Bölüm 1: Son Açık Artırma
この作品を読んでいただきありがとうございます。初めての方もぜひ楽しんでいただけると嬉しいです。
世界は、パラディスヘル・カンパニーこそが救済だと信じていた。
彼らは一度の戦争もなく、全ての政府を倒し、軍隊を解散させ、武器を破壊し、誰も想像できなかった平和の時代を約束した。
私たちはそれを心から歓迎した。
——あの日が来るまでは。
その声は、静かでありながら全てを震わせるように響いた。
「私はシノリ。お前たちの唯一にして永遠の支配者だ。自由を取り戻したいのなら、七つの大罪を探し出し、滅ぼせ。だが忘れるな。これは遊びではない。死なないように努めろ。」
こうして人類は一夜にして“所有物”となった。
目の前に、安っぽいゲームのような青い画面がちらついた。
【SYSTEM PANEL】
名前:エリノ
レベル:1
筋力:1
敏捷:1
魔力:1
知性:1
陽:0
【ストア利用可能】
私はそのパネルを見つめ、息が詰まった。信じられない気持ちと恐怖が混ざり合っていた。
これが世界の終わりなのか?爆発でもなく——チュートリアル画面で?
窓の外に目をやると、そこには形も大きさも様々な化け物たちがいた。影と牙と爪が街を引き裂き、人々を追い詰めている。
手が震え、心臓が爆発しそうだった。
こんな日が来ても、自分はきっと恐れず立ち向かうと思っていた。
なのに、どうして……どうしてこんなに怖いんだ?
私は台所に駆け込み、最大のナイフを掴んだ。指の関節が白くなるほど強く握りしめる。
「これが……最後の物語にはならない。」
そう言い聞かせた。でも、心の奥では確信が持てなかった。
——
エリノは割れかけた窓から混沌を見つめていた。怪物たちは家を引き裂き、隠れ遅れた人々を喰らっている。悲鳴が波のように響く。その音は現実感がなかった。
喉が焼けるように痛む。
ここに食料は十分ある。静かにしていれば、生き延びられる——そう自分に言い聞かせた。
理屈は正しい。だが、それはただ恐怖を隠す言い訳に過ぎなかった。
その時、青いパネルが再び光った。
画面の隅で赤いアイコンが脈打つ。
【新たなクエスト】
三時間以内にレベル1寄生ゾンビを10体討伐せよ。
失敗した場合、死亡。
言葉が滲んだ。パニックが胸を満たす。
「……嘘だ……やめろ……」
声にならない声を漏らし、後ずさる。
心臓が胸を叩き、ナイフを握る手が汗で滑る。
——死ぬ。
扉の隙間から恐る恐る覗くと、巨大な影が建物へ近づいていた。膨れ上がった灰色の皮膚が裂け、中から蠢く寄生虫が見えた。
レベル3ゾンビ。
玄関が粉々に砕け、化け物が突進してきた。白濁した目がこちらを捉える。
エリノは悲鳴を上げ、床に倒れ込む。ナイフが手から滑り落ちた。
目を閉じ、無我夢中で振り回す。
何か温かい液体が頬に飛び散った。
——静寂。
恐る恐る目を開く。
化け物の首は床に転がっていた。黒い粘液を垂らし、身体は入口に崩れ落ちている。
一瞬、何も考えられなかった。
パネルが再び光った。
【+2ステータスポイント獲得】
【経験値 +346】
【陽 +46】
荒い息を吐く。
自分でも信じられなかった。恐怖に任せて、三倍の強さを持つ怪物の首を落としていた。
それでも、ほんの小さな勇気が胸に灯った。
——あれを倒せたなら、まだ生き残れるかもしれない。
震える手で外に出る。
腐敗と血の匂いが鋭く刺さる。寄生ゾンビたちが這い回り、口から白い虫が蠢いている。最も近くの一体がこちらを見て、濁った呻きを上げた。
一瞬だけ逡巡し、飛びかかった。
戦いは最初とは全く違った。一撃ごとに体力を奪われ、動きは鈍く、息が切れた。二十分近く戦い、ようやくその体を地面に倒した。
【陽 +12】
次の一体。さらに次の一体。筋肉が焼けるように痛み、視界が揺れる。それでも、倒すたびにパネルに進捗が記されていく。
六体目を仕留めた瞬間、画面の隅が光った。
【レベルアップ!】
【レベル2に到達】
【+3ステータスポイント】
胸が僅かな満足感で脈打つ。まだ……まだ生きられる。
最後の寄生ゾンビが崩れ落ちる頃、手は麻痺し、腕は黒い粘液に染まっていた。
パネルが開く。
【クエスト達成】
【+2ステータスポイント】
【陽 +830】
視線は数字に留まった。
ステータスポイント7、陽830。
だが——
【視聴者:0】
乾いた笑いが漏れた。周囲では、他の生存者たちが新たな力やフォロワーを誇っている。
自分は、いまだに透明なままだ。
その時——
【視聴者:1】
体が固まる。パネルの隅に一つの数字が灯る。
心臓が跳ねた。
【???からのメッセージ】
「ステータスポイントをどう使う?」
喉が詰まる。幻かと疑ったが、パネルは脈打ち、選択を促す。
知性に全て振れば、何か策が思いつくかもしれない。
そう考えた。
だが——
別のメッセージが点滅する。
「生き延びたいなら、敏捷に振れ。」
息を呑む。
誰かが——自分を見ている。
震えながら吐息を漏らした。
「……わかった。」
敏捷に全てを振る。
瞬間、体が軽くなり、脚に力が漲った。
一歩。もう一歩。
ありがとう、と心で呟く。
だが返事はなかった。
パネルを確認しようとした時、通りの奥に影が立った。
息が止まる。
それは巨人だった。火に照らされた骨の冠が鈍く光る。
【ボス出現:ゾンビキング – レベル10】
空気が喉を塞いだ。
「……クソッ」
背を向け、路地に飛び込む。心臓が耳鳴りのように鳴る。
——隠れろ。息を殺せ。
崩れかけた壁の影に身を潜め、静かに息を整える。
パネルがちらつく。
震える手でストアを開く。
武器リストを走査した。ほとんどは桁外れに高価だった。伝説の剣、魔法の鎧——とても買えない。
だが画面の下方、ひとつだけ淡く光る短剣があった。
【オーディナリーダガー – 120陽】
それを購入し、両手で握りしめる。
お願いだ……ただ、通り過ぎてくれ。
路地は静寂に包まれた。
——影が差すまでは。
見上げる。
ゾンビキングがこちらを見下ろしていた。
そして——突進してきた。
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