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第1章 どうして取るの!? わたしの王冠なのに! その2

「カレー研究会とじゃがいも料理研究会の出店は食べたし……帰るか!」

「いやいや。まだ来たばかりでしょ」

「何言ってるの。じゃがいも頭脳大学の楽しみと行ったら出店くらいしかないんだよ! あとはなんか退屈な研究発表会ばっかり!」

「ちょ、ちょっと卯月。周りに聞こえるよ」

なにかにぶつかった。

「あ、ご、ごめんなさい」

通りかかった教授らしき男性が言う。「いいんだよ。学生さんからしたらちょっとばかり話が難しいからね。大学院レベルの内容を発表しているから、ただ、それを理解できないようだとじゃがいも頭脳大学の入学は難しいかもしれないなあ」と教授は少し挑発的な発言をする。

「参考になるご意見、ありがとうございます」と卯月がお辞儀をする。「去年はちんぷんかんぷんだったけど、今年はがんばってきいてみます」

「わ、わたしも」

「無理する必要はないよ。うちの学生たちだってほとんど玉ねぎ祭りの方に行ってしまうからね」と少し寂しそうに言い残して教授はいなくなっていった。「静かでいいともいえるけれどもね」


「どうする?」と卯月に聞く。

「ま、専門分野だからね。大学で学びたい分野の発表を聞きにいこうか」

「うん」

11時半に待ち合わせをして、わたしとお母さん、卯月と卯月ママで別れる。

わたしとお母さんが参加する研究発表会は、

『共産主義=贈与経済学における贈与の所得再分配効果と経営者の贈与戦略』

という長くて難しそうな題名の発表会にした。

ほかの研究発表会ももれなく難しそうな単語が並んでいたなかで、『経営』という単語と、ほかにも聞き覚えのある文字があったからだ。


研究発表会の場所は1号館2階の中教室。50人くらいの大人が来ていた。わたしより年下に見える人は一人か二人くらいだ。

「では、ただいまよりじゃがいも頭脳大学経営学部贈与経済学研究会の研究発表を行います」

と挨拶が始まる。じゃがいも頭脳大学経営学部の後期ゼミの学生たちと、教授が発表を始める。

端末に研究に関する論文や画像の資料が送られてきた。

その後のことは……よく覚えていない。難しい単語がたくさん出てきたことは……わかる。いや、わからない。

わたしもお母さんも15分も聞かないうちに寝てしまった。

突然の拍手の音に驚いて起きると、発表会は終わっていた。


部屋の外に出て、外の空気を吸う。少し涼しくてだいぶ目が覚めてきた。

「いやあ、なんか寝てたからよくわからないけど、あんたわかった?」とお母さんに聞かれる。

「ほとんど寝てた」

「そうだね。わたしも寝てた」

思わず笑いが出た。

「じゃがいも頭脳大学経営学部って難しいんだね」

「なにをいまさら」

「やっぱりじゃがいも大なんて無理だよ」

お母さんに背中を押される。「だいじょうぶ。あんたわたしと違って賢いんだからさ」

「まあお母さんよりはね」

「偏差値45くらいの大学にいったお母さんにはぜーんぜんわからなかったけど、頭のいい人にはきっとわかるんだよ。だから最後拍手が起こった。つるこも拍手をもらえるようになりなさいよ」

「うん」


その後、卯月と卯月ママと合流して、玉ねぎ中心大学に向かう。

玉ねぎ中心大学はじゃがいも頭脳大学のすぐ隣で、校門から歩いて3分で到着する。


こちらはさきほどと代わって、すごい人数が集まっている。

まず、熱気が違う。じゃがいも大は静かだったけれど、大学内から黄色い歓声が聞こえる。

「これが玉ねぎ祭り……」とわたし。

卯月ママが教えてくれる。「1日の平均来場者数10万人、文化祭4日間の合計来場数は40万人に達する日本最大のお祭りの一つ、玉ねぎ中心大学の学園祭、玉ねぎ祭り。卯月はお祭りの出店が好きなのよ」

「そうなんですか」

卯月が言う。「ほら、鈴が来たよ。母親と一緒みたいだ」

フランス貴族みたいな巻き髪、美しいドレスの美人が近づいてくる。まるでマンガの世界から飛び出してきたみたいなその雰囲気に圧倒された。すぐ横に頭半分くらい小さい少女が並んでいる。

「ごきげんよう。藤原さん、亀山さん。お久しぶりですわね」

女性が丁寧にお辞儀をする。美しい所作につい見惚れてしまう。

「ご、ごきげよ~」とお母さんは慣れない挨拶をするが、ぎこちなさすぎてみていて恥ずかしい。

「ごきげんよう、猫川さん」と卯月ママは慣れた様子で挨拶を返す。

「つるちゃん、ごっきげんよ~」

「あ、珍しいね。いつもはそんな挨拶じゃないのに」

鈴が答える。「玉ねぎ祭りの参加者はこの挨拶が普通なんだよ。つるちゃんママさんみたいになれない感じだとかっこ悪いから、いまのうちに慣れておきなよ。にんじんスコールカンパニーの社内ではこのあいさつなんだから」

そう。猫川鈴のお母さん、猫川花子さんはあの大企業にんじんスコールカンパニーの従業員なのだ。しかも、玉ねぎ子爵を持つ労働貴族様!

「鈴はいいよね。お母さんが綺麗で気品があって」

「外面だけだよ。家では割とズボラだったりするし」

「そうなの。ここだけの話、先週なんて……」

そのとき猫川ママの顔が近づいてきて、「楽しそうなお話をしているのね鈴ちゃん」と微笑む。

「うん。玉ねぎ祭りだからね。そうだ、玉ねぎ祭りといえばミスターコンだよね!」と鈴は端末を操作して、イケメンの顔がずらっと並んだ画面を見せる。

「どれどれ?」

「つるちゃんの好みのイケメンいるかな?」

「あ、28番の人が好き」とわたしがいうと、

「へえ、28番。渋いなあ。まあ、いい趣味してると思うよ。卯月なんて5番だから」

「ご、5番かあ。……なんか王子様みたい」

「身長みてみ」と鈴が画面を指さす。

「192センチ。卯月より大きいよ、この人」

「卯月ってああ見えて乙女でしょ」

「お姫様抱っこ願望あるんだよね。この人ならかなえてくれそう。腕も太いし」

そこに卯月がやってくる。「ちょっと、何の話してるんだよ」

「卯月の好きなイケメンの話だよ」

「ああ、さっきの話かあ。いいよね。玉ねぎ中心大学って、たいていの女子の好みの男子がいるから。じゃがいも頭脳大学に入学できたら彼氏とかできるのかな?」

「無理無理」と鈴がバッサリ。「卯月、素材はいい。すごくいい。けど、あのスパイクはないって!」

「あたしのスパイクを返せるくらい力強い男子にぎゅって抱きしめられて、お姫様抱っことかされたら、幸せだなあ」と卯月は乙女な表情を浮かべる。

「恋愛経験ゼロ、恋愛偏差値40代の乙女な女子はこれだから」と鈴がバカにしたように言う。

「うん。そうだよ」と卯月は目を輝かせる。「バレーボールも勉強もいいけど、恋に生きる人生もやっぱり素敵だと思うんだよ。その点、鈴はすごいよね」

「え?」突然褒められて動揺する鈴。

「そうだ! あたしがじゃがいも頭脳大学に合格したら、彼氏紹介してよ」

「う、うん。それくらいならいいよ」

「やったー」

珍しく少女に戻っている卯月。お母さんたちはというと、わたしたちと同じで、ミスターコンにエントリーしている男子を目を輝かせて見ながら、キャーキャー騒いでいる。

「人間、年をとってもあんまり変わらないんだなあ」と独り言。

「かっこいい王子様をみたらどんな女性も王女様だったころに戻っちゃう、そういう生き物だからね」と鈴。

「正直、記憶にないな。王女様なんて物語の中の存在でしょ?」

人差指を振って否定する。「いるよ」

「どこに?」

「王様の娘」

「あ、そっか」

「王女様は空想の存在じゃないんだよ。日本にはずっといたんだから」

「でも、わたしたちは違うでしょ?」

ため息をつく鈴。「そりゃあね、王女様じゃないけどさ、妄想の中でくらいいいでしょ?」

「うん。鈴の言う通り。わたしも王女様のつもりで楽しむことにするよ」

「それなら、ホストクラブだ!」

「え? ホストクラブ?」

「ほら、行こうよ!」小さな体の鈴が、右手でわたしの左手を全力で引っ張る。


「整理券を見せてください」とにこやかな警備員さんに止められる。鈴が整理券を見せる。

「どうぞ。玉ねぎ祭りをお楽しみください」

「鈴、整理券いつのまにとってたの?」

「1時間前について6人分。苦労したんだぞ」

「ありがとう」

玉ねぎ中心大学はじゃがいも頭脳大学と比べると狭く感じる。とにかく人、人で人だかりだ。

入場には整理券が必要で、入場したら一方方向にしか進むことができない。母娘6人で入場した。

「玉ねぎ中心大学のホストクラブには毎年行っているんですよ」と鈴ママ。

「でも、お高いんでしょう?」とわたしのお母さん。

「そうでもありませんわ。奉仕ポイントをためておけば大丈夫です。国営風俗店よりずっとお手ごろなお値段です」

「国営風俗店。噂では聞いたことあるんですけど、もしまして猫川さんは利用されたことあるんですか?」

「ま、まさかあ」と鈴ママが否定する。「ただ、利用したことがある人の話を伺ったことがあります。一晩で奉仕ポイントを1000ポイントくらい軽く使うそうですよ」

「せ、千ポイントですか」

母親が冷や汗をかいている。

「大丈夫です。しょせん学園祭の出店ですから」

列が前に進んでいくと分岐が現れる。

左が一般出店エリア。右がホストクラブエリア。

「右に進みましょう」と鈴ママ。6人は鈴ママについていく。

ホストエリアには5つの出店がある。

「さっきのミスターコンの出場者が働いているのよ。入り口に写真が貼ってあるから、好みの顔の人の店に入店すればいいわ」と鈴ママが丁寧に教えてくれる。

「さすが猫川さんは通いなれてますね」とわたしの母親。

「毎年最低3日はきますからね」と微笑む鈴ママ。鈴のイケメン好きはこの母親の遺伝なんだろうな、と思った。

「でも、わたし奉仕ポイントなんてもってないんですけど」とわたしがいうと、鈴ママが。

「心配しないで。基本料金はわたしが払うから」

「い、いいんですか?」とわたしの母親。

「ああ、つるちゃんママさんも基本料金だけなら構いませんよ」

「ありがとうございます!」と歓喜する母。

たぶん子供の分だけのつもりだったんだろうな、と思ったけどさすがわたしの母親。こういうときはちゃっかりしている。

「わたしは大丈夫ですから」と卯月ママは断る。

「そうですか。じゃあ、4人に基本料金分の奉仕ポイントを送りますね」

といって鈴ママは端末を操作してわたしの母と、子供3人に奉仕ポイントを送ってくれた。

「ありがとうございます」と卯月が頭を下げる。わたしもありがとうございますとお礼を言う。

「お気になさらないで。ここの良さは実際に体験してみないとわからないんですから」

その後は各人の推しのサービスを受けることにした。


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