉強をしておく。



「ラエル、大丈夫か?」


 文字を覚える為の絵本を読んでいるとリュクスが様子を見に来た。


「はい隊長」


 返事をするとリュクスはラエルの隣に座る。


「手を」


 手?

 ラエルは絵本を閉じてとりあえず右手をリュクスに出してみる。


「命懸けの状況になると無理な強化をする者も多い」


 こういう治療も出来るようになった方が良い、と言われて……練習に付き合ってほしいらしい。

 どういう治療?と首を傾げる。

 説明を聞くと無理な強化魔術による負荷を和らげる治療魔術らしい。

 なるほど。ラエルの様な状態ですねと頷いておく。


「魔術は得意ではないのだ」


 練習?役に立てるならそれくらいならとラエルは思う。

 リュクスはそういうとラエルの右手をそっと掴む。

 魔術得意じゃないんだ。意外だなぁ……とラエルはリュクスを見る。


「合わなければ激痛が走るらしい……怖いならやめておくが?」


「大丈夫です」


 説明不足で何の話かさっぱりわからない。というかもっと早くそれは伝えるべきでは?

 そしてラエルに断れるわけがない。

 リュクスが手に少し力を入れる。軽く握手を交わすくらいの力だろうか?


 ……


「ええっと、すまない。準備をする」


 リュクスは慌てて腰に付けた鞄から何やら取り出す。

 透明な石だった。魔石っていう奴だろうか?


 リュクスは自分の掌に石を乗せ、反対側の手でラエルと手を繋ぐ。

 リュクスはぶつぶつと何やら詠唱している。

 その詠唱に合わせ、石が光を放つ。そして、魔術の術式の構成が浮かび上がる。

 石は魔術の発動を補助するものなのだろうか?


 ゆっくりとリュクスと繋いだ手から、ラエルへと魔力が流れて来るのを感じる。

 最初に言われた激痛は走らなかったし、ふわふわと温かい。


 ふぅ、と息を吐くリュクス。

 それと同時に透明だった石が灰色になって割れた。


「どうだ?体に変化はあるか?」


 変化と言われても……?

 とりあえず立ち上がってみる。


 ?


 特に変わりはない。


 ああ、握っていた手から魔力が流れているのを感じたなぁ。


 右手をわしわしと握ったり開いたりしてみる。

 今ままでより素早く握ったり開いたり出来るようになっている……?

 ちょっとギチギチしていてた感じも少ない。


「右手が動かしやすくなってます」


「そうか……あまり効果はなかったが成功はしたみたいだな」


 どうやら魔力の流れを整える魔術、らしい。

 確かにいざという時に使えると便利そうだ。

 身体強化以外の魔術でも、無茶な魔力の使い方をすれば、ラエルの様に体内の魔力の流れが乱れることもある。

 そういう無茶な魔術は奥の手というか、一か八かの死ぬ寄りマシ……一矢報いる。とかそういう奴だ。

 生き残った場合、こういう治療をするのだろう。


 なるほど。とラエルは納得する。


 でも、あの石?を使い捨て?それはどうなんだろう。

 勘というか、『私』の感覚を信じるなら、魔石を加工して術式を封じた物の様な気がする。

 あの魔石がどの程度の価値かはわからないが、術式を封じるには多分その魔術を使える人が加工しないとダメだと思う。

 魔石と加工費、どうも釣り合ってない気がする。

 封じられていた術式は簡単なモノだったが、術式を封じる加工は難しそうだし。

 何と言うかあの程度の術式を魔石に封じるのは勿体ないと思った。

 術式を封じた透明な状態は凄く綺麗だと思ったのでちょっと興味がある。


 むーん、とラエルが熱心に灰色になった石の残骸を見つめていると、リュクスが説明してくれた。


 あの石、予想通り魔石に術式を封じた物で、魔道書のような魔術の教材らしい。

 読み解くのが難しい魔道書と違って、あの石を使えば確実に魔術を発動できるので魔道書で学ぶより習得が用意らしい。

 費用も含め色々扱いが難しくあまり一般的ではないらしいが。

 金に物を言わせて素早く習得したい時に使うらしい。


「あれを使わずとも使える者に教われば良いだけなんだが……これは人に魔力で干渉する魔術だからな……」


 確かにそこそこ偉い貴族らしい?リュクスに魔力を流すとなれば問題ありそうだ。

 流れを整えれるという事は乱すことも出来るのだろう。

 これ以上魔力の流れが悪化しようがなさそうな、そして、どうでもいい存在のラエルとは違うのだ。

 リュクスの様な人は実家の政敵という奴?とか、見目麗しいリュクス様をどうこうしたい輩がそれなりに居そうだし。

 費用を考えてもあの石を使う方が良いのだろう。


「というわけだ。魔力の流れが正常になるまで私の鍛錬に付き合ってほしい」


 断る理由はない。

 魔力の流れは良くなっているし、リュクスの役に立てるのなら良い事しかない。

 今回は成功したが次回以降失敗して激痛?に襲われるとしてもだ。

 了承の返事をして訓練に戻る。

 と、その前に……


「隊長、あの、お話があります。後でお時間を頂けないでしょうか?」


「……わかった。時間がかかるか?」


「えっと、説明だけならそれ程かからないと思います?」


「昼食後で良いか?」


「はい、素早く済ませて向かいます」


 リュクスがぼそぼそとあの件か?と考え込んでいる。

 よし、あの神王国の人について報告できるぞ。

 と、ラエルは気合を入れる。


 今日も訓練ラエル頑張った。


 隊の皆と昼食を摂ってラエルは慌ててリュクスの下へと向かう。

 フィーナが一緒に行くと言っていたが、あれはラエルの不注意の事故だ。

 ……フィーナのあの様子だと話が進まない気もする。

 責任を感じて余計な事を割り込んできて言いそうというのもある。


 隊に割り当てられた部屋へと向かう。

 部屋に入るとリュクスが目を瞑って席についている。

 寝ているのか?と思って音を立てないように扉を閉め、そっと近づくとリュクスの目が開く。


 やはり、リュクスの紅い目は美しい。きゅっとするので不意打ちは止めてほしいなぁ。


「君も座ると良い」


 ハッ、と返事をして向かいに着席する。

 リュクスはごそごそと腰の鞄を漁り、何やら机の上に置く。

 魔道具だろうか?

 興味津々に見ているとリュクスが遮音結界の魔道具だと教えてくれた。

 それから起動の仕方を教わりラエルに起動するようにと言う。

 軍に居るなら必須魔道具らしい。

 そのうち配給されるだろうと言われてなるほどと頷く。


 手に取って言われた通りの手順で魔道具を操作する。

 操作しつつ手触りを楽しむ。

 おお、これは良いものだ。とラエルは魔道具を評価する。

 見た目にも拘っている一品と見た。貴族が使うものだからだろう。

 多分、普通はもっと無骨だと思う。

 この美しい装飾は魔道具としての効果には影響がないのだから。


 ラエルは魔道具を慌てて、でも壊さないようにそっと机に戻す。

 思わず観察してしまった。


 観察している間に鞄からごそごそと茶器を取り出しお茶を入れるリュクス。

 鞄は空間拡張魔術がかかっているので茶器ぐらいなら入る。

 鍋など野営に必要なものは入れっぱなしが普通らしい。

 流石に天幕等は普段身につけている鞄には入らない程度の大きさらしいが……

 いや、まあ、茶器入れてる人は少ないらしい。

 優雅にお茶を楽しむ貴族の軍人は少数派だ。

 貴族の軍人でも、わざわざ茶器を持ち歩いてお茶を楽しむ。という事まではしないという意味で。


 ラエルの前にお茶が差し出される。

 フィーナから教わった通りに、リュクスに礼を言ってから茶器に口をつける。

 お茶会でなくとも、やはり茶の作法は習得が必要……と新たに決意をする。

 茶器が重い……それはそれとして茶器が素晴らしい。

 急須が特に素晴らしい。お湯が出る魔道具が見事に調和している、一見何かは良くわからない模様。

 読み解けばお茶を入れるために必要な繊細な術式になっている。と思う。

 魔術がまだまだ初心者のラエルには良くわからないが。

 魔道具の職人と茶器を作る職人が同一なのだろうか?


「さて、話というのは?」


 神王国の人に博物館でぶつかった話をする。

 ラエルの前方不注意だったのでラエルが全面的に悪い。

 そんな感じの話をしておく。

 フィーナの事は聞かれるまで話さない方が良いと思うので黙っておく。


 リュクスは額に手を当てる。


「その神王国の方から君についての問い合わせはあった。とにかく心配するような事はない。多分……」


 歯切れが悪い。リュクスの実家でも困る相手だったのかな。

 いざという時の事を考えていた方が良いな。これは。

 ラエルを見て慌てるリュクス。


「いや、本当に。むしろ君の事を心配していた」


 本当にぃ?とラエルは疑念の眼差しを向ける。


「君に対応させるのは問題がありそうだからこちらで対処しておく」


 まあ、ラエルが何か言った所でどうにもならないので。

 先に接触があったなら無駄な時間を取らせちゃったな……といった事を考えているとリュクスが話を続ける。


「接触があったらすぐに知らせてほしい。流石に考えなしに近づかないと思うが……あの方には気をつけてほしい」


 わかりましたと頷いておく。

 ……うーん?と唸る。


「ラエル、君は……」


 呟くようにリュクスが声に出す。


「はい」


 ラエルが返事をするとリュクスは驚いて首を振る。


「いや、何でもない。とにかく、あの方と遭遇するのを避けた方が良いだろう」


 それは確かに。と頷いておく。


「不便だと思うが、あの方が王都に居る間はあまり休日に外出しないように」


 あの方がどういった立ち位置なのかよくわからないし、ラエル如きが近づかない方が良いのはわかる。

 外出予定もないし大丈夫だろう。

 えーっとなんだ。視察?とかでここに来るとかなければ会うこともないだろう。

 まぁ軍の施設でも機密が少ない所なので、軍の見学を希望すればここに来る可能性は高いような気がする。

 うーん困った。ラエルが悩んだ所でという話だが。


 気になる事がないわけじゃない。

 あの神王国の方は何となく雰囲気が『彼』に似ているのだ。

 『彼』の事を聞いてみたい気もするが……そんな質問できるような立場じゃなさそうだし。

 神王国の人が『彼』の知り合いという確率も低いような気がする。

 『彼』は神王国と関係良くなさそうだし。ラエルの勝手な印象だが。


 ラエルは『彼』は存在していると信じているが、客観的に見て夢や妄想の類だろうと思われる事はわかっている。

 あの変な夢を人に信じてもらえるとは思ってない。

 でもあの剣が存在していたんだ。希望はある。


 一番似ていると思うのはリュクスだが、『彼』はこんな目を輝かせてはいない。

 恋してる雰囲気はない。だから多分、貴族辞めて自由な未来に思いを馳せているお年頃なのだろう。

 ちょっと心配だ。リュクスは頑張って出世した方が良いと思う。


 『彼』は屈辱と憎悪に染まった昏い眼だ。全く違う。

 そもそも種族が……うーん……邪魔だし普段は外見的特徴は隠しているのはあるか。

 うーん。


 ラエルの頭がおかしいと思われるのはいい。だから聞いてしまえばいい。

 とは思うのだが、心の準備ができていない。

 本人だったら。そう、ラエルは怖いのだ。


 ……やっぱりおかしい。

 人に話したくない事を話そうとしている。

 疲れや色々あって弱っているのだろう。

 『彼女』にとって要らないモノが増えているのかもしれない。

 そう結論付け、ラエルは気を引き締める。

 また倒れるわけにもいかない。

 訓練も皆が言うように、もうちょっと休憩した方がいいのかも。

 孤児院を出てから日に日に何か余計な考えをするようになってきている。これは良くない傾向だ。



 神王国の人の事は一先ずリュクスに丸投げして午後の座学に入る。

 他は特に変わったことはなかった。


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