第六話 入学式
「爽やかな春風が吹く今日、私たちは王立商業学園に入学しました。かけがえのない仲間と共に学び、きたえ、時には切磋琢磨し合い…」
ライムは今、入学式の新入生代表挨拶を全校生徒の前で行なっている。
「………以上、新入生代表挨拶、ライム=レポン」
なんとか噛まずに言えたことに胸を撫で下ろす。一礼し、最前列に用意されていたライムの席に座った。
「次は、学園長挨拶、一同、姿勢を正して!」
と、眼鏡かけの司会の女性が言う。
そして、学園長が上手から壇上に立った。50代半ばといったところであろうか。一目で紳士だとわかる、非常に良い身なりだ。
「みなさん、我が王立商業学園へようこそ!私が学園長のクラベルです」
声に威厳があり、よく通っている。最後列でもはっきり聞き取れそうな声だ。
学園長の挨拶に聴き入っていると、ライムは彼と目が合った。ライムの気のせいかもしれないが、クラベル先生が笑った気がした。
「先程新入生代表挨拶をしてくださったライム=レポン君は、我が学園史上初の入学試験満点合格でした」
「さっきの子が?確かに頭良さそうだったけど…」
「あの問題で満点!?バケモンだろ…」
厳粛だった場の雰囲気も吹き飛び、周囲がざわついている。ライムからすると、初めて知らされたその事実に驚愕せざるを得なかった。
いささか、今年は簡単すぎたのではないか?そんなにレベルは高くなかったのだと思うが…。
「今年の試験の平均点は3割ほど。例年は4割前後で推移しているので、今年はそれより難しかったと思います」
おいおい、嘘だろ?まさか…、前世の知識がチートすぎるのか?
「そんな彼を筆頭に、君たちには無限大の可能性が秘められています。ぜひ、我が校で空を翔んでください!」
学園長の挨拶が終わると、割れんばかりの拍手が会場で巻き起こった。
にしても、俺が史上初の満点合格だなんて思っても見なかったなぁ…。父さんと母さんに言ったら、どんな顔をしてくれるだろうか。
何故か、この世界(この国?)には子供の入学式を親が観に行くという文化がない。日本なら必ず観にきてくれるのだが。
ライムの前世では生まれる前に父が亡くなってしまい、その分母が女手一つで彼を育ててくれた。学生時代はともかく、それ以降は大学で研究に没頭していたのでとても親孝行などはできなかった。そうだ、今世では世界一の商人になって、せめてもの親孝行をしてあげようではないか。広い家を買い、旅行にも行き、美味しいものをたくさん食べて幸せな時間を過ごす…。
そんな安直な考えがひらめいたのだった。ガキっぽい夢だが、この世界ではあながち無理な話ではないのかもしれない。今のライムには前世の記憶と知識がある。日本と比べると文明の遅れたこの世界で、彼は密かにそう決心したのだった。
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