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そんな感じで情報収集しつつ日々が過ぎていった。
途中あった休日にちょっとお出かけした。
吟遊詩人とかいうのが何か広場で歌っていた。
季節のお歌らしい。歌詞は酷かったが、歌はいい。楽しい。
ラエルが歌、音楽に興味を示したので、そろそろ楽器の一つでも嗜んでみる?
というラエルの勉強が増える話をフィーナ達が進めていた。
急がし、急がし。やることが多い。
エヴも流石にきつく言われたようだ。絡んでこない。
訓練もいい感じだ。大丈夫そうとリュクスに言われた。
つまり、平和です。
演習へ出発する当日。
個人の荷物は演習の手引通りに書かれていた通りに準備したので大丈夫。
皆で確認した。大丈夫。
馬車に乗る。参加する部隊が六。そのうち新兵の部隊はリュクスとエヴの部隊だけ。
まぁ均衡を考えて新人と、ある程度の熟練部隊の混成で行くらしい。
全部隊での交代制らしいからね。とはいえ、遠方の危険な地域は精鋭部隊だけが担当らしいが。
だから精鋭部隊は近場の担当にはならないらしい。大変ですな。
護衛に騎士が二部隊。隊列の前後に配置されている。
騎士も新人。
……新人と言っても、それなりに戦闘経験というか。
軍属経験のある皆さんなのでかなりの手練れだそうだ。
騎士としては新人なのでこの護衛任務で経験を積むらしい。
新人の騎士に要人警護は無理なので、こういう任務で護衛訓練するらしい。
騎士の皆さんは動きが違う。新人でも騎士になるためには軍で経験を積まねばならないのだ。
新人でも熟練者だ。頼りになりそう。頼もしい。
御者はリュクスとアール。馬の扱いを皆でリュクスに教わる予定だ。
リュクスの負担が大きいが、学生時代の地獄の訓練に比べれば。
何ということはない。と事前説明で言っていた。
貴族の学校は大変なんだなぁとふんふん話を聞いた。
軍関係の学校は実際かなり大変らしい。
まぁそんなわけで、その積み重ねの先にいる騎士は凄い。
と、改めて憧れの眼差しを近くの騎士に送っておく。
ラエル達新兵の訓練とか、子供のかけっこみたいなものだ。
と、エヴが笑っていた。
なんか腹が立ったがフィーナの手を握って我慢我慢。
馬車がとことこ進む。後方を覗くと後ろの馬車の馬と目が合う。
キリッとしている。
お勤めご苦労さまですと馬を労っておく。敬礼された気がする。
馬~馬~と眺めていると後ろの馬車のエヴと目が合う。
リュクスが御者の指導をやってるという事は、エヴも指導をしているという事だ。
さっと馬車に引っ込む。恐ろしいものを見たとフィーナに泣きつく。
馬、大変そう……とふと思う。
魔道具で馬の代わりを作ればいいのでは?と閃いたので尋ねる。
「馬の代わりの魔道具は大きすぎて王都じゃ使えないの」
とフィーナに言われた。例の王都の結界が原因らしい。
王都の結界の範囲内に入った瞬間に使い物にならなくなるらしい。
なので、広い王都だとどちらにせよ、馬のような移動手段が必要というわけ。
外は外で結界のような力場がぽこぽこ出たり、無くなったりしている。
ラエルが思いつくような利点も全部対策されていたりで魔道具、魔術は不便が多い。
馬の代替となれば魔道具の規模、物としての大きさは抜きにしても。
魔力や術式を含め大きいので、王都の結界に引っかかってしまう程度には使い勝手が悪い。
結局、馬の方が維持費や世話を考えても、魔道具より安価で臨機応変に小回りが利くという話。
移動の魔道具、魔術をある程度制限した方が面倒がなくて済む。
魔物がびゅんびゅん人里に転移してきたら洒落にならない。
だから何でも出来そうで意外と不便なのだ。
休憩になったので馬車から降りて食事の準備をする。
ラエルは孤児院でやっていたので多少自信あります。
孤児院では野草を取ってこっそり自分の椀に追加していたのだ。ふふん。
リュクスとペッタポッタ主導で料理を作る。
ペッタポッタは流石は森の住人。こういう野営はお手の物らしい。
アールとフィーナ、ラエルの三人は二人に教わりながら簡単な作業をする。
ラエルはできた具沢山スープをもしゃもしゃする。もしゃもしゃ。
根菜がもしゃもしゃ。味は嫌いではない。それより歯ごたえがいい。
てっきり携帯食料かと思っていたので、歯ごたえいいのは嬉しい。
野営を撤収して進む。次はフィーナが御者練習。
とことこ進んでいる。馬を見たいがエヴは見たくない。
そわそわ。
「ラエルは酔ってない?大丈夫?」
ペッタポッタが心配してくれている。
「大丈夫。とことこ。たのしい」
そうなんだ。気持ち悪くなってきたら言ってね。と撫でられた。
アールがペッタポッタと馬車の操作について話している。
それを大人しく聞く。ラエルも馬車を操作しなければならないのだ。
頑張ろう。
王都から近いとはいえ、流石に一日で村にはたどり着かない。
適当な所で野営する。今日休む場所、天幕やら夜営に使う魔道具をリュクスが設置する。
その間にラエル達はペッタポッタ主導でご飯の準備だ。
具沢山のスープを食べる。干し肉がいい出汁出てますね。昼のより肉多め。
細かく切った野菜がざらざらする。嫌いじゃない。
野営にしては結構手間がかかる料理だった。
この後は眠るだけなので少し手間がかかる料理にしたらしい。なるほど。
夜間の見張りは新人にはきついだろうという事で免除。
特にラエルやエヴ隊の孤児二人はちょっと厳しいと思う。
甘いと思いつつも助かった。
フィーナと女子二人天幕を一つ使う。小さいとはいえ魔道具なので快適。
リュクス含む男子三人は別の天幕だ。
この天幕の魔道具にお風呂は流石に無いので体を拭きあう。
もっとお高い天幕の魔道具ならお風呂はあるらしいが。
騎士の皆さんの天幕にはありそう。
そんな感じでおやすみなさい。
朝起きて周りに魔物との激闘の後を見つけラエルは怯える。
全然気が付かなかった。騎士様ありがとうと騎士様の居る方へ感謝しておく。
リュクス隊の馬車の馬に挨拶する。馬!
敬礼された気がする。馬~馬~
触っていいかわからないので適度な距離は保っている。
全員起きたので馬の世話をする。
昨日の世話はリュクスがやっていたらしい。王都での普段は担当の人がやってるそうだ。
櫛でとかしたり餌を上げたり色々。
ラエルは小さいので心配されたが馬は賢い。仲良くなれた。
馬ー馬ーと撫でさせてくれた。馬は敬礼しているように見える。
朝ご飯。具沢山スープ。あっさりめ。肉少ない。
芋のとろみが意外とお腹に貯まる。悪くはない。
なんか食料意外と色々ある。
御者はペッタポッタ。まあ、買い出しの時に腕はわかっている。
とことこ進む。
やはりとことこは素晴らしい拍子。ご機嫌な拍子。歌いたくなる。
フィーナに昨日の御者やった話を聞く。
リュクスがなんとかしてくれるから大丈夫よ。と、言ってくれたので心配はしていない。
小さいラエルじゃ制御出来るかわかんないし。
昼の野営。
具沢山スープ……というか、パンのおかゆ。
お腹にたまる。干し肉を炙って食べる。もきゅもきゅと。味濃い。
野営のご飯は色々試しているらしい。同じ、皆が飽きる。ラエルは同じでも良い。
食材も今回は豊富だけど、少ない場合は色々工夫しないとダメだし。
色々作れるようにならないと。
この後の御者はラエルの番だ。馬車に乗る前に馬に挨拶しておく。
へいへい!へいへい!と馬とやり合う。なかよくなった。
やっぱり、こう、誰が長か示さないと。
とことこと進む。
リュクスに言われたとおりに手綱を持って操作する。
「うまーうま~ばさしおいしい、うまー」
うきうきで思わず歌が出る。
ばさしってなんだろう?
「ラエル、ご機嫌なのはわかるのだが、その歌やめないか……」
うま?
リュクスが引いてる。何で?
「いや、馬可哀想だし……」
可哀想?馬が可哀想な歌なのこれ?
……馬ごめんなさい。謝っておく。
馬かわいいねぇ。とことこ。
周りは見事な草原。風でしゃわわと草が揺れている。
緑がしゃわわと波打っている。美しい草原。
とことこ。遠くでとことこ。
遠くで、しゃわわわわ……
草原があまりに見事だから……きっと。そう、きっと綺麗だ。
この緑が全て全て黄昏に染まればそれは美しい光景だろう。
ああ、黄昏に全部全部染めて燃えて。きっと最高に美しい。
そう『彼』の一番綺麗な魔術。あれで染め上げるに相応しい!
「黄昏に燦然と、か……」
「ラエル!」
リュクスが必死の形相でラエルを呼ぶ。
どうしたんだろう?
リュクスと目が合う。
――どうして、それを。
リュクスの口が。そう言ったように見えた。
「いや、突然すまない。魔力を使ったような気がして……いや、そんなわかるほどの魔力が」
何かぶつぶつ言っているリュクスが怖いので黙る。大人しくしておこう。
とことこ。とことこ。
歌を禁止されたので暇だ。馬は賢い。思うように進む。
何もすることはない。手綱は握っているが握っているだけだ。
前の馬車に乗っている人が、暇を持て余して時折、にこにこしてこちらを見てくる。
ラエルも初日にやってた事だなぁ。不審者と目があったので止めたが。
にこにこしておく。
とことこ。とことこ。すーすーむーうまーはやい。
声に出さずに心の中で歌う。声に出さなければバレない。
そうこうしている間に村についた。
馬車を駐屯地の指定位置まで持っていって、荷物を受け渡し、馬を厩舎に入れる。
馬~帰りもよろしくと固い握手を交わす。馬に手はないので気持ちだけ。
皆でお世話しておく。
「ラエルは馬が好きなのか?」
リュクスに尋ねられ頷く。馬は可愛い。
「少し、いや。かなり早いが、王都に戻ったら乗馬訓練するか?私の馬で」
馬持っておられると……流石はお偉い貴族様ですね。
馬に乗る。良い。乗ってみたい!
「では休日、暇が合えば馬に乗せてやろう」
わーい、うまーと踊っているとお子様だなという視線を感じた。
エヴが半笑いでこちらを見ている。ぐるると威嚇しておく。心の中で。
がまんがまん。
厩舎の外に出ると日が落ちてきている。
しばらく自由時間。といっても時間はほぼないので皆でだらだら休憩。
割り当てられた部屋へ向かう。
「ラエル、少し良いか?」
途中、リュクスに呼ばれ付いて行く。村の外へ。
村の外は草原が広がっており、夕日で紅く染まっている。
あの魔術で染め上げるのとは少し違う紅。これはこれで美しい。
『彼』の瞳に映る『私』はこういう世界に居るのだろうか。
ラエルもその世界に入ってしまったような……
「気に入った?」
リュクスに尋ねられ頷く。
「危ない事はしないように」
何故か怒られた。
ラエルは悪くない。えんざいです。
目に紅い世界を焼き付けて。皆の所に帰る。
リュクスは打ち合わせがあるらしく居なくなった。
隊に割り当てられた部屋に入ると皆がラエル大丈夫?と心配している。
怒られたのがバレている。ラエルは問題児になったつもりはない。
「お外、見に行った。大丈夫」
お外?と皆が不思議そうにする。
「ええっと。たそがれ、きらきら?おほしさまー」
思わず歌ってしまう。あれ、何か違うな?これ、歌だっけ?
「ラエルって偶に難しい言葉使うよな……夕焼けとかじゃなくて黄昏?」
「夕日見に行ってたの?」
黄昏です。と頷く。
草原真っ赤っ赤。綺麗。と説明する。
「おどって、もやしつくせーって感じだった」
もやしつくせー!で両手を天に掲げる。
うーん何か動き違う?どうだったかな?
……綺麗な景色の話かと思ったら物騒だな!とアールがわしわしラエルを撫でる。
なんか違うな?踊って?何だっけ。うーん。もっとこう。
「草原に火は危ないから止めようね。特に枯れ草の季節だと洒落にならんでしょ……」
火の海を想像したペッタポッタの顔が青い。確かに危ない。
森は特に火は怖い。物騒だった。反省。
「そろそろ時間ね、ご飯に行きましょう」
フィーナが話を終わらせ食堂へ向かう。一度外に出ないと食堂にはいけない。
外は薄暗くあの真っ赤な風景はどこにもない。
燃やし尽くした残り火のような薄暗い夕闇が綺麗。
『彼』の昏い目を思い出す。
食堂で食事を受け取って隊に割り当てられた卓に着く。
量が多い……食べれるかな……頑張る……
少なめと言えばよかったのかな……と皆の料理を見る。
ラエルのは少なめです……これが少なめかぁ……
「ラエル大丈夫?食べられる?」
ペッタポッタの気遣いがしみる。ささっと一品、男どもに提供する。
無駄は良くない。これでも多いなぁ。頑張るしかない。
大きくなれない。明日からは畑仕事?お腹いっぱいにしないと。
ここより王都の方がちゃんとした料理人だからおいしい。
調理担当の兵と専門の料理人との違い。仕方ない。
まあ野営のご飯よりは手間がかかっている分おいしい。担当の人ありがとう。
汁をざぶさぶ匙で口に入れる。
変わった味がしてて変わった汁だ。
何の味?すーすーする。
隣の卓に誰か来た。前に食事していた隊がいつの間にか居なくなっていた。
エヴ隊だった。目が合う。料理が不味くなった。
ぷっぷーぷーと抗議したいが我慢我慢。
リュクスもやってきた。打ち合わせ終わったらしい。
ざぶざぶ流し込む。このすーすー汁はきらいではない。
量が多いのでこんな匙だと減らない。
……ざぶざぶしているつもりだけど全然入ってないし。
フィーナが窘めてこないのでお行儀は良いのです。
パンかたい。
食事が終わり、リュクスに良く休みなさいと言われて解散。
フィーナとお風呂に入る。結構いい風呂だ。風呂がある時点で凄いことです。
フィーナお嬢様のお世話をさせて頂きます。と、御髪を洗う、えい……よ?にほにゃにゃらら。
フィーナ綺麗、よし!と仕事に満足しているとフィーナに洗われた。
むぉーん。
明日の準備を済ませおやすみなさい。




