第三話 目覚めた世界
「見たこと…ある天井だな」
ぽつりとライムはつぶやく。
「ライム!起きたのか…!」
父がライムに抱きついた。
「うぅ…パパ、苦しいよぉ」
「そんなこと言ったって、お前、一旦目を覚したと思ったらまたすぐ倒れやがってよぉ…!」
「だからと言って泣かなくても…」
父の目にキラリと光るものが見えたのだ。
「…いや、泣いてなどおらん!その…これは、だな、ホコリが目に入ったのだ!」
いくらなんでも言い訳が苦しくないか…?でも、きっと、俺のことを心配してくれたのだろう。ありがとう、と口の中でこだまさせる。
大道は、前世では父は彼が生まれる前に亡くなってしまっていたので、父親を「パパ」と呼ぶ機会はなかった。にもかかわらず、それがすんなりと口に出せたのは、おそらくライムの元の記憶のおかげだろう。
「ライムっ…!」
今度は後ろから抱きつかれた。真っ黒な髪に優しそうな顔立ち。これが、3歳上の兄、デルクか。
「ライム…起きたのね…!」
この声の主が母か。うるっとさせた目で心配そうにこちらを見ている。やはり、みんな心配してくれているみたいだ。
「みんな…ありがとう」
「そんなこと言ったって…ライムが…溺れるからぁ…」
デルクが声をあげて泣いている。
「ほんとだぞ。パパが助けに行ってなかったらどうなっていたことか…」
なるほど、父が俺のことを助けてくれたらしい。さすが、頼れる父親といったところか。
ふと、外に目をやると、波が穏やかに音を立てていた。どうやら、ホテルの自室で寝かされていたらしい。
「大丈夫?ちゃんと立てる?」
ライムが体を起こして立ちあがろうとすると、母が心配そうに声をあげた。
「大丈夫。もうどこも痛くないよ」
どうやら、ライムの体は丈夫らしい。あんなことがあったばかりなのに、体を動かしたくてうずうずしているのがわかる。まだ5歳だからそんなもんなのかもしれないが。
「腹、減っただろ。メシにするか?」
と父が言った。どのくらいの時間、寝込んでいたのかは分からないが、少なくともその間は腹に何も入れていないはずだ。ライムは父と手を繋いで、食堂に行った。