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第二話 急な告知

「…知らない天井だな」

大理石で出来たいかにも高級そうな天井を見て、大道商(おおみちしょう)は言った。いや、厳密には大道商()()()人間が言った。

「ライム!ライム、目が覚めたのね!」

と、中年の女の人が言っている。

「そうか、この人は俺の母親で、俺はライ…」

そう考えたところで、耐え難い痛みが頭を走った。

「うっ…」

と言い、ライムはまた倒れたのだった。


不思議な夢を見た。

大道の目の前には整った顔立ちで美しく長い金髪が特徴的な若い女性がこちらを見つめて立っていた。

「ごきげんよう、大道さん。体調はいかがですか?」

と尋ねてきた。

何故この人は私の名前を知っているのだろうか?いや、仮にも私は経済学者だ。そっち方面に造詣の深い人なら知っていてもなんらおかしくはないだろう。私はこの人と面識はないと思うが…。

「えぇ、貴方のことは当然、存じ上げておりますよ。比較的著名な学者で、資本主義の優位性を説いた論文をきっかけに日本人初のノーベル経済学賞候補となったことも、出勤中の電車の中で通り魔に刺されて亡くなられたことも…」

そうだ、私は見知らぬ男に包丁で刺されたのだった。というか、この女は何故、私の疑問に答えたのだろうか?まだ一言も発していないはずなのだが…。

「私には貴方の心が読めていますよ。私は、これでも女神ですから」

と自称女神は言った。まぁ、百歩譲ってそれは良いとして、俺はこんなところで何をしているんだ?

「先ほど申し上げましたが、貴方、大道商さんは亡くなりました。本来、この世には、いわゆる【運命】というのがあり、その通りに世界は動いているのですが、稀に【運命】通りに動かないことがあるんです。簡潔に述べますと…」

「私は本来は死ぬはずではなかった。だが、何らかの理由で誤って死んでしまった、と」

「はい、おっしゃる通りです。さすが学者さんとでも言うべきでしょうか、物の飲み込みが早いですね」

「では…何故私は、ライムとやらに…?」

「実は、世界は予め定まっている【運命】通りに動かなくても、些細なことなら自然修復する作用を備えています。しかしながら、さすがに人の生死に関わるレベルまで行くと、そうはいかないんです。貴方は本来なら、天寿を全うされるはずでした。しかし、予定よりも早く亡くなられてしまったので、早い話、転生してしまったのです」

「は、はぁ…」

「それで、貴方の魂は、あの世界を出て、新しくライムという人間として生きていくことを決めたようなのです。残念ながら、そこまではいくら女神といえども、干渉できないのです…」

「すると…私はどうなる?」

「貴方はライムさんとして生きていくことになります。安心してください、貴方の今までの記憶が消えることはありませんし、ライムさんの元々の記憶もそのままです。最も、この世界は貴方の前世の世界と違いすぎて、その記憶が役立つかどうかはわかりませんが…」

「具体的に、どこが違うんだ?」

「まず、この世界には科学がありません。大抵のことは、魔法によって賄われています。人々は生まれながらにして魔力を持っていて、その魔力を元にして魔法を発動させています。ライムさんにも、魔力量は決して多い方ではありませんが、ある程度の魔法なら十分に発動できるほどの力はあります。あと、この世界の政治には民主制がありません。全て専制君主政治です。あ、でも安心してください。ひどい独裁などはほとんどありません。そんなことしてたら、民が税金を納めてくれないですからね」

「なるほど…。うまく状況は飲み込めないが、俺はうまく生きていけるだろうか…」

「はい、大丈夫だと思います。幸いにも、ライムさんの元々の記憶がありますからね。…あ、もう時間です。行かなくては…」

「まだまだ聞きたいことがあるが…。でも、色々ありがとう」

「いえ、これも私の仕事ですから。それと、最後にもう一つ。魂が転生して前世の記憶を引き継いだことは内密にしておかれた方がいいと思います。これはかなりイレギュラーなケースですから」

「そうだな、アドバイスありがとう」

「えぇ、貴方に幸あらんことを…」

大道は女神としっかりと握手を交わした。その瞬間、眩い光が彼を包んでいった。


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