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迷う残光は空に  作者: 悠月 蒼祈


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3/19

3

 翌日。

 フィーナと共に身支度を済ませ、朝食を食べ集合場所に向かう。

 ラエルは辺りを見回す。ラエル達と同じような『新入り』がそれなりに集まっている。

 彼らも買い出しに出るのだろう。お店が混むのでは?


 暫くしてペッタポッタとアールの二人が慌ててやってきた。

 そろそろ時間らしい。フィーナが時計を見て教えてくれた。

 二人への挨拶もそこそこに視界入っている時計の見方やらあれこれ教わる。

 素晴らしい時計だ。特に時刻を表す数字?が素晴らしい。

 一、二、三と指さしながら読む。

 孤児院では行動範囲には時計がなかった。院長室に置いてあったのしか見たことがない。

 時計の動きから推測してなんとなくはわかるが、朝、昼、夕の鐘の音しか時間がわからなかった。

 鐘の音も季節や鐘を鳴らす担当の人が忙しいと遅れたりする。

 それと鐘を鳴らす人は村長から時間を聞いて鳴らしていたらしい。


 こうやって時計が見やすい場所にあるのはとても便利だな、とラエルはぼんやり思う。

 王都の中央広場に大きな鐘が付いた時計があるらしく、中央広場周辺はその鐘の音で時間がわかるらしい。


「鐘が鳴る機能が付いた時計魔道具なのよ」


 と、フィーナに教えられ流石王都と納得する。

 

「気になるなら休日に見に行きましょうね」


 とフィーナが提案してくれたのでラエルは頷いておく。

 楽しみが増えた。

 時計は好きだ。院長室の時計と、王都への道中に宿で幾つか見た程度だが。

 どれも素晴らしい細工がしてあった。

 目の前の時計も素晴らしいし、中央広場なんて所にあるのだからきっと素晴らしいものだろう。


 時間を少し過ぎた所でリュクスが現れた。

 ラエル達は一応整列する。

 軍の敬礼の仕方がわからないので適当にお辞儀をしておく。

 他の三人もお辞儀をしているので大丈夫そうだ。


「全員居るな。馬車を用意してある。付いてくるように」


 用意されていた馬車はかなり立派なものだった。

 王都まで乗ってきた馬車も良いものだったが、それとは比べ物にならないくらい良いものだ。


「さて、ペッタポッタ。出自を考えると君が一番適正がありそうだ。訓練を兼ねてまずは君から御者の練習をしてもらえるか?」


「は、はい」


 ペッタポッタが慌てて返事をする。


「他に我こそはと言う者がいれば、その者でもいいが……では、ペッタポッタ頼む」


 街に出て必要な物を購入する。

 とりあえず、発注はアールが担当することになった。

 本人が志望している管理の経験を積むのに良いだろうという事だった。

 任せっきりではなく、全員できるようになっておくように。

 と言われたので全員軽く乗る前の点検等を教わりはしたが。


「我が隊の物資調達は今回利用した商会を基本的には使う。緊急時、他の商会から物資調達をする場合は私の許可を取ること」


 緊急では先に連絡する暇もないかも知れないが……とリュクスが言う。

 アールが返事をする。


「わかっています。縄張り争いやら色々ありますもんね……他の隊の調達と被ったりとか」


 そういう事だ。とリュクスが頷く。


「軍からの依頼となれば商会は無理に調達しようとすることもあるしな……」


 事後処理で大惨事になってるのが判明した時はそれもう……

 そう言って額に手を当てるリュクス。


 後でフィーナに聞いたが、リュクスは学生時代に物資調達で何か失敗があったのでは?という事らしい。

 軍部志望の子弟にはよくある失敗らしい。

 リュクスの在籍期間にまあまあの事件があったとかなかったとか。

 親戚からの又聞きなのでよくわからないが、それに巻き込まれたのでは?

 というのがフィーナの見解だ。

 アールが知っていた様子だったのも、他の大商会が振り回された余波が実家にあったのだろう。


「とにかく、君達では責任が取り切れない」


 リュクスが全員を見回す。


「私が君達に責任を押し付けようが、どうせ私の責任になるんだ。だったら最初から状況を把握して被害を抑えたほうがマシだ」


 なるほど。とラエルは頷いておく。

 貴族怖い。知ってる。


「では帰るぞ」




 翌日。ラエルは熱を出した。

 商会周りで、はしゃいで体力を消耗していたらしい。

 王都までの移動の疲れも抜けていなかった。


「ラエル、大丈夫だからゆっくり休みなさい」


 フィーナが心配そうに言う。

 ラエルは頷き目を閉じる。


 フィーナが立ち上がり部屋から出ていく気配を感じた。

 ラエルはどうしようと思いつつもそれ以上のことは考えられなかった。



 首に誰かの手が触れラエルは意識を取り戻す。


「疲れが出たのだろう」


 声がする。

 思わず目を開けようとするが瞼が重く視界が霞んでいる。


「移るものではなさそうだし君には悪いが……」


「いえ、同じ隊ですもの。協力は当然でしょう?」


「ではこれを医務室に持っていってくれ。栄養剤やらの手配を頼む」


 誰だろう。


「医者は……今日の担当医は……ダメだから……他の二人にお使いを頼む。私の主治医を呼んで来るように。地図は……それとこれを」


「わかりました」


「私は応急処置をしておく。あまり得意ではないが、簡単な体力回復の魔術を掛けておく」


「あ、あの、いえ、はい。では」


 それから声は聞こえなくなった。


 ふわふわと温かい。


「……じ。必ず……」


 歯を食いしばり、呻くような囁き声が聞こえた気がした。

 それからしばらくしてラエルは楽になってきた。

 それに伴って視界が多少マシになってきた。

 紅い宝石のようなモノが見える。


「紅い……きらきら」


 ラエルは手をゆっくり伸ばす。

 そっと手を掴まれる。

 手を元の位置に戻された。


「安静にな……ん……しているように」


 ラエルの頭を誰かが撫でている。

 ラエルは目を瞑って休む。『彼』がいるなら安心だ。だから休んでも大丈夫。

 『私』がそう言ってる気がした。










 『私』が要らないモノを捨てようとしている。


 でも、今までの手順通りに捨てることができない。

 だから奥に、奥に。仕舞っておく。


 『私』の白い手が迫る。余分なモノを掴まえるために。

 




 朝、目が覚める。気分は最悪だ。

 夢を見た。熱のせいだろう。

 まだ熱っぽいが活動に問題はない。

 少し余分なものが減って空っぽに戻った気がする。


 フィーナに止められた。まだ休むようにと。

 そんなわけには。

 と、彼女と問答しているとリュクスが部屋に入ってきた。

 女子寮に入るのはダメでは?


 ラエルの首筋にリュクスの手が触れる。


「まだ、熱がある。医者の許可が降りるまでは休むように」


 ラエルは頷く。リュクスが言うなら仕方がない。


「それから……魔力制御が出来るように。もう少し体力が回復してからになるが、暫く魔力を封印して練習するように」


「ま、魔力を封印ですか?」


 フィーナが慌ててリュクスに尋ねる。


「君が思っているようなものじゃない。主に武装解除をする必要がある場所で使う物だ。それにこういう子供に使うものでもある」


 稀に居るからな……裕福な者でも家庭教師に気付かれず、そのまま優秀だと勘違いする馬鹿もいる。

 と、忌々しげにリュクスが呟く。


 なるほど、と思いラエルは頷く。


「君の話ではない」


 するとリュクスが慌てだす。


「君は極限状態で生きるために必要だった。平時にその状態だと今後困る……君が力に溺れて増長しているという話では……」


 ラエルは頷く。

 彼の言う通りラエルは増長していたのだろう。

 倒れるということはそういう事だ。

 頑張らないと。


「そもそも入隊で環境が変わって体調を崩す者も少なくはないんだ。今だって君だけが倒れたわけじゃない。他の隊でも……」


 ずっと慌てた様子でリュクスはラエルにそう言う。


「隊長、そうなのですか?」


「ああ、金やらの問題で、遠方から無理な移動で王都に出てきた者も多い。それにラエルと同じ様な境遇の子も多かった」


 ラエルを連れてきた役人が言ってた通り、策とやらの基準で、特にそういう子供を選んでいるというのもあるのだろうが。


「今回は募集地域を広げたのもあり、話がまだ伝わっていない地域も多少らしい。だから医者が足りていなくてな……」


 フィーナがまともな人材を寄越せと言った方が良いのでは?と思わず質問していた。

 戦力にならなさそう。とすぐに送り返すのも問題があるらしい。

 ラエルの推測だが策が孤児を使い物にする為に何とかしようというものなら。

 初動はこうなるのは仕方がないだろう。


 それにそういった子は変に自信がない分、大人しく指導を受ける者が多く、長い目で見れば悪くはない。

 変に反発するような者より集団行動させやすいとは思う。

 送り出した人間と接触しやすい近場ならまだしも、遠方ならなおさらだろう。

 話を聞いた感じだが、倒れているのは遠方から来た孤児だ。


「それで……」


 ラエルだけではないと言ってくれているのだろうが、そんな状態の時に倒れた自分が情けなくなる。

 ラエルの様子にリュクスが慌てる。


「……とにかく君が気にすることじゃない。大体……いや、何でもない。どうしたものかな……」


「ラエル、休むのも仕事です。リュクスさ……隊長もそうでしょう?」


 フィーナが諭すように言う。


「あ、ああ……そうだな。休む、待機。暇に思うかも知れないが重要な仕事だ。それができなくては困る」


 リュクスがうんうんと納得している。

 ラエルも頷く。仕事なら頑張らないと。


「できない者も多いからな……ラエル君はできるだろう?ちゃんと休んでおくように。張り切らずに」


 ラエルは、はいと返事をして布団に沈む。


「では、フィーナ行こう」


「はっ」


 二人は立ち上がり部屋から出ていった。

 やはりまだまだ消耗していたらしくラエルはすぐに意識を手放した。


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