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『少女K』、帰郷の道を直走れ。  作者: 糸目十半目
第一章 『一人迷子』
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01,第1節 『ありきたりな始まり』


「もしかしてここって・・・異世界ぃいいいいいいいーッ!!」


 さて、何故に私がこの様なことを叫んでいるのか、叫ぶ羽目になったのか、これまで数多の世界を見てきた "読者"の皆々様ならなんとなく・・・というか、大体のことは察しているだろうし、わかっているだろうし、なんならこの様な展開に飽きてしまっているだろう。


 だがしかし、まだ何も知らない

「私・・・初めてなの・・・」

という方もいるかもしれないので、念のため説明をしておくとしよう。

 というわけで少し、時を戻そう・・・



ーー少し(?)時は遡るーー


「あーづぅいッ!! なんでこんなに暑いんだいッ!! 夏だからか、夏だから仕方ないってッ!? だとしてももうちょっと涼しくてもイイじゃんッ!! もっと涼しくなれよッ!! つッ・・・そうだった頭痛かったの忘れてた・・・う〜」


と頭が痛むことを忘れるほどに夏の暑さへの怒りを露わにするのは、この御話の主人公・狐槌国乃(こづちくにの)である。


「ハァー、なぁーんで今日はこんなに体が怠いんだろ? 夏バテかな? てかなんでこんな日に限って防具持って帰ってきちゃったんだろ・・・・・・まぁいっか、良い感じに早退できたわけだしね。 そしてそのおかげで、愛しの愛しの"ぷりてぃい"で"びゅうてぃふる"な我が妹の、大事な大事な誕生日を祝うパーティの準備をする時間もたーっぷりとできたわけだし、ちゃっちゃと帰って飾りつけとか頑張っちゃうぞぉー!!」


 体調の悪い日に剣道で使う防具を持って帰ってきてしまったことへの後悔を胸に抱きながらも、夏の暑さと体の怠さを誤魔化すために、そう声を大にして叫び、妹への愛を糧に家へと帰るために全力で足を動かした。


 家へと着き、閉まっている鍵を開けて、「ただいまぁ」と家の中に入るも、"おかえり"と返ってこない。

 母の話では祖母がいるはずなのだが、道場の方だろうか。


 そんなことを考えながらリビングへと向かう。

 リビングへ通ずる扉を開くと、涼やかな風が吹きつけ、赤子に触れるかのように、そっと優しく肌を撫でた。


「ふあ〜涼しい〜極楽極楽ぅ。・・・・・・そしてこんな時にはあれでしょッ!!」


 そう言い冷蔵庫へと行き、"キンキン"に冷やしてあるお気に入りのフルーツティーを取り出し、グビッと勢いよく飲む。

 キンキンに冷えたフルーツティーの冷たさがほてった身体に染み渡り、果実達の酸味織りなす爽やかさが、鼻の中をスーッと駆け抜けていく。


 そのあまりの美味しさに


「プハーッ!! 美味い! 美味すぎる!」


と感嘆の声を上げる。


 そうしてひとしきり涼しい世界を堪能した時ふとあることに気づいた。


「ん? なんかめっちゃ汗臭くね? 私」


 そういえば帰ってきてから着替えていなかった。

 炎天下の中、重い荷物を持って帰って来たのだ、そりゃ服も汗だくになり、臭うはずだ。

 そのままで過ごすのも悪くはないのだろうが、可憐でピチピチ,プリティーな華の女子高生乙女が、汗臭いままなど許されるわけがない。

 それに大切な妹の誕生日パーティに汗臭いまま参加するというのは私のプライドが許さない。早急に身を清めなければ。


「よしッ! そうと決まればシャワーを浴びて、お着替えだッ!!」


 そう言い、私は自室へと着替えを取りに向かった。

 着替えを選んでいるとふらっと眩暈がし、視界が歪んだ。涼しい部屋で居たため忘れていたが、私は体調不良なのである。


「やっば、今のは流石にやばいわ・・・ 汗流したいけど、これは無理なやつだ。 少し・・・・・・横になろ」


 そう言い、ベッドに横になる。

 横になるも、体調が良くなる気配がしない。視界がずっとボヤボヤし、グルグルと渦巻いている。


 ーーあぁこれはホントにアカンやつや


 そう思ったと同時に、視界が真っ暗になり意識を失った。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



ーー死んでしまったのだろうか






ーー眠ってしまっただけなのだろうか






ーーどっちにしろ死んでいるのなら、

  このようなことを考える余裕などあるはずがない





ーーじゃ私まだ死んでないのかな



 段々と意識が形を取り戻していくのを感じながら、アレから自分がどうなってしまったのかを考える。

 意識がある程度ハッキリしてきた時、ふとあることに気がついた・・・・・・・・・・・・

 やけに周りが騒がしいということに。


 家族が帰って来たのかと思ったが、明らかに何かがおかしい・・・・・・家族にしては数が多い。


 それに、声が上から下、下から上、左から右、右から左というように、色々な方向へと移動しては消え、先程まで聞こえていたものとは全く違う別の声が聞こえてくる。


 自分の周りで何が起きているのかを確かめるため、恐る恐るゆっくりと目を開ける。

 寝起きだからからボヤける視界に、少し強めの光が注がれた。

 その光に目が慣れ、物事をハッキリと捉えられる様になった時、目の前に広がっていた景色に混乱し


「知らへん天井や・・・・・・」


と、思わず口から溢れてしまった。


 否、知らないというのは嘘である。寧ろそれはよく知っている景色だった。


 日常生活を共にし、その時々によって様々な美しい表情を見せ、遥か下の地上にいる我々を魅せてくれうる存在・・・そう、それは即ち"空"である。

 雲一つのない満点の青空が自分の目の前に広がっていたのだ。


 空があるのは不思議ではない、逆にない方が可笑しい。

 だが今回に限っては空が見える方が可笑しいのである。

 自身の直前までの行動を振り返ってみると、自分は自室のベッドで意識を失ったはずだ。

となると自分がいるのは屋内ということになる。

 それなのにも関わらず、目の前には青空が広がっているのである。


 自分に何が起こったのかを確かめるべく、身体を起こし、辺りを見回す。

 そして生まれて初めて、自分の目を疑った。


「こんなことってあるんかいな・・・・・・」


 目の前には漫画やアニメ、ゲーム等の創作物でよくみた景色、中世ヨーロッパの様な街並みが自身の視界いっぱいに広がっており、その中を鎧を身に纏い、大剣や弓などの武器を装備した者、兎やら猫やら動物の耳が生えた者から、"獣人"と呼ばれるであろう者達が忙しなく行き交っていた。


 私は長年の経験(ここ7〜8年ほど)から瞬時に理解した。

 理解はしたが、まだ夢である可能性を疑い、自分の持ちうる最大限より少し弱い力でおもいっきり頬を引っ張る。


「いッ・・・・・・でぇええーッ!!」


 結果、めちゃくちゃ痛かった。

 どうやら夢ではないらしい。


 だがそれでも夢である可能性を捨てきれず、再び横になり目を閉じた。そして少ししてから目を開け、また辺りを見回すも、やはり先程見た景色と変わらない。

 そのことを踏まえ、私は私自身に起きたことを素直に受け入れた。


「なるほどなるほど、そうと決まれば"アレ"を言わねばならんな」


 そういった後、スゥーと思い切り息を吸い込み、空を見上げ大声で、


「もしかしてここって・・・異世界ぃいいいいいいいーッ!!」


と叫んだ。


そして今に至るというわけなのであーるッ


ヘッ




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