第十話 貴族の登場
「いよいよ今日から登校だな」
ライムはラッカルに向かってそう言った。
入学式から二日後の今日が初めての学園への登校日なのだ。おそらく、生まれ故郷から離れてはるばると入学してくる生徒も少なからずいるので、そういった人たちの近辺整理のための時間なのだろう。
「ライム様と同じクラスになれるといいなぁ」
ラッカルが独り言のように呟いた。
「バカ言え。俺はもうこれ以上、お前と同じ空間にいるのはごめんだ」
「えぇ、そんなぁ〜」
そんなことを言い歩いているうちに、校舎へと着いてしまった。一応、寮は学園の敷地内にあるので登校に関してはこれ以上ないくらい便利だ。最も、その土地代を考えると恐ろしいが…。
「確か、着いたら入り口でクラス分けが教えられるんですよね」
ラッカルが、今朝、寮の管理人であるノーさんが言っていたことをそのまま反芻する。
「おっ、あそこで先生が紙を配ってるぞ。多分、新しいクラスが書かれて…」
ライムが言い終わる前にラッカルは走って先生の元へ行ってしまった。
「全く、呆れるやつだな…」
幼い子供を持つとこんな気持ちになるのだろうか、などと思いつつライムも紙を貰いに行った。
「ライム様!同じクラスだったよ♡」
その瞬間、ライムは鳥肌がたった。校内でもこいつに付き纏われることになるとは…。神は私に試練を与えようとしているのか?それもネタバレなんて…。
しかし、心のどこかでほっとしている自分がいることにも気づく。確かに、ラッカルはうざったいやつではあるが、おかげで少なくともクラスでぼっちになることは免れるわけだ。それだけで、学園生活は大きく変わってくるだろう。
「ユーリとファビンは?」
「別のクラスでした。彼らは1年3組のようです」
「俺らは?」
「1組です。成績が優秀だったからですかね!」
とラッカルは得意げだ。
しかし、実際にはその逆だろう。
王立商業学園では、各クラスが成績を競い合い、その結果が個人の進級にも大きく影響してくる。そのため、各クラスでの成績分布は同じようにしなくてはならない。1組に圧倒的な成績をとったライムがいるということは、他の生徒の成績は大したことがない、もっと言えば平均点より低い成績だった子たちばかりが集められているはずだ。しかし、そのことをラッカルに説明するには面倒なので特にツッコまずに教室に向かった。
教室に入ると、既に数人が黒板の前にたむろって集団を形成していた。
「あの五星の紋は…!五大貴族のヒュール家!?」
ラッカルが驚いたように言う。
ポラリス王国は身分制社会で(そもそも王国なのだから当たり前だ)、全国で300以上の貴族の家が存在するらしい。下位層の貴族は庶民とほとんど変わらない暮らしぶりらしいが、あいにく王都であるカンナギシティにはそんな貴族はおらず、国でも非常に有力な5つの貴族が居座っている。そのうちの一つがヒュール家であるのだ。
「ほぉ、貴様がライムとやらか?」
ヒュール家の御子息がこちらの存在に気づくと輪を抜けて、隣にいるラッカルには目もくれずにこちらに向かってきた。
ライムはこの人生でも、ましてや前世においても貴族といった地位の人と話したことがなく、どのように言葉を返していいかわからなく、少し戸惑ったが、最終的に敬語で丁寧に話すのが得策だと判断した。
「私のような者をお耳に留めていただき、誠に光栄に存じます」
「知らないわけがなかろう。貴様は俺様が一位になる邪魔をしたのだからな!」
…これは、怒っているのだろうか?そんなことを言われても、お前が点数取らなかったのが悪くないか…?
「ライム様の成績が良いのは、努力のおかげだから、ライム様は悪くない!…のです」
ふと、ラッカルがヒュールの坊ちゃんに言い放った。
「あぁ?お前、何者だ?名前、言ってみろよ」
良いものばかり食べているからか、贅肉がついた体でラッカルに詰め寄った。
「この紋が見えないのか?俺様は…」
「ほら、席につけー」
40歳くらいの男が入ってきてそう指示した。
チッ、と小さく舌打ちしてヒュールのやつは自席に向かった。
「おい、ウルヒ、お前がいいトコのお坊ちゃんなのは知っている。だが、校則で身分を差を利用した言動は禁止されている。違反した場合、成績ポイントが引かれることがあるから十分に注意するように」
その言葉を聞き、ウルヒと言うらしいお坊ちゃんはその言葉の主を睨んでいる。
「そこで成績を落として留年だなんて、それこそ五大貴族のヒュール家の恥だぞ?」
男が嫌味ったらしく言う。ウルヒは悔しくなったのか、男から目を逸らした。
「ラッカル、さっきはありがとな」
ライムは隣に座っているラッカルにお礼を言った。
「い、いえ、なんのこれしき!」
「そこ、私語を慎めっ!」
ラッカルが思ったより大きな声で言ったので先生に注意されてしまった。
「さて、俺はこのクラスの担任になったアークだ。専門は商業貿易学だ。皆も知っていると思うが、我が校では各クラスごとで成績を競い合うことになっており、当然君たちの将来にも大きく関わってくるものになるのだが、その責任は担任である俺にも返ってくることになる。幸いなことに、このクラスには入試で満点を取った金の卵君がいるようだ」
と言ってアークはライムに視線を遣った。
「そうして、仲間と協働しあい、各々勉学に励むように!」
そこまで目立ちたいという願望がないライムにとって、アークの今の発言はやや不本意だった。
「それでは、朝のホームルームはここまでとする。一限目では各自自己紹介並びに本校のカリキュラムなどを説明する」
アークはそう宣言すると、足早に教室を出て行った。
10話まで読んでくださりありがとうございます!
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