第二話 襲撃
フランス、ノルマンディーにて……
「我がドイツ帝国は明日には白旗を上げ明後日には私ヒトラーも絞首刑に処されるのであります!」
「アッハッハッハッハ!!」
夕方日が沈む頃、アメリカ海軍巡洋艦、タイコンデロガ級の甲板では休息ついでにアメリカ兵がヒトラーの真似をして遊んでいた。
上官も咎めることはせず、一緒になって笑っている。
「私のケツにご注目下さい! プリティでしょう? これは掘られるためにあるのです」
「ガバガバじゃねぇかくそったれめ! アッハッハッハッハ!」
ノルマンディーはドイツ軍による目立った抵抗はなく、アメリカ兵を含む集まった兵士達は作戦の成功を喜んでいた。
だがこれが後に誤りだったと気がついたときには、全てが遅かった。
『甲板に出ているそこの兵士共! 仕事だ!』
スピーカーから流れてきた言葉に、甲板の兵士達はすぐさま立ち上がる。
『12時の方向にレーダーの反応がある。ありえないスピードだ。3秒後有視界に入る。何か見えるか?』
「速度はどのくらいだ?」
『約……マッハ3』
「レーダーの故障だろ。そんな飛行機があるわけがない」
笑いながら指定された方向を見る兵士達、彼らが見たのは水平線スレスレを凄まじい速度で飛行する物体だった。
「艦橋応答しろ! ヒトラーの顔がついたデカいサメがこっちにむかってる!!」
『薬でもやってんのか?』
あきれたような口調の艦橋要員だったが、次の瞬間に彼らの言葉が真実だったと気がついた。
「ジィィィィィクッ!! ハイル!!」
凄まじい声量で叫ぶサメ、ヒトラーシャークの姿がそこにはあった。
口のちょび髭を風になびかせ、ただひたすらまっすぐに停泊中の軍船へと突っ込んでくる。
「対空砲撃てー!」
「クソッたれ! なんなんだありゃあ!」
「知るか撃ちまくれ!」
迫り来るヒトラーシャークに対し対空砲が使われたが、その全てが当たらなかった。
当然である。マッハ3の航空機など現時点で存在しない。いくら斉射したところで無駄なのだ。
「伏せろッ!!」
「ぐわあああッ!!」
そうこうしているうちにヒトラーシャークは艦艇に接触、艦艇に巨大な風穴を開け空へと消えていった。
凄まじい衝撃とヒトラーシャークの通りすぎた際に発生した暴風によって艦艇は転覆、兵士達は海へと投げ出された。
「ガッハ……なんなんだよあれは!?」
「ヒトラーの顔した化物だ! ドイツ軍の新兵器か!? それか神のいたずらか!?」
「神があんなもの作ったならアルマゲドンの前兆以外の何者でもない! 早く艦から離れろ! 渦に巻き込まれて死ぬぞ!」
海に落ちて息のあった兵士達は口々に恐怖を語った。
周囲を見渡せばヒトラーシャークの飛んでいった方角に対空砲を斉射する艦艇の姿があったが、おそらくどれも当たっていない。当たったとしてどれほどの効果があるのか分かったものではないが。
「おいまた来るぞ!」
「ジィィィィィクッ!! ハイル!!」
叫ぶヒトラーシャーク、今度は口から凄まじい速度で口から茶色い物体を吐いた。
『こちら4番艦! 救援要請! 救援要請! 助けてくれ!』
『2番艦やられた! 沈没する! 助けてくれ!』
『この艦は放棄します! お元気で!』
茶色い物体が当たった艦艇はほぼ全てが撃破され、口々に救援要請や別れの言葉を叫ぶと海の底へと沈んでいった。
「なんなんだよ、なんなんだよ畜生!」
「クセェッ!! クソだぜこりゃあ!」
ヒトラーシャークの放った茶色い物体がたまたま近くに着弾したが、その臭いを嗅いで兵士は顔をしかめた。ヒトラーシャークが口から放ったのは車ほどもある大便だったのだ。
「政治家は口からクソを垂れるなんて言うがホントに吐くやつがあるか!」
「おお神よ。どうか我等を救いたまえ」
「クソまみれになるのはごめんだ。とっとと上がるぞ」
この時ヒトラーシャークが撃沈したのは戦艦4隻、巡洋艦20隻、揚陸艦等400隻以上、その他中破、小破した船も加えるとキリがないほどだった。