17
妖星が煌めく。燃える大地。
ああ。美しい。それを眺めている『私』。
こけこっこー遠くで、にわとり鳴いている。
こっこ、こっこ、こっこ。けー!けー!どぅるるどぅ!
うるさい。うるさい。
にわとり死すべし。まるやき。いいとおもう。
こんがりおいしい。じっくりやこう。
そんな夢を見て目が覚める。
窓の外からこっけ!こっけ!にわとりの戦いが始まっている。
熱い男の勝負ですね。負けた方、美味しくいただこう。それが良いと思う。
にわとり何処に居るんだ。駐屯地、そんな場所はなかったと思う。
簡易地図を見て首をひねる。厩舎はあれど家畜小屋はなし。
村の方から聞こえてくるのか。
制服に着替え、準備よし。
フィーナにも確認してもらう。よし。
女子部屋から出て男性陣に挨拶する。おはようございます。
とりあえず皆で朝食へ。食堂へ向かう。
食堂へ向かう途中の外で。何か視線を感じる。
辺りを見回すが視線を感じる方には誰も居ない。
ラエルどうしたの?とフィーナが尋ねてくる。
「見られてない?」
「そう?誰も居ないわよ」
うーん、居る。何か居る。でも見えない。
怖い話?気にしない方が……うーん……何かあったような。
「様子を見てくるから。君達は先に行ってなさい」
リュクスが様子を見に行ってくれるらしい。安心。
貴族の隊長に任せるのはどうかと思うけど。
こういうのは下っ端が身を挺してって奴では?
そうですわね、この中ならラエルが見に行くべきですわね。
てぼてぼ食堂へ歩く。
にわとりの勝負は付いたらしく声が聞こえなくなった。
いきのねとめろ。
疲れて休憩中なだけかもしれない。
そんな事を考えていると食堂に到着した。
食事を受け取る。ちゃんと減らしてもらった。担当ごめんなさい。
ラエルには多いのです。
一人前食べれるように大きくなれよーと言われた。
大きくなります。
丁度いい量……ではなく多い。食べれなくはない。
頑張るしかない。
汁を掬う。色が紫。何だろう?
すっぱい。きゅーっとなる。まずくはない。
「か、かわった味付けですわね……」
フィーナお嬢様のお口には合わなかったようだ。
食べれないわけではないようで、敵を見る目つきで汁と戦っている。
激闘の予感にラエルは慄く。慄きながらパンに噛みつく。かたい。
にわとりたべたい。そんな事が頭をよぎる。何故だろう?
リュクスも合流して食事を始める。
「問題はなかった」
問題なかったなら良かった。でも無駄足ごめんなさい。
「見逃す方が問題だ。無駄かどうかは気にする必要はない」
あい。と匙を咥えながら返事をしたので、フィーナから説教される雰囲気。
フィーナを見ると汁と死闘中で聞いてなかった。よかった。
代わりにリュクス様が有り難いお言葉を下さった。反省。
匙咥えているの忘れていたのです……
食事を終え畑に集合。
村を囲う柵?木の壁?のお外。つまり、危険ですね?
魔物避けの結界は柵までだ。ここはとても危ない。
畑の横の草原で鎌、草刈り鎌ってやつを渡される。
「ここに畑を増やす。今日は草を刈る作業だ」
柵の拡張が間に合ってないとか何とか話をしている。
なるほど。首を狩るには小さい、草刈り鎌を振り回す。
獲物の扱いやすさの確認は大事。ぶんぶん。
これをこうかな?こう。草を刈る動きをしてみる。
「……ラエル、危ないことは止めるように」
怒られた。はい、当たると危険ですね。反省。
皆と距離を取ってたとはいえ迂闊だった。
ペッタポッタにコツを教わって草を刈っていく。
やはりエ・イの民、頼りになる。
ひゃぁっ。ザクザク楽しい。
草は干して馬が食べるらしい。ほーん。頑張らないとね!
うまーうまーと歌いながら草を刈り進めていく。
農作業では歌を歌いながら拍にあわせて進めるらしいし、怒られる気配もない。
ふぅ、と額の汗を拭う。
結構刈った。良い労働です。
身体強化をしても結構疲れている。
草刈り楽しい。馬のお食事になると聞けば気合も入る。
いつのまにかアールが突き匙?の大きい奴を振り回して刈った草を集めている。
力仕事お疲れ様です。
集合場所、壁の方に呼ばれたので走って向かう。
「さて、そろそろ昼ご飯の順番だから行こう」
リュクスの言葉に元気よく返事をしておく。
ふと遠くを見ると何か居る。黒いの。距離的にかなり大きい。
……慌ててラエルは強化魔術を発動。フィーナを抱きかかえる。
走ってこの場から離れる。
ラエルの見ていた物に気がついたペッタポッタが叫ぶ。
「獣か!魔物か!わからないけど皆!避難して!」
ラエルに叫ぶ余裕がなかったので助かった。
皆が知らせるために叫びながら逃げている。
「いつもと違う方から!発見が遅れたすまない!」
と、柵の見張りの声が聞こえる。
ラエルは強化魔術を強くして柵に足をかけ登る。見張り台に転がり込む。
「凄いなちっこいの」
「強化魔術か……?その年で……?大変だったんだなぁ」
見張り台にいた二人の兵に呑気な様子で声をかけられる。
敵襲ですぞと言いたいが喋れれない。
一人は弓で威嚇射撃をしつつ、もう一人はラエル達の相手をしてくれるらしい。
しばらくして。合図が聞こえる。
外に居た人は全て柵の中に避難できたらしい。
ドンと揺れる。柵に体当りしているらしい。
見張り台は柵と繋がっている。ぐらぐら揺れる。
ラエルはお疲れでそれどころではない。体が痛い。
「お嬢ちゃん達、心配しなさんな。大丈夫。あの大きさならこの壁は抜けんさ」
ラエル達の相手してくれている兵がそう説明する。
それよりもと言って弓をフィーナに渡す。
「弓の練習にちょうどいいからな、ほれ」
フィーナが弓を受け取り構える。
「違う違う。あんた弓は初めてか?」
「え、ええ」
弓はまだやってない。
「新兵か。そっちのちっこいのと一緒の所属ならそりゃ新兵かぁ」
威嚇射撃中の見張りの兵の人がフィーナに弓を教えている。
弓を構えるフィーナは格好良い。狩猟の女神かな?
そんな事を考えながら息を整える。
からだいたい。フィーナの格好良さで紛らわしたい。
びゅんとフィーナが矢を放つ。外れたらしい。
矢をじゃんじゃん放っている。
他の見張り台からも矢がどんどん降り注いでいる。
どれもキレがない。新兵の訓練にされているんだろう。
獣よ。これに懲りたら人里へ近づくな。生きて帰れると思うな。
お嬢ちゃんは大丈夫か?と矢の用意をしていた、ラエル達の相手してくれている兵がラエルに声を掛ける。
こくこくと頷く。からがいたい。
「そんな反動のある強化魔術を使った後なら無理すんな。ほれ、息吸って、吐いて」
そんな事をしているとどこからか水を差し出される。それを受け取り飲む。
水が重い。手が震える。体痛い。
「きゅあー!」
唐突な痛みに思わず声が出る。痛みに波があるのだ。
身体強化魔術の反動だ。別に危険なやつ、ラエルが無意識に使っていたような物じゃない。
それでも負荷が高く反動で痛いのだ。適切な回復処置をすれば問題はない。
フィーナもそれがわかっている。だからラエルに目で合図する程度で、弓に集中している。
柵を登ってきた、それも自分より大きい人を抱えて。
それだけで見張りの二人も状況把握できている。
だから必要以上の心配はしていない。
こうなるからこれはラエルの奥の手なのだ。
ふぃーふぃーと息をする。
視界に入る他の見張り台が僅かに光る。
うっすら見える風の刃が。魔術の訓練も始まったらしい。
恐ろしいことです。本当に。
獣もこれに懲りたら人里に出てくるべきではないね。
まぁ生きて帰れないだろうけど。
ラエルは魔力をゆっくり流して拙い回復魔術を使う。
それから体力回復魔術。強化していたとは言え全力疾走したのだ。体力の消耗は激しい。
調子に乗って草刈りしてたせいではない。断じて調子には乗っていない。
ラエルはぬくっと立ち上がる。
「お、ちっちゃいのも復活したか?」
わしわしされる。ほれ。と弓を渡されたので受け取る。
フィーナの隣に立ち教わって矢を構える。ゆっくりと下を見る。
地面が遠い。きゅっとする。
……高い!怖い!わーん!
ささっと後ろに下がる。
「おいおい、ちっちゃいの。大丈夫だ。あいつは登れないさ」
ぶんぶん首を振る。そうではない。そうではない。高いのが!怖いのだ!
空は違う。大地に足をつけて。そう。なんで、こんな宙に居るのだ。
座り込む。大地ではないが木材が安心する。
うぇー……うぇー……と呻く。
「もしかして、高い所が怖いヤツでは?」
そう、そうなのです!力強く頷く。
「慣れれば怖くないさ」
ぐいぐいと前に連れて行かれる。
小さいラエルは大人に無力。
「ほれ構えて。獲物をよく見て。目は閉じるなよ」
構える。しぶしぶ。
黒い毛むくじゃらと目が合う。粒らで可愛いおめめ。
ずんぐりころころ可愛い体。牙がするどい。きょうあく。
……お、お前のせいで。お前が生きているせいで……
ぐっと弓を構える。
息を吸う。息を止める。息を吐く。
弦を引く。筋力が足りない。弾かれる。
ゆっくりと丁寧に強化魔術を発動する。
再度弓を引く。矢を放つ。
毛むくじゃら死すべし!
刈り取れ!命を!矢よ!生命を刈り取る鎌になれ!
弦を放つ時に手がぐわっとブレる。
矢が、ゆるゆると獣とは全然違う方へ、山を描き飛んでいく。
真下にこう、弩?の様にまっすぐ打ち込んだんですが?ブレた時に射出したせい。
「ま、ちっこいのには弓はまだ無理そうだな」
と、見張りの二人が笑う。
怖くなってきたのでささっと後ろに下がる。
魔術いっぱい使ってお疲れです。休みます。
自分で水を魔術で出して黙々と飲む。
これくらいは出来るのです。おつかれ?しらない。
ギャー!とか何か人ではない物凄い叫び声が下から聞こえてくる。
毛むくじゃらの断末魔か!とフィーナを見る。
とっても悔しそうだ。仕留めたのはフィーナではないらしい。
「弓って面白いわね」
フィーナは弓にハマったらしい。後方支援の武器だし、お嬢様向きで良いのでは?
肝心の腕の方はよく見てないのでわからないが。
「お疲れさん、ほれ、矢を拾いに行ってこい」
あい、と返事をして見張り台から降り……降り……
高い……高い……
「ほれ、ちっこいの」
さっとおんぶされて強制的に地上へ。
ぐえっぐえっと目から水が出てくる。
ラエルは地上に転がされて。
見張りの人が頑張れよーこれから良いことあるさーと見張り台へ戻っていった。
「ラエル。貴女高い所苦手なの?」
苦手です。と答えたいが上手く喋れない。
おーい、とアールとペッタポッタが駆け寄ってくる。
リュクスはゆったりと歩いてこちらに来ている。
うーうーしょっぱい。
「ラエル、大丈夫か!」
アールがラエルを起こす。
何処か怪我でも……とペッタポッタと二人焦っている。
「ラエルは高い所が怖かったらしいのよ」
なんだ。とラエルから二人は少し離れる。
「高い所苦手かぁ……ああいう所で見張りとか出来るのか……?」
アールの声にラエルは怯える。
何時間もあんな所で気を張って見張りとか無理だ。
ラエルはゆっくりとアールに立たせてもらう。
大地の力って素晴らしい。足から流れ込む力!むん!
「全員無事だな」
リュクスが声を掛ける。
「じゃあ、戦後処理だ。矢の回収をする」
矢が勿体ないもんね。大変だなぁ。




