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幕間① デルクの過去

「ライムが満点合格、ねぇ…」

母からの手紙を読んで男は一人にやけた。

その男の名はデルク=レポン。ライムの唯一無二の兄である。

母の手紙の最後には「たまには帰ってきてください」と記されてあった。彼は久しく実家に帰っていないのだ。

王立魔法科学園と実家は同じ王都にあるものの、なんせ王都が広すぎるせいでとても同じ街にあるとは思えないような距離なのだ。長期休みに何度か顔を出そうと思案したものの、その時間があるなら魔法の鍛錬をした方が良いような気がして、結局行かずじまいだったのだ。

デルクは5年前の、ライムが溺れた件を深く後悔していた。自分が、人が多いとか文句を言ってしまったから、危険な所まで行ってしまった。自分の鍛錬が足りていなかったから、甘えていたから、魔法で彼を助けることはできなかった。幸い、彼は一命を取り留めたものの、死んでしまっていてもおかしくはなかった。それから、彼はより一層魔法の腕に磨きをかけて行った。

「まだ10歳にもなってないのに、こんなに魔法が使えるだなんて天才だ!」

「デルク君は神童だね!」

周囲の大人がそう言っても、もう真に受けることはしなくなった。

「もっと、もっと…」

親にも無理を言って引退した冒険者を魔法の家庭教師としてつけてもらった。


そして、10歳となり、平民としては極めて珍しい首席合格。しかし、彼はそれでも驕ることはなかった。

「強く…、強くならなければ…!」

そう言った思いが常にデルクには渦巻いていた。


入学してから半年ほど経ったある日、職場体験の日がやってきた。職場体験での行き先は当日、教師がそれぞれの適性を鑑みて決めることになっていた。

「デルク…、君の行き先は王都近衛隊だ」

王都近衛隊。

この学校のエリートたちのほとんどが卒業後に就く仕事だ。主に、王都の警察・治安維持を担っている。収入もよく、名声も得られるので一番人気の職業だ。

「うおーっ、王都近衛隊だって、いいなー」

「まぁ、あの成績なら当然そうなるわよねー」

そう言った声が周りから聞こえてくる。

ただ、彼は王都近衛隊に特段興味を抱いたことはない。魔法が上手くなり、強くなれば良い。ただそれしか頭になかった。


引率の先生に連れられて王都近衛隊の事務所に行くと、制服姿の職員が慌ただしく動いていた。

「あ、魔法科学園からの職業体験ですよね!」ちょっと近くで大規模な強盗事件が起きたみたいなんですけど、我々だけで十分対応し切れるかわからないので、手伝ってもらえますか?」

と、職員の若いお兄さんが言った。いや、まさか、職場体験って本当に「体験」するんだ…。

「えぇ、ぜひ!ほら、デルク君、行くよ!」

と先生が言った。先生の目が輝いて見えたのは気のせいだろうか?

身体強化(ブースト)重力増大(グラビティ)!行きますよ!」

職員が一斉に駆け出した。デルクと先生もあわてて後を追った。

着いた先は大きなショッピングモールだった。

「どうやら、強盗事件が立てこもりにまでなったらしい。これより、我々による突破作戦を開始する!犯人は複数人いる模様。メインディッシュは我々で調理するが、取りこぼし等は君たちで頼む!」

と偉そうな職員がデルクと先生に向かって言った。

本当に凸るのか…。そう思いデルクは少し戦慄した。

「では、行きますっ!」

そう言い、職員たちは突入して行った。

「デルク君、くれぐれも怪我はないように!」

先生はそれだけいうと、目を輝かせて中に入って行った。いくら王都近衛隊に憧れているからって、生徒を置いていくなんて職務怠慢では…?

「いくしかないよなぁ…」

ライムは意を決すると中に入って行った。

一階は既に制圧されているのか、元々中にいたお客さんたちがぞろぞろと出てきていた。その近くの地面には犯人と思われる男が気絶して倒れていた。

どうやら、ここには犯人はいないようだ。そう思い、上の階に行こうとした時だった。

「たすけてっ!」

「っ!声を上げるんじゃねぇ!」

助けを求める女性の声と犯人と思われる男の声が店の奥であった。どうやら、スタッフルームからのようだ。

デルクは急いでそこへ向かうと、扉の鍵が閉まっていた。しかし、身体強化の効果があるので10歳児のキックでもドアを破壊することができた。

「それ以上は動くな!…って、ガキじゃねーかよ」

犯人の男は呆れたような声で言った。

「よぉ、坊主。いくらガキだとはいえ、それ以上近づいたらこいつの命はないぜぇ?」

と言い、女性の頭に魔石銃を突きつけた。

魔石銃とは、その名の通り中に魔物の心臓である魔石が入っている銃で、そのエネルギーを放出する武器である。その威力は元の魔物の強さに比例するが、ここからでは中の魔石が何であるかを特定することはできない。

「おい、聞いてんのか?ガキは黙ってママのところにでも帰りな!」

「…近づかなきゃ、いいんだろ…」

「はっ?」

重力増大(グラビティ)

「おうっ!」

刹那、男は地面に倒れ込んだ。それもそのはず、デルクは男にだけ元の100倍の重力をかけてやったのだ。

「おい、答えろ。このフロアにいるのはお前だけか?」

「うっ、誰がガキに…ああっ!」

「殺ろうと思えばいつでも殺れるんだよ。さぁ、答えろ」

「くっ…このフロアにいるにはお、俺ともう一人だけだ…。各フロアに二人ずついる…」

デルクは先ほど見かけた気絶した男を思い出した。すると、これ以上はこのフロアにはいないということになる。

「ほう…そうか」

デルクはどうすべきか悩んだが、結局重力増大(グラビティ)を解いて束縛(バインド)をかけ、身動きを取れないようにした。

「お前、ガキじゃ…」

「うるさい」

「んー、んっんー」

デルクは男に口にも束縛(バインド)をかけてやった。

「あっ、あの!ありがとうございます!」

先ほどまで銃口を向けられていた被害者のおばさんがデルクの手を取って感謝を述べた。

「………!」

あまりにも急だったのでデルクは言葉を返せなかった。

「おーい、デルクぅー、どこだー?」

ざっざっ、と何人かの歩く音とともに、先生の声が聞こえた。

「それでは、僕はこれで」

デルクは犯人をひょいと持ち上げて先生のところへ行った。

「おっ、デルク!…って、犯人いたのか!?」

「はい、店の奥に」

「なに!?私たちのミスだ。申し訳ない」

と言うと、職員の人が頭を下げた。

「いやぁ、でも、君、才能あるんじゃない?これ、完璧な束縛(バインド)だよ。卒業したら、ぜひおいでね。君ならエースになれるよ!」

「あ、ありがとう、ございます」

デルクは褒められたのが嬉しかった。だが、先ほどの女性の感謝も嬉しかった。今まで何も考えず、ただがむしゃらに魔法の腕を磨いただけだった。しかし、今回はそれが報われた気がした。8歳の時の自分は人を救えなかった。しかし、今なら…!


「はっ!…夢か」

どうやら、母に手紙の返事を書いている途中で寝落ちしていたらしい。

「夢っていうか、昔の記憶に反芻か」

そう呟き、書きかけの返事に目を落とす。

「…顔、出すか。いや、ライムと会うのが先か」

そう思い、彼はひとりにやけたのだった。







読んでいただきありがとうございます!

幕間のつもりが長くなってしまいました…

そのくらいいっぱい書けたってことで(?)前向きに捉えたいと思います笑

今後ともよろしくお願いします!

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