第七話 入寮
「ねぇ、いつまでそこにいるつもり?」
比較的背が小さく、まとまった茶髪でくりっとした目が特徴的な男の子がライムの部屋の片隅に居座っていた。
「いえ、貴方に勉強の真髄を教えてもらうまで、ここを離れる気はありません!」
はぁ、と小さくため息をついたにはライム。
「えぇっと、君の名前は…」
「ラッカルです。いい加減、覚えてくださいよ…」
そんな事を言われても、とライムは思う。
勝手に人の部屋に押し入っておいて、この有り様とは、常識的にそっちの方が問題があると思うのだが…。
何故こうなったのか、それは数時間前に遡る。
「新入生はここで解散となる。寮に入る生徒は、今から寮に行くのでついてくること」
入学式が終わり、司会の女性がそう告げた。ライムは寮に入るので、エントランスで預けていた荷物を受け取りに行った。
「ねぇ、君がライム君?」
見知らぬ男の子に話しかけられた。
「君、満点取るなんて本当にすごいね!僕、そんな勉強得意じゃないからさ…。もしよかったら、僕に勉強、教えて欲しいな♡」
な、なんなんだ、こいつは…。いささか、おこがましい気がする。自分の名前も名乗らずに…。
「あの、君の名前は…?」
「あっ、僕、ラッカル。それで、僕に、勉強、教えてくれるかな?」
正直、あの入試の感じなら自分が勉強を教えてもなんら問題はない気がする。それに、前世では教職が本業だったのでものを教えるということは決して苦手ではない。しかし、こいつの図々しさが少し腹が立つ。
「ねぇ、あの子が代表の子?さっきは遠くてよくわからなかったけど、結構カッコいいのね」
「そうみたい。自分にも勉強教えて欲しいなぁ…」
何人か遠巻きでライムについて話しているようだ。しかし、彼はそれを煩わしく思った。
「ねぇ、無視しないでよぉ…」
ラッカルと名乗った少年は悲しそうな顔をしながらライムを覗き込んだ。
ライムはため息をつき、
「悪いけど、君に勉強を教える気はないよ、少なくとも今のところは、ね。まだ授業も始まってないのに、どうして自分でどうにかしようと努力をしない?」
そう言うと、ラッカルは唖然としていた。彼はもっとすんなりと了承してくれると思っていたのだろう。
「で、でも…」
でも、なんだよ。
ライムはそう思ったが、ラッカルから続きの言葉は出てこない。少し冷たくしすぎたかな、とライムは思い始めた。
「…そうだな、友達になら、なってもいい…かな」
気恥ずかしいので極力声を小さくして言った。
「ほんと!?じゃ、勉強教えてくれる!?」
前言撤回だ。どうやら、こいつには俺のことは勉強を教えてもらうだけの道具にしか見えていないらしい。やっぱり、こいつと関わるにはやめておこう。
「それでは、ここが皆の寮になる。向かって右が男子棟、左が女子棟だ。各棟のロビーに部屋名簿があるので、各自それを確認すること。確認したらもう部屋に入って構わないぞ。また、何かわからないことがあれば、ロビーにいる管理人に聞くこと。良いかな?それでは、楽しい青春を過ごしたまえ。では、また会おう」
といい、案内役の女は引き返していってしまった。
寮は外見も内見も、非常に綺麗だった。そして、ライムは名簿で自分の名前を探す。俺の部屋は…。
「ライム君!僕、702号室だったよ!最上階ラッキー♪」
自分でも血の気が引いていくのがわかった。
「ライム君は何階だい?」
そう言って彼は名簿からライムの名前を探し出した。
「えぇっと…え、ライム君!僕のお隣さんなの!?」
終わった、とライムは思った。
こんな奴と、三年間も隣だなんて…。これから先が思いやられる。
ライムはラッカルを無視して進み出した。
「あ、ちょっと待ってよ!」
ラッカルが慌てているが、ライムは一向に気にしない。ライムは7階へのテレポートリングを通して移動した。一瞬で着くので、前世にあった「エレベーター」より便利なのだ。
部屋に入ると、ベットや、椅子などが綺麗に置いてあるのが目に入った。そしてなによりも、ベランダからの景色の良さに感動した。7階より高い建造物がほとんどないということもあり、非常に見晴らしがよく、王都を一望できるのだ。
「ライム君って、景色を見るのが好きなんだね」
急に後ろから声がしてびっくりした。
「何故入ってきている!?」
「だって、鍵かかってないんだもん。それに、トモダチだから、いいでしょ?」
こいつは常識を備えていないのだろうか?呆気のあまり、怒る気にもなれない…。
「わかった、トモダチじゃだめなら、君の下僕になるよ。だから、僕に勉強教えてください!」
また、こいつは何を言っているのだろうか…。
…というのが、冒頭部分につながるのである。
そもそも、何故ラッカルはそこまでして勉強を教えてもらおうとするのだろうか?
「ねぇ、なんで…」
「ピンポンパンポーン」
ライムの声と同時に館内放送が鳴った。
「これから、新入生歓迎会を行います。寮に入っている生徒は2階の食堂に集まってください」
ライムは壁に立て掛けられた時計を見た。時刻は17時をすぎていた。
「行きましょうか、ご主人様♪」
そう言って、ラッカルはライムの方を見た。
「はぁ…」
ライムはため息をついて、部屋を出た。
第七話まで読んでくださりありがとうございます!
ついにこの作品も一万字を超えました!
ここまで書けたのも今まで読んでくださった方々のおかげです!
今後ももっと面白いのが書けるように頑張ろうと思いますのでよろしくお願いします!