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俺らは気づけば朝日が昇るまでお互いの話をしていた。
「なぜか、紫さんには話せてしまいますね」
そう笑いながら言うと彼女は、優しく微笑みながらこう言った。
「嬉しいことを言ってくれるねぇ、でも主さんも聞き上手だと思うよ?あたしもついつい昔話をしてしまったからねぇ」
昔話というのは、紫さんは実は東北出身で幼い頃にここ吉原に売られたのだという。
俺も出身は東北だからか、なんか親近感を感じた。
「紫さんは帰りたいと思いますか?、、両親に会いたいと思いますか?」
「両親ねぇ、、もう顔も名前も忘れちまったから会いたいと思わないし、もし会ったところであっちもあたしだと分からないかもしれないからねぇ、、主さんは里に帰りたいかい?」
「そうですねぇ、俺も帰れませんね、、だって俺は家出をしてこの歳までずっと江戸にいますから」
そう笑いながら言う俺を紫さんは一緒だねなんて微笑んだ。
朝日に照らされた紫さんの横顔がとても美しかった。
「そういえば、主さん、名前は?」
「俺は、、裕次郎と言います。」
「また、、会えるかえ?」
と寂しそうな顔で言うので、俺は必ずまた来ますと言って店を出た。
吉原の大門を出ようとした時、遠くから俺を呼ぶ慣れた声がした。一緒に来た男の先輩だった。
俺は慌てて駆け寄った。
「おーい!裕次郎!楽しめたか!?」
と上機嫌で俺の肩を組むので少し重いなと感じた。
「楽しかったですよ、連れてきてくださりありがとうございます」
「お!なら良かった!ならこの調子で仕事も頑張ってくれよ!?」
「もちろん、そのつもりですよ!」
「裕次郎、成人おめでとう」
そうだ、この吉原に来たのは俺の成人祝いをするためだった。だから今回は一銭も俺は出していなかった。
「ありがとうございます、あの、1晩いくらぐらいなんでしょうか?」
「そうだなぁ、、お前の給料2年分ぐらいか?」
それを聞いて、また来ますと言ったのを後悔した。
2年なんて、、長すぎるだろ、、
俺がガクッと肩を落としたのを先輩は見ていたみたいで、仕事を人一倍頑張れば褒美に給料をあげてやってもいいとの事だった。
この先輩は、呉服屋で金を操る達人といわれるほど金銭管理がとてもうまい人だった、故に呉服屋の主人は
この人に支払いや働いている人の給料を全部任せきりにしていた。
「はい!頑張ります!!」
この日を境に俺は、また紫さんに会いたい一心で頑張った。なんならしたことない営業までやり、他の呉服屋からうちに変えてくれた人まで居た。
俺は紫さんのことなどすっかり忘れて仕事が楽しくて、なんとあれから丸1年休みなく頑張って働いた。




