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第95話(怪しい白衣)

途中でポッキリ折れた剣を左手にぶら下げながら、レイは再びマウンテンゴートの追走を始めていた。

だが、山羊の魔物は戦意を失ったのか、ひょいひょいと跳ねるようにして山の奥へ戻っていく。


「……山に帰るなら、まぁいいか」


深追いはしない。問題は手元の剣だ。このままじゃろくに戦えない。


マウンテンゴートが完全に姿を消したのを確認し、レイは町へ戻ろうとした。

その時だった。北門の上で、ひときわ鋭い光がきらりと瞬く。


「ん? なんだあれ……」


目を凝らすと、ファルコンの旗がはためく掲揚台に、望遠鏡をこちらに向ける人影が見えた。

白衣をまとい、白髪の男がじっとレイを観察している。


「北門の上に……白衣? なんであんなところでこっちを覗いてるんだ?」

(レイ、あの男……セリアさんやリリーさんが探していた白髪の男かもしれません)


「マジか? ってことは、このスタンピードの元凶も……」

(確証はありません。まだ虚ろな目の魔物は出ていませんから。ただ、あまりに都合が良すぎますね)


「よし、リリーさんたちに伝え――って、その前に!」


レイはムルンパンサーの死角に回り込み、魔力鞭を閃かせた。

ビシィッ、と音を立てて脚を絡め取られたムルンパンサーは、一瞬大きく体勢を崩す。


「今だ!」


すかさずBランク冒険者の戦士が斬りかかり、鋭い剣が脇腹を裂いた。

リーダーが矢継ぎ早に指示を飛ばし、アーチャーの矢が肩に突き刺さる。

魔法使いが呪文を紡ぎ、小規模の爆裂魔法で魔物の動きを縛り付けた。


「とどめだぁっ!」


ザシュッ!


リーダーが剣を振り下ろし、ムルンパンサーを袈裟懸けに斬り裂く。

魔物は地面に沈み、動かなくなった。


「……よっしゃ!」


勝利の息を吐いたパーティのリーダーが、レイの方を振り返る。


「よう! 何やったのかは分からなかったが……助かったぜ!」

Bランクパーティのリーダーらしき人が感謝の言葉をかけてくる。


「お役に立てたならよかったです」

レイは応じた。リーダーは笑いながら言った。


「お前さんすげーな。この時間でもあれだけ動けるなんて、まるで怪物だぜ!」


「お互い様ですよ。あ、オレはレイって言います。レイジングスピリットの剣士です」

「オレはジークだ。エンバーエンブレムのリーダーをやってる」


「これで一息つけますかね?」

レイが尋ねると、ジークは山を見つめながら少し真剣な顔で答えた。


「さぁな。山の気配がまだ不穏だからな」

「ですね。じゃあ戻ります」


「おう、頑張れよハーレムパーティ!」

「なっ!」


ジークがニヤリと笑いながら言うと、レイは赤くなり、慌てて振り返る。ジークは親指を立てて笑っていた。

レイは「臨時なのに…」と呟いて、トボトボとパーティのいる方へ引き上げた。


みんなのいる場所に戻ると、すぐに四人とも駆け寄ってきた。


「レイ君、大丈夫なの? 怪我は?」

セリアが心配そうに尋ねる。


「レイ殿、あまり驚かさないでくれ。寿命が縮む思いだったぞ」

フィオナも心配そうに声をかける。


「ポーションは売るほどあるから、痛かったら言ってね」

リリーも優しく言った。


「痛そうだったニャ。少年、いつもの三回転はどうしたニャ!」

サラは不満そうに言った。


「すみません、油断しちゃいました。でも体は平気です。それより剣を折っちゃった方が何倍も痛いです」

「何を言ってるの?剣は換えがきくけど、レイ君は替えが効かないでしょ?」

セリアが優しく言った。フィオナも同意して、真剣な表情で付け加えた。


「レイ殿。私たちはあなたを失いたくないからな」

すると、レイは急に真剣な表情になって、二人に呼びかけた。


「あっ、それよりリリーさんとセリアさん、ちょっと良いですか?

 今、マウンテンゴートを追っかけて山の斜面を登ったんですが、振り返った時、北門の上の掲揚台に白衣を着た白髪の男が立ってたんです」


「何ですって?」

リリーの表情が一瞬で険しくなる。


「えっ、本当なの?」

セリアが驚きで目を見開いた。


「北門の上……あの旗のある場所よね?」

リリーは遠く北門の方に目を向けた。


「はい。でも、こっちからは胸壁が邪魔で旗しか見えませんよね」


「……うん、でも私はレイ君を信じる。ただ、困ったわね。今はここを離れるわけにはいかないし」

セリアがそう言い、唇を引き結んだ。


「そうだな。戦線が不安定な今、持ち場を空けるのは危険すぎる」

フィオナも渋い表情で言葉を重ねた。


「でも、あの男が今回の騒動の元凶だったら……。それに、魔物の足音も今は遠のいてます。次の波が来る前に動くべきなんじゃないかと」

レイが真剣な表情で訴えた。


「……そうね」

リリーは息をひとつ吐き、意を決したように言った。


「まずはクレイ隊長に知らせましょう。今しかないわ」

レイたちは、騎士たちが守りを固める前線を慎重に横切った。


「すみません、すみません」

そう頭を下げながら領主のいる天幕を通り抜ける。

さらに足早に進み、衛兵隊のクレイ隊長がいる場所へと向かった。


騎士たちが鋭い目で戦場を見張っている中、レイたちはその背後を抜け、ついにクレイ隊長の元にたどり着いた。


クレイ隊長に白衣の男のことを話すと、隊長は眉をひそめながら確認した。


「その門の上に白衣を着た白髪の男が居ると言うんだな」

「はい、その男が望遠鏡を使って山の中を覗いているのを見ました」


「確かに怪しいが…」

隊長は一瞬考え込み、難しい顔をした。


「先ほど詰所に居たケイルだったか? その人が居ればすぐに面通し出来るんだがな…」

「私たちも動きたいのは山々ですが、まだスタンピードが収束したわけではないので、ここに報告に来るのも躊躇しました。でも今を逃すと、また探さなければなりません」


クレイ隊長は一息つき、決断した。


「分かった。とりあえず人をやって、門の上で何をやっているのか聞きに行かせよう、今はそれで手一杯だ」

「ありがとうございます」

「いや、報告ありがとう。とりあえず持ち場に戻ってくれ」


隊長は衛兵に声をかけ、数人を北門へと向かわせた。


リリーは悔しさを押し隠しながら言った。


「今は戻りましょう。悔しいけどね」

「はい、分かりました」

レイも静かに同意したのだった。


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