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迷う残光は空に  作者: 悠月 蒼祈


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2/19

2

 リュクスが見えなくなったところで、アールが声を潜めて話す。


「……貴族にしてはマシな方だし、上官は当たりだな」


「貴方の周りにはまともな貴族が多かったのね。平民の心配してくれるなんて大当たりの部類でしょう?」


 フィーナが呆れたようにアールに言う。

 アールの実家は一応、貴族が利用することもある商会らしい。

 ほぼ平民扱い程度の貴族らしいが。


「ま、そーだが……本気で言ってるならな。まだわからんだろ。まずは食堂行こうぜ。えーっと。近い方の食堂でいいか?これから長い付き合いになるかもしれないんだ。もう少し親睦深めようぜ」


 皆、反対する理由もないのでアールについて行く。



 食堂に着くとフィーナがラエルに声を掛ける。


「ラエル、文字は読めて?」


 フィーナが指を指す。どうやら提供できる食事が書いてあるようだ。


「えっと……知らない文字がある……」


 そう告げると丁寧に書いてある事と、その料理がどういうものかフィーナが解説してくれた。

 フィーナに続いて発音しているとフィーナが尋ねてくる。


「食べれないものはある?」


「わからない、説明、知らない物多かった」


「そう……じゃあ挑戦して自分の好み知っておくのがいいわね」


「フィーナ様ありがとう」


「様はいらないわ。貴女にとっては貴族と変わらない認識なのかしら?親も元貴族だし、私は貴族じゃないもの」


「そうそう、同期で同じ隊なんだ。一々敬称付けて呼んでたら面倒だぞ。敬語もなしだ」


 わしわしとアールがラエルの頭を撫でる。


「わかった」


「ペッタポッタは文字とか大丈夫か~?」


「うん、文字は大丈夫。ただ……知らない食材が多いのと……」


 エ・イの民は集落外へ出る事が決まった子は、文字と最低限の作法を学ぶらしい。

 出稼ぎ先がほぼ王都なので多少の教養は必要なのだろう。

 森の民が王都で何をするんだと思うが意外と仕事はあるらしい。


「あー……エ・イの民は掟とかで食べたら駄目とかそういう?」


「植物とか地の物を多めに取った方が良いとかはあるけど駄目ではないよ。自分がちょっと苦手な物があって。

 嫌いすぎて受け付けないとか、まったく食べれないわけじゃないから大丈夫。

 知らない食材が苦手な物に近かったら嫌だなって思っただけで」


「ふーん、まあそこまで嫌いじゃないなら、贅沢言ってる場合じゃないしな」


「うん、味付けとか慣れていかないとね……」


 どうやらペッタポッタは王都に来る道中、食べた料理の味付けが駄目だったらしい。

 適当にフィーナとアールが適当に注文して、食堂の職員に認識票を出す様に言われた。

 新人教育の施設故に機密があまりないので軍の施設にしては来客も多いらしい。

 軍属なら代金は必要ないので軍関係者かどうかの確認だ。

 そして料理を持って空いてる席につく。


 全員で略式の祈りを我らが太陽神であるサニア神へと捧げる。ペッタポッタは森の神にも祈っていた。

 ラエルはとりあえずパンをちぎって口に運ぶ。

 よくわからないが美味しいと思った。

 孤児院で食べていた食事よりは美味しいのは間違いない。

 王都に来るまでの宿で食べた食事と比べて、どちらが美味しいかはわからない。


「流石に予算が増えたから良い食事ねぇ」


 フィーナがスープを掬いながら呟く。


「お嬢様からみてもいい食事なのか?」


「そういうのやめて頂戴。当然、祖父の家の食事には及ばないけど、並の平民が食べれる食事じゃないでしょこれ。商会のお坊ちゃまならこういうの毎日食べているのかしら」


「まさか!親や兄貴はどうか知らないが、跡取りでもなんでもない俺や、弟達が口にできるような食事じゃないよ」


「……家の事は聞いて良いのかしら?」


「よくある跡取りだけ可愛がって放置ってやつだ。跡取りの兄貴がそこそこ優秀で、自分の地位を少しでも脅かす相手を排除するのに必死でな……」


 と事情を説明して


「だから貴族と目に見える繋がりができれば、兄貴は俺に手が出せないしな」


 と、アールは肩を竦める。


「ま、そういうわけだから皆、よろしく頼むぜ」


 皆でうんと頷く。


「じゃあ次はさっきの紹介順でいいか、ペッタポッタ」


 指名されたペッタポッタは慌てた様子で背筋を伸ばす。


「僕はペッタポッタ。南西の大森林にある小さな集落出身だよ。だから弓とかには自信がある」


 皆はエ・イの民についてはどの程度知っているのかな?とラエル達を見回す。


「王都にはそれなりに居るから基本的な事は。客で対応した事はあるけど、国が説明している程度しか知らない」


「私も知人には居ないから詳しくないわ。失礼な事を言ったらごめんなさいね」


「……知らない、ごめんなさい」


「ま、有翼人のウーウー族とかと違って見た目は大きく変わらないしね」


「ラエルは東の方から来たんだろう?さっきも言ってたけどエ・イの民は南西だろ」


 とアールが補足する。


「エ・イの民はまだまだ東の方へはあまり行かないからね……知らなくて当然さ」


 ペッタポッタは左手をラエルへと差し出す。

 その左手の甲に茶色い石が埋まっていた。

 ラエルは茶色い石に目を輝かせる。あれは良いものだ。


「さっきも言ったけどエ・イの民は南西にある大森林に住んでいて、左手の甲にこういう石があるんだ」


「本当に石が手に付いてるのね」


 フィーナも興味津々で見ている。


「昔は万病の薬だの、高純度魔石だのでこの石を狙ってエ・イの民狩りなんてのもあって……」


 そう昔の話さ。とペッタポッタが苦笑いを浮かべる。


「結局大したものじゃないのが証明されて、そういうのはなくなった。だから、僕みたいなのがどうどうと出稼ぎに来るわけさ」


 家族との仲以外はアールと似たような感じかな?とペッタポッタが話を終えた。

 ラエルはなるほど、ペッタポッタはいい人なのだろうと手の甲の石を見て結論付ける。


「雑に分類したなぁ!ま、金儲けって目標は一緒だな」


 そういうわけでよろしくね。とペッタポッタが言って皆で頷く。


「次は私ね。フィーナよ。ただの文官の娘よ。まぁ王都で文官だから裕福ではあるわね」


 文官?役人の事かと納得する。


「祖父が貴族でも私は貴族ではないので、できる限り普通に接して欲しいわ」


 祖父との中は良好なので。と、一応脅しておくけどとフィーナが少し悪い顔をして皆を見る。


「おっかねー」


 アールがひひひ、と笑う。ペッタポッタは食事の手が止まって、顔がひきつっている。


「祖父へ迷惑をかけるワケにはいかないし、ペッタポッタもそんなに気にしなくて大丈夫よ」


 ただ、問題があれば祖父がなにするかわからないから、普通に仲良くして頂戴というお願いらしい。

 私が切り捨てられる可能性もあるしねとフィーナは肩を竦める。


「ここに居るってことは、一々口出ししてくるって事はないんだろ?」


 アールはお嬢様を軍に送り出すなんてなぁと皆を見る。


「ええ、一族に害があるとか、本当に困ったことがあれば介入してくるかも……?って程度よ。だいたい、祖父の力頼みで何かしようとしたら私が消されるわ。普通に仲良くしてくれればいいのよ。まさかその程度も出来ないのかしら?」


「そ、そんなつもりじゃ……ごめん」


 ペッタポッタが謝罪する。


「私もごめんなさいね。脅して。改めてよろしくお願いするわ」



「さて、次はラエルね……何か話がうまく伝わっていないようだから、少しずつ質問するわ。良い?」


 ラエルはパンを慌てて飲み込む。

 そしてフィーナに頷く。


「ラエルは孤児院で、どうして、ここに来るように言われたの?」


「危ない仕事?がある?誰かが行かなくちゃいけない。だから行けって孤児院の人が。孤児院経営がそろそろ危ないから」


 アールとフィーナが息を呑む。


「ねぇ、貴女を連れてきた人は?孤児院の人じゃないわよね?役人よね?」


「役人だと思う」


「その人はどう説明したの?」


「とっても危険な仕事だって孤児院やあの町…いや、村?で皆をずっと脅してた。支度金?は手切れ金で孤児院に渡す?だからラエルに志願するように」


 ここに来るまではずっと、貴族の偉い人の話をよく聞くように。

 それさえわかっていれば大丈夫。後は徐々に食事増やせって言ってたと言われた事を伝える。


 軍に入る方があの孤児院よりマシだろう。一度入ってしまえばそう簡単に送り返せない。

 貴族が絡んでいる以上、軍で働かせる事は慈善事業にもなるので、孤児はそれなりに扱わないと色々言われるそうだ。 

 後は今は余裕はないだろうが人生の目標とか見つけられるといい。とか何とか。

 金策や王都での地盤固めに軍は丁度いいので、数年頑張れと言われたがこの辺は話す必要はないだろう。


 役人には言わなかったし、誰にも教えるつもりはないが、人生をかけてやりたい事ならある。

 夢の『彼』が実在するのか、実在するなら今どうなっているのか。それを調べたい。

 『彼』に報酬を払わないと。漠然と、しかしかなりの焦燥感を感じるそういう気持ちがある。

 私がちゃんと払わないと……ぐっと手を握りしめる。

 でも、空っぽで払えるのかな……それだけが心配。


 後、役人は勘違いしていたが孤児院には感謝している。

 貧しい田舎の村でここまで生き延びられたのは孤児院に居たからだ。

 それに村の子ならまだしも、余所者の孤児の扱いが他の子より悪いのは仕方がない事だろう。


「どこから突っ込めばいいかわからん」


「ねぇ、孤児院ではどういう生活をしていたの?食べ物とか」


「食べ物は朝はパンとスープ。夜はパンと適当な主菜とスープ」


「待て待て、その朝の量でなんでいきなり夜に飛ぶんだ。一食しか食べない部族の話は聞いたことがあるが、あれは実際は間食多いと聞くし」


「パンとスープがかなり多い可能性も……」


 そう言ったアールとペッタポッタがラエルを見る。


「そんな可能性あると思うか……?こんな痩せた奴の普段の食事だぞ。というか食事の心配を役人?にされてる時点で……」


 そんな話を男子二人でしているが、ラエルは役人?の言っていた事を思い出したので話を続ける。


「それから、もう孤児院は忘れるように、手切れ金を渡したんだから関わりはない。何か言ってくるようであれば連絡するように?……連絡?連絡手段聞いてない……」


「その件は私がなんとかするわ。何か言ってきたらまず私に知らせなさい」


 ラエルはフィーナが気にしなくてもいいのにな、と思いながら、うん、と頷く。

 多分、役人への伝言はリュクスに言えば良いと思う。

 そういった隊員の基本情報はあるはず。


「とりあえずペッタポッタ」


「え、あ、うん」


「貴方が役人から受けた説明をして頂戴。王都以外で違う説明をしている可能性があるわ。貴方が騙されていた可能性もあるし。お願い」


「そ、そうだね」


 ざっくり要約すると軍拡するから平民から良い給料で志願兵を募っていて、その募集でのこのこやってきたのがラエル達らしい。

 最初の数年は孤児くらいしか志願兵が集まらなかったらしい。

 でも最近は危険度の割に良い給料なので孤児以外の平民も多い。というか席の取り合いで孤児が入る隙間がないらしい。

 とはいえ孤児への事前授業も兼ねているので、孤児枠が追加されたとか何とか?

 今のところ大きな戦もなく、鉱夫なんかより全然安全だそうだ。

 危険はちょっとした魔物退治くらいだが、安全な後方支援が殆どらしい。

 というか、貧乏な村なら軍に居る方が安全だ。

 どちらにせよ戦う必要があるなら、ある程度の武器が支給される軍の方が身を守れる。

 まぁ戦に備えての徴兵もとい志願兵集めなので、戦が始まれば話は変わるだろうが。

 勇者が魔王を倒してからはあまり大きい戦いがないので、そろそろ何か動きがあってもおかしくないらしい。

 だから継ぐ家業がない平民なら安定の職場だろう。

 孤児、貧困層の支援目的もあるためペッタポッタの集落にも話があったらしい。


 ラエルは危ない仕事っていうのはそういう事かと納得する。

 ちょっとしたとはいえ魔物退治だ。普通に危ないんだろう。

 ラエルの場合は兵も少なく、防備もちょっとした柵がある程度の村に居た方が危なそうかな?

 防衛力以上の魔物が来たら囮にされてそう。

 魔物の動きも活発化してきているし、今後は小さい村は危険だろう。

 だから問題はない。

 平民の男の二人はともかく、半分貴族のようなフィーナは大丈夫なんだろうか?とラエルは少し不安に思う。


「まぁそんな感じよ、わかった?」


 ラエルはうん、と頷いておく。

 家族が送り出したんだ。知り合ったばかりのラエルがどうこう言う話じゃない。


「というか、ラエルもっと食べなさい」


 食事の手が完全に止まっているのを見つけてフィーナが言う。


「お腹いっぱい……これ以上は……」


 これでもラエルは残すわけには、と思って、結構無理をして食べ進めてきたのだが。


「今までそんなに食べてこなかったんだ。もう食べれないんだろ」


「全然食べてないじゃない」


「粥食べてた病人がいきなりがっつり肉とか無理だろ?」


「……ラエルは病人じゃないでしょ」


「多分、フィーナが思うよりもっと酷い食事だったと思うぞ。病人手前くらいに思った方が良い。こんな想像したくないが、ここに来てなかったら餓死してたんじゃないか?生きてるのは身体強化魔術が暴発状態とかだと思う」


 貧民街でたまにあるじゃん。大規模火災。とアールが言う。

 アールとフィーナのやり取りに黙っていたペッタポッタが入る。


「僕もそう思う。不作で食料厳しい集落の子供の方がまだ肉付きが良いよ。まぁ不作って言っても食料は何とか持った集落の話だけど。最近はそんなやばい不作になった事がないから……」


「それほどまでに?」


 フィーナが問う。


「ああ」

「うん」


 アールとペッタポッタが息ぴったりに返答する。


「ラエル、食べれないなら貰っていいか?もったいないだろ?」


「……うん。アール、ありがとう」


 ラエルはアールに残っている食事を渡す。

 残すのは勿体なかったので助かった。


「ちょっと……」


 フィーナがアールを止めようとするが、


「ラエルは食べられないの気にしてそうだったからさ。普段の食事が貴重なら当然だろ?」


 その言葉にフィーナが詰まる。


「アール、僕もちょっと貰って良い?」


「おう、食え食え。って俺のじゃないけどな」


「どうぞ」


 ラエルがペッタポッタに促す。


「ありがとう」


「ま、徐々にでいいからここの一人前食べれるようにならないとな」


「うん」


「ラエル、この中に食べれない物、嫌いなものあったか?」


「ない、大丈夫」


 今まで食べたことのない味はしたが、特に何も感じなかったので好き嫌いはない。と思う。

 その横でペッタポッタが渋い顔をしている。


「うーん、やっぱり苦手だなこれ」


「避けようがない野営やらで出ないのを祈るしか無いな」


 そう言って二人が笑い合う。

 皆、友好的で良かったなとラエルはぼんやり思った。


 一通り施設を見て回った後、男子二人と別れ、フィーナと女子寮へと向かう。

 女子寮の受付で事務員から寮の規則などの注意事項を聞く。

 認識票に鍵の登録を済ませ、二人の自室へと向かった。相部屋らしい。


 荷物を整理して、といってもラエルは荷物があまりないが。

 なのでフィーナの荷物整理を手伝う。

 フィーナもラエルに比べれば多いが、流石に無駄なものは持ち込んでいないのですぐに終わった。

 途中フィーナの御付きの者が来て手伝ってくれたものもある。お嬢様は凄い。

 部屋の鍵の掛け方や施設……特に厠の、水道の使い方について教わる。

 王都への道中に教わったが、フィーナから改めて説明を受けた。

 孤児院では井戸くらいしか魔道具がなかったが、流石王都、軍の寮。

 手洗い場から厠まで水が出る魔道具が導入されている。

 フィーナから手洗い場で水の温度調節を教わった。

 道中は水の出し方しか教わらなかったので助かった。

 まぁ洗浄の魔術は使える。部屋も自分も綺麗にしてないとね。


 いい時間なのでフィーナともう一度食堂に向かい夕食を食べる。

 後は入浴して少し早いが就寝。

 洗浄の魔術で済むとはいえ、入浴はすべきとフィーナに怒られた。

 初日から遅れるわけにはいかない。


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