第六話 アトミックシャーク、死ぬ
連合軍司令部に届く報せは時間を追うごとに悲惨なものになっていった。
「旅団規模の被害がでています。送ったシャーマンは実に7割が未帰還、ドイツの部隊も被害は受けていますが既に撤退を済ませている模様です」
「北部の部隊は全滅です! 生き残りが救助要請をくれと」
「向かった爆撃機編隊と連絡がつきません! 恐らく撃墜されたかと思われます!」
呑気に葉巻をふかしていた司令官たちは頭を抱えていた。タイムトンネルは訳の分からない化物を呼び出し、肝心のヒトラーシャークは撃破できず味方にばかり損害を与える始末。おまけにフランスは火の海。
「観測者によるとヒトラーシャークの速度はマッハ3を越えるとのことです。現行のいかなる兵器もそんな飛行物体に効果はありません、訓練も不可能です」
「最初からそんな猶予などない! どうするんだ!? 肝心のタイムトンネルは全くの無意味。それどころか敵を増やしているではないか!」
悩みに悩み抜いた末、彼らが出した結論は……
「新型爆弾を投下しよう。それの力があれば奴等を終わらせられる」
「新型爆弾!? 核を使うのか!? 確かにあの威力ならばあの化物を始末できるだろう、ヒトラーシャークとて無事ではすまないだろうが……」
それからしばらくの間議論が交わされたが、結論は出なかった。
「新型爆弾を使用する! あれはあくまで生物だ、目に頼っているものと推定する! 目視が出来ない超高高度から爆弾を投下、肉片も残らず焼き払え!」
かくして連合軍司令部はこの作戦を実行した。
「どこを狙っている! 私はここだぞ!」
核爆弾投下の作戦が実行されたのを知るよしもないヒトラーシャーク、彼はいまだアトミックシャークと交戦中であった。
ヒトラーシャークはその圧倒的なまでのスピードでアトミックシャークの攻撃を掻い潜り、体当たりや大便攻撃を行っていた。
だが、ヒトラーシャークの攻撃はアトミックシャークに対してあまり有効ではなかった。
「ゴガァアアアア!!」
雄々しく咆哮をあげるアトミックシャーク、身体に無数の傷こそあるものの、いまだ倒れる様子はない。
戦艦の胴体に穴を開けるほどのその突進も、建物を一撃で粉砕する大便もアトミックシャークにはあまり通用しないのだ。
「こうなれば貴様の口腔から腹に潜り込み、その身体を内から破壊してくれようか!」
「ゴガァアアアア!!」
ヒトラーシャークはロケットブースターの出力を上げ更に加速する。
ヒトラーシャークはどこまでいってもサメ、いつ限界が来るかもしれなかったが、自身の破滅の可能性は頭の隅に追いやった。
「ジィィィィィクッ!! ハイルッ!!」
ヒトラーシャークは核光線の発射後、開いたままのその口に向かって全速力で突っ込んだ。
アマゾンのカンディルに倣い、アトミックシャークの体内へと潜り込んだのだ。巨大な鮫の歯が並ぶ口腔も今のヒトラーシャークには恐るるに足らず。
「おおおおおおおおおおッ!」
咆哮と共にヒトラーシャークは大便を吐き出しながらロケットブースターを全力稼働させアトミックシャークの体内を攻撃しながら暴れ回る。
どこか弱点のようなものはないか? 真っ暗闇の体内に目を凝らす。
アトミックシャークも相当苦しいのだろう、身体を激しく揺さぶりおぞましい咆哮をあげている。
だが気にすることなく進み続け、そして、見つけた。
「あれは心臓か!? よし粉砕してやる!」
暗いアトミックシャークの体内の中、青く光りながら脈動する内蔵がある。象やクジラもかくやというほどに巨大な心臓、ヒトラーシャークはそれに目掛けてフルスピードで突っ込んだ。
「ジィィィィィクッ!! ハイル!! ハイル!! ハイルゥッ!!」
心臓を突き破り、肉をえぐり、ヒトラーシャークはアトミックシャークの背面を突き抜けた。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
おびただしい血を吹き出しながら倒れ行くアトミックシャーク。遺言かわりの咆哮を聞いてヒトラーシャークは勝利を確信する。
「やったな。うん? 何!?」
しばらくその場を旋回していたヒトラーシャークの頭上から巨大な爆弾が一発落ちてきた。
そしてそれはやがて眩い閃光と共に炸裂、ヒトラーシャークは光と爆風に包まれた。