第八話 新入生歓迎会
「お、おぉ…」
ライムとラッカルが食堂につくと、既に多くの生徒が集まっていた。人数にしてざっと400人といったところであろうか。また、それほどの人数を収容できる食堂を備えていることにも驚きを隠せなかった。これぞ我がポラリス王国が誇る商業学園ということか…。
「君たち、新入生でしょ?空いてる席ならどこでも座っていいよ♪」
長い黒髪が目立つ、優しそうな顔立ちのお兄さんに話しかけられた。おそらく、案内役を任されている上級生だろう。ライムとラッカルは彼に向かってぺこりと一礼して適当な席を探す。
「ご主人様、なかなか良い席が見つかりませんね…」
「そうだな…、というかまだご主人様呼びするのか…」
「そりゃ当然ですよ。私めは貴方の下僕ですもの」
「恥ずかしいからやめてほしんだけど…」
しかしラッカルは依然として聞く耳を持たない。
「あっ、あそこの席などどうですか?」
ラッカルが部屋の一角を指した。
「あそこでいいかもな」
ライムがそこへ向かい、席に着くと、ラッカルも付随してライムの横にちょこんと座った。
「別に、他のところへ行っても良いんだぞ?」
「いえ、あくまでも私は貴方の下僕ですので!」
ライムはもう諦めることにした。どうせラッカルに何か言ってもこれ以外の返事はこないのだろう。
「相席、良いですか?」
ふと、丸メガネをかけた少年と少しぽっちゃりとした体型の少年が話しかけてきた。おそらく、この子達も新入生なのだろう。
「ええ、もちろんどうぞ」
とライムは爽やかな笑顔でそれに応じた。
「ご主人様、よろしいのですか?」
ラッカルがライムの耳元で囁いた。
「ダメなことがあるもんか」
「だって、奴ら、ご主人様に気安く触れようと…」
「俺はどこぞの貴族などではないんだ」
とライムはラッカルのことを思いっきり睨みつけた。そんな二人の様子を見て、相席してきた彼らはきょとんとしている。
「こほん…、えー、ただいまより、新入生歓迎会を執り行います。私はこの棟の管理人を勤めておりますノースリーと申します。気軽にノーさんとでもお呼びください」
いつの間にか、食堂の前の方で管理人を名乗る、頭の禿げ上がったおじいさんが立っていた。
「今日は新入生諸君がこれから学園生活を楽しく過ごすための親睦会のようなものです。同級生はもちろん、上級生とも縁をつくるきっかけとなるかもしれませんね。さぁ、みなさん、晩餐としましょう!どうぞ、ご賞味あれ!」
ノースリーことノーさんは、そう言うと両手を広げた。
すると、奥の扉が開き、使用人が料理を持って次々と各テーブルに配膳してゆく。おかげで、美味しそうな香りが部屋中に充満していった。
「…おいしそう」
ライムは無意識のうちにつぶやいていた。
こんがり、ふっくらと焼けたパンに白く輝くライス。
みずみずしく、また生き生きとしてる葉物のサラダに思わずよだれが出てしまいそうになる魔物の赤肉。
どれも豪勢で食欲を促すものばかりであった。
「それではみなさん、どうぞ召し上がれ!」
その声と同時に男子生徒は一斉に食べ始めた。
「いただきます」
ライムは丁寧に手を合わせてそう言った。
「それ、なに?」
ライムの向かいに座った丸メガネの少年が不思議そうに見つめていた。
「ん?あぁ…、これは我が家で昔からやっていた食前の儀式みたいなものさ。食事は、他の生き物の命を頂いた上で初めて行えるものだろ?だから、こうやって感謝を捧げるんだよ」
そう言っていただきます、ともう一回軽く行って見せる。
「ほう…?イタダキマス…?」
「そうそう、そんな感じだよ」
「なるほどね。ところで、君たち、なんて言う名前なの?」
少しぽっちゃりとした少年がライムとラッカルを交互に見つめて聞いた。
「僕はラッカルだよ」
「俺はライムだ」
「なるほど、ラッカル君とライム君…って、今日前で話してたあの満点の!?」
ぽっちゃりとした少年があまりにも大きな声を出すのでライムは苦笑せざるを得なかった。
「まぁ、一応、ね。そんな驚くことじゃないと思うけど…。ところで、君たちの名は?」
「あぁ、申し遅れてちゃってごめんね。僕の名前はユーリ」
「僕はファビンだよ、よろしくねー」
丸メガネがユーリで、ぽっちゃりはファビンというらしい。ぜひ覚えておかなくては…。
「二人は仲良さそうだけど、知り合いなの?」
とラッカルが尋ねた。
「うん、僕たちは幼なじみでずっと仲良しなんだ。小さい頃からずっと一緒に遊んでたし」
とユーリが答えた。
「そういうライム君とラッカル君も仲良さそうだけど、同じような感じ?」
「いえ、私とご主人様はもっと深い関係でして…」
「ラッカル!!」
「私はライム様の奴隷なのです」
「えっ、そうなんだ。じゃあもしかして、ライム君は貴族様!?」
「ラッカル、貴様、さっきまで下僕とか言ってたくせに、さらにエスカレートさせやがって…」
ライムはラッカルを強く睨んだ。なお、ライムは知らん顔である。
「その、誤解なんだ。そもそも、俺とラッカルは今日初めてばっかりだからな…かくかくしかじか」
ライムはラッカルが強引に話しかけてきてひたすら勉強を教えるよう懇願されまくられてることや、ライムの親は商店を営んでいてちきんと(?)平民であることを丁寧に説明した。
「あっ、そうだったんだ。ライム君も大変だね…」
ファビンが同情の色を見せた。
「でも、そこまでして頭良くなろうとするには偉いよね」
とすかさずユーリがフォローを入れる。
「見方を変えればそうかもしれないが、こちらからすると良い迷惑だよ」
「にしても、なんでそこまでして頭良くなろうとしてるの?」
ファビンが最もな質問をした。
すると、今までにやけていたラッカルの顔から一切の笑みが消えた。思わずライムは身構えてしまった。
「うち、今は母さんが病気で寝込んでるんだよね。昔は両親で農業やってたんだけど、今は父さんが一人で…。しかもこのところは雨が全然降らないから全く育たないし、妹も二人いるから、家計的にもちょっとまずくてさ…」
「………」
ライムたちのテーブルには重い空気が流れた。他の場所ではワイワイと盛り上がっているだけに、ここだけが時も場所も隔離されているようだった。
「だから…」
ライムはラッカルの口にそっと手を当てた。
「もう、それ以上は言う必要はない」
「………」
「なんで、そんな大事なこと、先に言わなかったんだ。だって俺ら、【トモダチ】だろ?」
「…!」
「そんなことなら、俺が教えてやるよ、勉強」
「……え」
「ただし、その分覚悟はしろよ。生半可な姿勢見せたら教えるのは即刻やめるからな」
「…っ!ありがとう、ご主人様!」
ラッカルはライムに抱きついた。
「ちょ、やめろ!それと、ご主人様呼びももうやめろ!」
「じゃあ、これからはライム様と呼びますね。貴方様の弟子ですから♪」
「あーも、勝手にしろ!」
ライムは気恥ずかしさを隠すようにぶっきらぼうに言った。
「ふふっ、いいなー、僕にも教えて欲しかった」
「それな、僕たちにもお願い!」
「だめだ」
「そうですよ、ライム様にとって私は特別な存在なんですから♪」
「…それ以上うざったくされたら勉強教えないぞ」
「ええっ、そんなぁ…ごめんなさいごめんなさい!」
ラッカルとユーリとファビンが楽しそうに笑っている。ライムも自然と笑顔が込み上げてきた。
「せっかくの料理だ、冷めないうちに食べようぜ」
ライムは新しく出来た仲間たちと共に夕飯を頬張った。
こいつらとならなんだか楽しく過ごせそうかも…とライムは密かに思うのだった。
第八話まで読んでくださりありがとうございます!
この話の公開が遅くなってしまい申し訳ございません(。>ㅅ<。)
今後も誠心誠意執筆してまいりますのでどうぞよろしくお願いします!